第80話 世界を救った力
「蒼羽さんが鉱魔から皆を守る為に頑張ってくれている事は分かっています。だから大賢者さんが正しいか確かめたい。だって鉱魔との戦いは終わらないし、回収されたコアが何に使われているのか分からないから。大賢者さんが言ってる世界の危機って、具体的に何が起きるんですか?」
僕の問いかけに蒼羽さんは答えてくれない。
恐らく世界の危機について、詳細を教えてもらってないのだろう。
「何黙ってんだよ蒼羽。世界の危機だから凄い強い敵が出てくるんだろ? 鉱魔の親玉みたいなやつがさ!」
「何を言ってるの星七。まもなく寿命を迎える地球を救う為に鉱物の力が必要だからに決まっているでしょ」
「そんなの聞いてない! 亜夕美は考え過ぎなんだよ。世界の危機を救うって言ったら悪の親玉を倒すってのが定番だろ?」
「星七、亜夕美。少し黙ってもらえるかしら? この子達と話をさせて」
「なんだよ蒼羽! こんな子供達にケチつけられてんだぜ。黙ってられるか!」
「こんな子供達相手と思ってるなら黙りましょ。蒼羽が話したいならどうぞ」
「ありがとう亜夕美」
亜夕美さんが怒り狂う星七を連れて下がった。
「テプさんは私達に何をさせたいの?」
「しばらくの間、魔法少女としての活動を止めて欲しいです」
「鉱魔が出たらどうするの?」
「僕達が倒します」
「それで何が変わるの? 私たちの代わりに、あなたたちが鉱魔を倒し続けるだけでしょ?」
「大賢者の元に鉱魔のコアが届けられる事が無くなりますよ。コアが手に入らなくなって苛立った大賢者が行動を起こすのを待ちたいんです」
「それで? もしも大賢者が正しくて、本当に世界の危機が起きたらどうするの?」
「それなら問題ないですよ。ついて来てもらえますか? 芽衣子ちゃん、予定通り連絡をお願いします」
「オッケーだよテプ君」
僕が歩き出すと、蒼羽さん達がついて来てくれた。
無視して帰られたらどうしようかと思ったけど、ついて来てくれて良かった。
僕の出来る事はここまで。
あとは燐火ちゃんと、彼女達の力を信じるだけーー
僕が蒼羽さん達を連れて来たのは紅鳶山の山頂。
最強の魔女プロパガンダとの最終決戦の地だ。
燐火ちゃんの最強魔法の余波で山頂の木々は焼け落ちたままになっている。
神の炎で焼かれたこの場所に、二度と木々が生える事はないだろう。
このまま放置した場合の話なんだけどね。
「蒼羽さんは、この惨状が何で起きたのか知ってますか?」
「山火事じゃないの? 突然消し飛んで焼け野原になったって言ってる人もいるけど」
「ここは僕達が最強の魔女と戦った決戦の地なんですよ。その時の戦闘が原因で、こんなに荒れ果ててしまったんです」
「それが本当なら相当凄い敵だったのね。こんなに広範囲を破壊しつくす相手によく勝てたわね」
「違いますよ蒼羽さん。ここを破壊しつくしたのは魔女ではないのです。燐火ちゃん、大賢者の力を見せる時だよ」
「うん、大賢者だけに許された神の花を見せてあげる!」
燐火ちゃんが愚者の杖を具現化して詠唱を始めた。
開闢より受け継ぎし原始の力
連綿と続く魔道史において 比類なき永遠の炎よ
我ここに示す
真なる炎を前にして 滅せぬものは存在せぬと
万物を構成せし五行の力をもって顕現せよ
燃え上がる恋のごとき灼熱の花
「咲き誇れ! 紅 蓮 躑 躅!!」
燐火りんかちゃんの詠唱が終わると同時に、空に五芒星が浮かび上がった。
そして五芒星の中心から五つの先端に向かって、炎の花弁が生まれた。
空に浮かび上がる深紅の炎で出来た躑躅によって消し飛ばされた青空。
夕焼けよりなお赤き空に恐れおののく蒼羽さん達。
「蒼羽さん、燐火ちゃんなら世界を滅ぼす敵が現れても、逆に滅ぼせるので安心して下さい。実際に過去に世界の敵を滅ぼしてるので」
「で、でも。世界の危機が強大な敵ではなく、地球の寿命が原因だったらどうするの?」
「直せば良いだけですよ」
そういうと同時に空から黄金の光が降り注いだ。
「俺様の出番だ!」
神獣モードのオハコが飛んできたのだ。
オハコがいるという事は……
「癒しの噴水ですよ~」
しず子さんの癒しの水が山頂に降り注ぐと、地面から木々が生えて来た。
凄いな!
オハコのパワーアップと連動して、しず子さんの魔法もパワーアップしている。
「僕も頑張るぞ!」
増子さんが両手に持った巨大なじょうろで癒しの水をまきながら木々を足場にして飛び回っている。
「俺っちは寝てるから頑張れよ~」
聖獣モードのプレナが登場と同時に居眠りを始めた。
居眠りしていても増子さんに魔力を送れているみたいだね。
増子さんの運動能力が向上しているからね。
変身能力以外に力を得られたのは良かったよ。
しず子さんと増子さんの力で荒れ果てた紅鳶山の山頂が元通りになった。
「ほらね。癒しの水の力なら、地球が瀕死でも生き返るよ。何が起きても大丈夫だよ。世界なら一度救ってるからね。だから僕達を信じてよ」
僕は右前足を上げた。
「分かったわよ。テプさんたちを信じます」
蒼羽さんが僕と握手した。
良かった。
これで冥王軍の作戦の半分が完了。
あとは大賢者アクイアス・セッテを誘き寄せて、鉱魔出現の真相を突き止めるだけだね!




