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第87話 大魔導士の相棒

「えいっ!」


 僕は気合を入れて纏蝶(てんちょう)さんから貰った指輪を使った。

 自分では見えないが、前に公園で使った時と同じであれば、僕は黒毛に変わり、赤い稲妻を(まと)っているだろう。

 妖精から魔獣になっちゃったよ!


「がお~! 魔獣になったぞ~」


 だ、誰か何か言ってよ!

 みんなが期待するから変身したんだよ!

 変身した僕が一番無意味だって分かっているけどさ、そんなにがっかりした顔をしないでよ!


「きゅう~」

「情けない声を出すなよテプ。何かないのか? 特殊能力とか?」


 オハコに能力を問われたが、そんなものはない!

 火は吐けないし、攻撃魔法も使えない。

 魔法力も妖精の時より低い。

 見た目は強そうだけど完全に弱体化しただけだよ。

 こんな物を渡すなんて(ひど)いよ纏蝶(てんちょう)さん!


「が、頑張ったわねテプちゃん」

「つ、強そうだとは思うよ」

「イカツイな。で、何が出来んだ?」

「もしかして弱体化されていますか?」

「大丈夫ですか?」

「す、凄いよテプちゃん!」


 ほらね、しず子さん達がガッカリしてる。

 当然の結果だよね。

 大賢者アクイアス・セッテも笑っているよ。

 僕の魔法力が減って弱体化しているのが分かるのだろう。

 ん、そういえば燐火(りんか)ちゃんだけ違う事を言ってたような気がする。

 燐火(りんか)ちゃんを見ると、しず子さん達と同じで驚いた顔をしていた。

 だけど……その顔からは失望を感じなかった。

 むしろ期待以上だったというような感じなんだけど……どうして?


燐火(りんか)ちゃん?! どうしたの?」

「凄いよテプちゃん! やっぱり追放されてパワーアップしたんだね!」


 燐火(りんか)ちゃんが嬉しそうに僕を持ち上げて肩の上に乗せた。


「何が凄いのかね? 見た目は派手になったけど、魔法力が減少している。お嬢ちゃん、パワーダウンしているのだよ。その妖精は魔獣に()ちたのだよ。魔法少女の相棒の失格だね」

「魔法少女の相棒失格の何が悪いの? いらないもん。魔法少女の相棒の妖精」

「り、燐火(りんか)ちゃん?!」

「これは傑作! いらないとはね。可哀そうだね君。私の仲間にしてあげようか? 私も必要ないけど、タダなら使ってあげてもよいぞ」


 悲しいなぁ……

 僕はいらない存在なのかなぁ……


「何を勘違いしているのおじさん。わたしの傍にいて欲しいのは大魔導士の相棒の魔獣。テプちゃんはね、本当は悪魔のような長い名前なんだよ。テプちゃんは凄い大魔獣なんだよ!」


 そんな風に思ってくれていたんだね。

 嬉しいなぁ。

 でも僕の名前って悪魔の様な名前なのかなぁ……

 パパが名付けてくれた立派な名前なのに。

 魔法王国の王家の名前なんだぞ~。


「僕はアルタロネクタネブ・アバ・センタンクトロルテプ6世! 燐火(りんか)ちゃんの相棒なんだぞ! がぉ~」

「なるほど。妖精と言うより、伝説の魔人の様な名前だな。でも名前だけで私の鉱魔(こうま)に勝てると思っているのかい?」


 誰が魔人だ!

 でも名前だけで鉱魔6体と魔法少女3人と同時に戦う事は出来ない。


「大丈夫だよテプちゃん。気づいていないの? わたしとテプちゃんの絆を」

「僕と燐火(りんか)ちゃんの絆?」

「そうだよ。わたしにはテプちゃんの魔力が伝わってきているよ」


 魔力が伝わる?

 僕は魔力の流れを感知した。

 本当だ!

 僕と燐火(りんか)ちゃんの間に魔力のつながりが出来ている!

 元々、僕達妖精は魔法少女に魔法力を送る力がある存在だ。

 だけど僕は燐火(りんか)ちゃんに魔法力を送れなくなっていた。

 燐火(りんか)ちゃんが変身ブローチを纏蝶(てんちょう)さんのお店で魔改造して大魔導士になってしまったからだ。

 でも今は魔法力が送れる様になっている。

 僕が魔獣になったからだ!


「今なら果実の魔法が使えると思う。前にテプちゃんに話したやつ」

「果実の魔法? 花じゃないの?」

「見たら分かるよ。見せつけてあげようよ! わたしたち二人の力を!」


 燐火(りんか)ちゃんが愚者(ぐしゃ)の杖を掲げ、詠唱を始めた。


 難を転じる逆転の果実よ

 全ての苦難の超える 数多の実を結び

 我が望む勝利の為に弾け飛べ

 光輝く勝利の実!


「弾けろ! 赫  々  南  天ナンディナ・ドメスティカ!!」


 燐火(りんか)ちゃんが詠唱を終えると、愚者(ぐしゃ)の杖の先の空中に光り輝く炎で出来た球体が沢山生み出された。

 これは神の炎で出来た南天の実?!


「な、なんだこの魔法は?! 行け! 鉱魔共!!」


 大賢者アクイアス・セッテが攻撃指示を出したが、もう遅い。

 光輝く球体が敵を追尾する。

 大賢者が操る鉱魔6体が一瞬で消滅し、魔法少女達は吹き飛ばされて倒れた。

 触っただけで消滅するって怖いな。

 魔法少女の3人が吹き飛んだだけですんだのは、燐火(りんか)ちゃんが直撃しないようにコントロールしたからだ。

 近くの地面にぶつけて爆風だけで倒すって凄いよね。

 でも大賢者アクイアス・セッテは爆風では倒せなかった。

 防御魔法で防いだから無傷なのだ。

 大賢者を名乗るだけの事はある。


「ば、ばかな! 鉱魔が……星の力の結晶が一撃で倒されるなどありえん」

「大魔導士の魔法で一撃で倒されない方がありえんよ」


 怯える大賢者に向かって燐火(りんか)ちゃんが自慢した。

 出た!

 勝ち確の大魔導士フラマ・グランデ様のモノマネだ!!

 あとは大賢者アクイアス・セッテに止めを刺すだけ……って駄目だよね。

 どうしよう?!

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