第88話 直視出来ぬ尊き者？！
残る敵は大賢者アクイアス・セッテのみ。
燐火ちゃんの魔法だと火力が強すぎるから殺さずに倒す事が出来ない。
このままだと逃げられてしまう。
それが分かっているのだろう。
アクイアス・セッテは落ち着きをとりもどしている。
「さて、これからどうする？ 私を殺すのかな？ 大魔導士のお嬢ちゃん？」
「帰る」
「へっ？！」
アクイアス・セッテがこけそうになっている。
燐火ちゃん？！
どういう事？！
「下校時間だよ。じゃまな敵は排除したから、みんなで帰ろう！」
「今の内に逃げるのだ！ この怪盗ガウチョパンツが安全に帰れる様にエスコートしよう！」
すっかり忘れていた怪盗ガウチョパンツが生徒たちが無事に帰れる様に誘導していた。
「や～い、変態！」
「変態ではない！ 怪盗ガウチョパンツだよ少年！」
「解凍だって。冷凍食品温めてみろよ！」
「怪盗は電子レンジではない！ 怪盗とは神出鬼没の泥棒でねーー」
「犯罪者がいるぞ！ お巡りさ～ん！」
「ま、まて！ 私は正義の泥棒なのだぞ」
楽しそうだな怪盗ガウチョパンツ。
正義の泥棒ってなんだろうね？
一つだけ分かるのは、怪盗ガウチョパンツはアクイアス・セッテを倒してくれないって事。
「倒れろ大罪！」
「しず子さん、一人じゃ無理だよ！ 二人で攻撃だ！！」
しず子さんと増子さんが殴って攻撃しているが、防御魔法に阻まれてダメージを与えられないでいる。
「さて、仕切り直しとするか。その少女が帰るなら私の勝ちだな。鉱魔の力が戻るまで待てばよいのだからね」
アクイアス・セッテは余裕だ。
「どうするテプ。俺達はもう役に立たないぞ」
「相手の魔法少女が倒れたお陰で拘束から開放されましたけどね」
「悔しいけど、私たちはただの中学生でしかないの」
蒼羽さん達が無事に解放されたのは良かった。
でも戦う事は出来ない。
「燐火ちゃん、大賢者をやっつけないの？」
「うん。悪い大人をやっつけるのは、大人の役目だってパパが言ってたよ」
「でも大賢者は普通の大人ではやっつけられないよ」
「じゃぁ、普通じゃない大人に頑張ってもらおう！」
「はぁ、どうしよう……」
燐火ちゃんアクイアス・セッテを倒す気がないようだ。
今のところ無害だけど、逃がしたら悪事を働くと思うからやっつけたいんだけどなぁ。
燐火ちゃんが戦わないなら、後は天に祈るしかない。
もしも神様がいるなら、僕たちに力を貸して欲しい！
僕が祈ると同時に空気が変わったのを感じた。
えっ、本当に神様いるの？！
突然世界が紫に染まった。
そんな風に見えた。
幾重にも重なる紫の光の帯が降り注いできたから。
優しい紫の光が視界いっぱいに広がっている。
何が起きたのかは分からない。
でも、もう安心して良いのだと感じた。
状況を理解する必要すらない。
燐火ちゃんの魔法が神の怒りなら、この光は神の慈愛。
見上げなくても分かる。
この光の先に尊き者がいるのだと。
そう、神に匹敵する偉大な存在が……
僕は空を見上げようとして……すぐに目線を下げた。
直視出来ない！
そこにいた存在が偉大過ぎたからではない！！
目を背けなければならない物体があったからだ！！！
纏蝶さぁああああん！！
空から舞い降りて来たのは、纏蝶蒼真。
紅鳶町が誇る最強の怪人だった……
周りをみると全員がうつむいている。
そうなるよね。
神聖で厳かな雰囲気だから神の降臨を期待したのに、出て来たのが蝶の羽を生やした半裸でムキムキの筋肉男だったから。
下から見上げているから、見えちゃいけないところが見えそうでハラハラするよ……
そういえば、僕が狼煙がわりに使った魔力玉は陽翔お兄さんから貰ったもの。
陽翔お兄さんが使う道具を提供しているのは纏蝶さんだから、ピンチに気付いて助けに来てくれたのだろう。
「お店が心配だからすぐに片づけるわよ。こんな事になるなら、バイトさんを募集しておけば良かったかしら？」
纏蝶さんが困った顔をしている。
別に留守にしていても大丈夫じゃないかな。
あの魔窟に入れる勇者は存在しないから。
あっ！
アクイアス・セッテが魔力の塊を纏蝶さんに打ち込んだ。
「なにっ！ 魔力弾が効かないだと！」
「効くはずないでしょ？ 効かせたいならツボを押しなさいよ」
纏蝶さんが自身のツボを指差す。
「この化け物め！」
「二流の大罪さんから見たら化け物に見えるのかしら？」
「何だと！ 私は世界の力を得た最強の存在！ 攻撃が効かないのはこちらも同じだ！ タダの人間に私の防御魔法は破れんよ！！」
「薄いわよ。貴方の魔力」
纏蝶さんが殴るとアクイアス・セッテが吹き飛んでいった。
凶悪だなぁ。
防御魔法が破壊される音すらしなかったよ。
「この子はもらっていくわよ」
纏蝶さんがアクイアス・セッテを担いだ。
「待ちなさい蒼真！ そいつに止めを！」
「それは駄目よ。そんな残酷な事を言ってたら、しず子も大罪の仲間入りしちゃうわよ」
「待ちなさい蒼真！ 蒼真！！」
しず子さんが叫びながら纏蝶さんの後を追っていった。
「ほらね。大丈夫だったでしょ。テプちゃん、一緒に帰ろう！」
「うん。増子さん、星七さん、亜夕美さん、蒼羽さん。お疲れ様でした！」
僕は皆に挨拶した後、燐火ちゃんと一緒に帰宅した。
色々問題だらけだけの様な気がするけど、これで大賢者アクイアス・セッテとの戦いは終わりだね。
また僕達に平和な日常が戻ってくるのだ！！
