第7話 忘れないよ
しず子さんの癒しの水が入ったじょうろで町を修復した後、僕は燐火ちゃんについて行く事にした。
今度こそはぐれない様にしないと。
燐火ちゃんは凄い魔法を使えるけど、10才の女の子なんだ。
妖精の僕が相棒として導かないとね。
今度こそ、人助けをして聖の気を集めて魔女の出現を食い止めないと。
燐火ちゃんの肩に乗って学校までついて行ったが、休校となり集団下校する事になった。
町の中心で謎のガス爆発が起こった事が原因らしい。
僕は目撃していないが凄い爆発だったらしい。
まぁ、燐火ちゃんの魔法と比べたら大した事はないと思うけどね!
人間の学校の授業が楽しみだったけど、次の登校日について行けばよいかな。
僕は燐火ちゃんと一緒に帰宅した。
そして燐火ちゃんのパパが帰宅するまで、二階の燐火ちゃんの部屋に隠れる事になった。
*
夜になり、燐火ちゃんのパパが帰って来たので自己紹介する事になった。
燐火ちゃんに連れられてソファーの上に乗せられた。
「パパ、ママ。これテプちゃん。飼ってもいいかな?」
「初めまして燐火ちゃんのパパとママ。僕はアルタロネクタネブ・アバ・センタンクトロルテプ6世。魔法王国アニマ・レグヌムの妖精です」
僕はお辞儀をした。
「お話が出来るウサギさんなのね。可愛いからママは賛成よ」
「パパは反対だよ。どこで拾ってきたの? 飼い主さんが探していたらどうする? 困っているかもしれないよ」
ママは賛成してくれたけど、パパは反対した。
「大丈夫です。僕は人に飼われていないので。僕が自分の意志でついて来ただけなんです」
「そうか、それならパパも反対しないよ。宜しくアルタロネクタネブ・アバ・センタンクトロルテプ6世君」
パパと握手をした。
凄いな燐火ちゃんのパパは。
一回で僕の名前を暗記したよ。
僕は自分の名前を正確に言える様になるのに7年かかったのになぁ……子供だったから単純に比較出来ないけど。
「よかったわね。テプちゃんは何才なの? 燐火ちゃんよりお兄さんかな?」
「僕は10才ですよ。燐火ちゃんと同じです」
「そうなのね。燐火ちゃんの同級生なら直ぐに仲良くなれそうねパパ」
「そうだな。良かったな燐火。珍しい友達が出来て」
「う、うん……」
燐火ちゃんが消え入りそうな声で返事をした。
どうしたのだろう?
燐火ちゃんの元気が無いような気がする。
少し気になったが、燐火ちゃんのご両親に認めてもらった嬉しさで忘れてしまった。
自己紹介を終えた後、僕は燐火ちゃんの部屋の押し入れに作ってもらった部屋で一晩過ごした。
*
翌日、目が覚めると燐火ちゃんにお出かけしようと誘われた。
昨日の爆発騒ぎの影響で今日も休校だったからだ。
最初に向かったのは燐火ちゃんと出会った公園だった。
「テプちゃん、覚えている? テプちゃんと出会った公園だよ」
「覚えているよ二日前の事だからね」
「良かった。まだ記憶は大丈夫なんだね」
「記憶は大丈夫? 僕の記憶がどうしたの?」
「何でもないよテプちゃん。次は私のお気に入りの場所に連れて行くね」
どうしたのだろう?
やっぱり燐火ちゃんの様子が変だ。
公園の次に郊外の小川につれてこられた。
「ここはね。友達と遊ぶ時によく来るんだ。こうやってね。石を投げるんだよ」
燐火ちゃんが投げた石が水の上をピョンピョン跳ねていった。
「凄いね燐火ちゃん。ピョンピョン跳ねてたよ。僕には出来ないな」
「ごめんねテプちゃん。テプちゃんは、もうピョンピョン出来ないんだよね……」
「えっ、まぁ、そうとも言えなくもないけど……」
違和感が凄い。
なんだか昔は出来ていたのに、今は出来ないと言われているようだ。
最初から、僕の脚では石をピョンピョン跳ねさせるような投げ方出来ないと思うけど?
「あっ、これ丁度いいかも。どうかな?」
燐火ちゃんが木の板を拾った。
流木だと思うけど……何を基準に判断したら良いのだろう?
良く分からないから、適当に相槌を打っておこうかな。
「丁度良いと思うよ。燐火ちゃんが選んだ板だからね」
「良かった。テプちゃんが気に入ってくれたなら」
理由は分からないが喜んでくれたなら良いかな。
今度は僕が燐火ちゃんを楽しませる番だ。
僕は燐火ちゃんが大好きな魔法の話をする事にした。
魔法の話題で盛り上がっていたら、大分時間が経ってしまった。
「燐火ちゃん、日が暮れる前に帰ろうか」
「うん、今日テプちゃんとお出かけした事……忘れないから。もっと沢山遊びたかったなぁ」
「そうだね。また来ようね」
僕達は一枚の板をお土産にして帰宅した。
*
翌日、目が覚めて直ぐに気になる物を見つけてしまった。
昨日燐火ちゃんが拾った木の板に『テプちゃん』と書かれていたのだ。
「え……これ……僕の名前?」
「そうだよ。お墓を作るときに使うんだ」
「お墓……僕の?」
「そうだよ。テプちゃんは10才だから長くないんだよね。前にモカを……犬を飼っていたから知ってるよ。ウサギの寿命はもっと短いんだよね?」
「ねぇ、燐火ちゃん。僕の事どういう風に思っている?」
「平均寿命を過ぎたおじいちゃん」
僕はウサギじゃなーい!
燐火ちゃんの様子がおかしかったのは、これが原因か!
「僕はウサギに見えるけど、妖精だから100年以上生きられるよ」
「なーんだ。心配して損した!」
燐火ちゃんが不機嫌な顔で部屋を出て行った。
勘違いとはいえ、燐火ちゃんが僕の事を心配してくれたのは嬉しいな。
全く同じではないだろうけど、僕を以前飼っていたモカと同じに様に思ってくれたのだから。
出会った時はゲームのモンスターくらいに思われていたけど、一応生物として認識してくれたって事だよね。
燐火ちゃんが家族を大切にしてくれる子で良かったよ。