EP6-7 - そして新たな風が吹く
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「ほう。そんなことがあったのか」
フィニティの祖父母について話し合った翌日、アルバイトが休みのため久しぶりに部室へとやって来たハジメは昨日の出来事をリーバから聞いていた。
「納得だ。今日のフィニティは随分と明るかったからな」
「特別枠クラスでのことかえ?」
「おう。うっきうきでフレムーの問題に答えていたぞ」
「ほー。それは見てみたかったものじゃな。ここにいると本と向き合う嬢の様子しか見られないからのー」
彼女が言う通り、クラブ活動中のフィニティは研究室にある本を黙々と読んでいるだけで、誰かが声を掛けない限り話をすることはほとんどない。それは今日の活動も同じであり、リーバとハジメはフィニティに視線を向けるが、彼女はそれに全く気付かず本棚を背にして古文書を読み進めていた。そんな彼女が自分から周りに相談をしたということは、それだけ昨日は精神的に追い詰められていたということなのだろう。
「ところで、センがいない理由はわかったんだが、なんでエリーまでいないんだ?」
そう。今この場にいるのはリーバとハジメ、そして本を読んでいるフィニティのみだった。顧問であるセンと、いつもフィニティと共に行動しているエリーは今日、研究室に来ていなかった。
センが不在なのは教師の仕事と、昨日話していた古代魔法の研究機関への手紙の提出などがあるためだろう。だがエリーがいない理由まで、ハジメにはわからなかった。彼は首を傾げ、目の前にいる魔女はいつも通りヘラヘラとしている。
「さてのー。そもそもエリーは部員ではないからの」
「だが俺より出席率は高いだろう。何か聞いていないのか?」
「知らんのー。ま、エリーは理事長の娘じゃて。色々と忙しいのではないか」
「フィニティは何か聞いていないのか?」
この状態のリーバと話していても仕方ない。そう思ったハジメが質問の相手を変えてみたところ、本を読んでいた少女がはっと顔を上げる。
「あ、伝えてなくてすみません。エリーさんはさっき、誰かに呼ばれてどこかへ行きました」
「誰かって誰だ?」
「さぁ。見たことがない人でしたけど」
フィニティの知らない人物、そこからわかることは特別枠クラスの人間ではないということくらいだろうか。彼女がマージ・モンドへやってきてから大体四週間程度となるが、彼女の交流先は授業を受ける場である特別枠クラスの人々か、この古代魔法研究会の人員くらいしかない。
「外見の特徴とかはなかったか。髪の色とか、身長とか」
「うーん」
フィニティは視線を宙に移し、記憶を掘り起こすために数秒ほど沈黙すると、自身がなさそうに口を動かした。
「確か金髪で、センさんより少し小さいくらいだったような……」
「他には何かないか。エリーが何て呼んでいたかとか」
「んー」
再びフィニティは考え込むと、これまた自信がなさそうに言葉を紡いでいく。
「せーとかいちょー。って言っていたような気がしますが」




