回想 - 少女の遠い昔の話
「フィー、良くお聞き」
あれは遠い昔、あたしがまだ一人じゃ山を歩けなかった頃の、とある夜の話。
いつもは優しいじっちゃんが、その時だけは怖い目であたしを見た。
「なに……?」
イタズラをして叱られた時とは違う。その時の彼の目からは、こちらを思うような感情が全く感じられなかった。だからこそ、きっとこうして時々思い出すのだろう。
「もしいつかお前がワシらのもとを離れることがあっても、このことだけは覚えておいてほしいんじゃ」
深刻な面立ちでそんなことを言うものだから、あたしは思わず泣き出してしまった。いつもはかわいらしく思えた皺だらけのその顔が、その時だけはおぞましい魔物の顔のように思えたのだ。急に泣き出すあたしを見たじっちゃんは一瞬だけ困ったような表情を浮かべたあと、その考えを振りほどくかのように顔を左右に振り、再びその真剣な眼差しをあたしに向けた。
「よいか。お前が使える魔法は普通のものではない。普通じゃない力を持つということは、その力の意味を考えなければならない。わかるか?」
じっちゃんの問いは全く分からなかった。それは今も、当時も同じだ。
彼はそれが覚えてほしいことだとでも言うように、表情をいつものものに変えた。あたしの目の前にいたのはいつもの優しいじっちゃんだった。
「そうか。ならば大きくなった時にわかればよい」
「じっちゃんはおしえてくれないの?」
「うむ。ワシが教えられるのは魔法のことだけじゃ」
顔と同様に皺だらけの手があたしを撫でた。緊張していたからだろうか。彼の手から伝わってくるその心地いい温もりが、あたしを夢へと導く。
「いつかわかる。お前ならな」
その言葉は現実のものか、夢の中でのセリフなのか。それともあたしの記憶が作った捏造なのかはわからない。
だがあたしは、このじっちゃんとの出来事を思い出すたびに、魔法というものを考えるのだった。