第82話 不死身のゾンビ作戦
「テプちゃん、どうする?」
燐火ちゃんが戸惑っている。
ここは僕がビシッと指揮をとらなけらば……と思ったけど難しいね。
敵対しているけど、相手の魔法少女達を出来るだけ傷つけたくはない。
ここは僕達の軍師に任せるしかない。
「芽衣子ちゃん、指揮をお願い!」
「任せてテプ君。増子さんは時間を稼いでください。その間に燐火ちゃんは防御魔法をお願い。亜夕美さんと蒼羽さんは鉱魔を倒してください」
「むごっ」
変な声で返事をした増子さんが三人の魔法少女へ向かっていった。
「どういう事? 鉱魔を倒すのは燐火ちゃんの役目ではないの?」
「説明は後です! 急いでください!」
「分かったわよ。亜夕美、足止めをお願い! 輝けオーラクリスタル! 希望の戦士! エンジェルオーラ!」
「任せなさいっ! 智慧の戦士! アクアオーラ! いくわよ、ウォーターウイップ!!」
亜夕美さんがアクアオーラに変身して、ウォーターウイップで犬の鉱魔へ攻撃を開始した。
二人なら鉱魔相手に後れを取ることはないだろう。
敵の魔法少女の足止めに向かった増子さんの方が心配だ。
「ウォーター・チェーン!」
「くらえっ!」
「ジャッジメント・カッター!」
増子さんがアクアオーラの水の鎖に動きを封じられ、コスモオーラにボコボコに殴られた後、エンジェルオーラの光の刃の直撃を受けた。
ま、増子さんが死んじゃう!
「痛かったぁ~。燐火ちゃん、後は任せたよ!」
吹き飛んだ増子さんがサクッと起き上がった後、燐火ちゃんの後ろに下がった。
あんなに凄い攻撃を受けたのに、どうして平気なの?
僕が驚いている間に燐火ちゃんが詠唱を始めた。
シルクのドレスの如き優雅な花弁よ
幾重にも重なり我を守れ
魅力に満ちた八重咲の花!
「立ち塞がれ! 金 鳳 劫 火」
シルクの様な柔らかい劫火の花弁が僕達を包んだ。
不滅の防御呪文金 鳳 劫 火だ!
「ウォーター・チェーン!」
「ジャッジメント・カッター!」
敵のアクアオーラとエンジェルオーラが攻撃魔法を放つが、燐火ちゃんの金 鳳 劫 火はビクともしない。
「エンジェリック・スメルティング ! クンツァイト・コア回収完了! 鉱魔を倒したけど、この後どうするの?」
どうやら蒼羽さん達は無事に鉱魔を倒せたみたいだね。
鉱魔が倒された事に気付いた三人の魔法少女達は、一言も発さずに撤退していった。
「逃げやがった! 追うぞ!!」
「待ちなさい。追っても返り討ちにあうだけよ」
しず子さんの魔法で回復した星七さんが追いかけようとしたが、蒼羽さんが止めた。
「でもよ! 許せねえだろ! 鉱魔を倒す為なら何でもする様な奴らだぞ!」
「ようするに少し前の星七と同じって事ね。私も同じだけど」
「亜夕美、てめっ……」
星七さんが亜夕美さんに反論しようとしたが途中で止めた。
色々思う所があるのだろう。
それより増子さんが本当に大丈夫だったのか気になる。
「増子さん大丈夫ですか?」
「大丈夫だ! 結構痛かったけどな」
「痛いで済む様に見えなかったですけど」
「最初からボコボコにやられるのは分かっていたからね、口の中に癒しの水を含んでたんだよ。不死身のゾンビ作戦だよ」
増子さんが元気に笑った。
そういう事だったのか!
だから変な声で返事していたんだね。
でも不死身のゾンビ作戦って魔法少女らしくないよ。
燐火ちゃんだけでなく、増子さんまで正統派の魔法少女から遠ざかっているよね……
「芽衣子ちゃん、鉱魔をコアにしちゃったけど、この後どうするの?」
「説明するから全員集合!」
芽衣子ちゃんの呼びかけを聞いて、僕達全員が集まると説明を始めた。
「新たに登場した魔法少女達は、たぶん蒼羽さん達と同じ魔法を使えると思う。彼女たちが私たちより先に鉱魔と遭遇したらコアを奪われるって事ね。だから今までの作戦だと、そのうち大賢者が全てのコアを入手出来てしまう。だから鉱魔のコアを全て集める作戦に切り替えたの。一度回収したコアは二度と出てこないからね」
「それなら最初からコア集めしとけば良かっただろ?」
星七さんの質問に皆が頷く。
そうだよね、最初からコアを集めても、大賢者に渡さなければ妨害は出来るよね。
「鉱魔を倒す事が悪影響を生むかもしれなかったからだよ。それに、コアを集めたら私たちが直接標的になると思ったから。相手は危険な犯罪者かもしれないんだよ。コアを預かるのは危険が高いよ」
「それなら私が預かるわよ」
蒼羽さんが名乗り出た。
「蒼羽さんは戦えないからダメだよ。私は燐火ちゃんに任せようと思うけど、どうかな?」
「正気か?!」
「賛成できかねます!」
「危険だと分かっていながら、何で子供に任せるの!」
しず子さんと増子さんは僕達の強さを知っているから頷いているけど、星七さん、亜夕美さん、蒼羽さんの3人は芽衣子ちゃんの意見に反対のようだ。
「大丈夫だよお姉ちゃんたち。私は最強の大魔導士だからね! 危ない時はさっきの防御魔法を使うから! しっかり鉱魔のコアを預かるから、鉱魔退治をお願いします」
「僕も頑張るから心配ないですよ。纏蝶さんから入手した魔法のアイテムもあるからね。だから信じてください!」
「分かったぜ」
「くれぐれも気を付けて下さいね」
「いざとなったらコアを捨てて逃げなさい。命の方が大事なのだから」
「気を付けるよ。最終決戦に向けて別の作戦も実行予定だからね」
「その通り。冥王である私の計画を遂行すれば、燐火ちゃんは新たな力を手に入れられるだろうからね」
燐火ちゃんと芽衣子ちゃんが楽しそうに笑い合っている。
二人の楽しそうな笑顔を見ていたら僕も楽しくなってきた。
でも、僕はこの時気づいておくべきだったのだ。
芽衣子ちゃんの計画の矛先が、どこを向いているのかーー




