第66話 裏切り
何とか燐火ちゃんの後を追いかけて帰宅する事が出来た。
今日は疲れたなぁ。
僕は押し入れからゲームで遊んでいる燐火ちゃんの後ろ姿を眺めていた。
燐火ちゃんは、なんであんなに元気なんだろう?
ゲーム画面に映るおかっぱ頭の中年男性を見てはしゃいでいる。
大魔導士フラマ・グランデ。
僕の宿敵のような存在だった男だ。
彼のせいで燐火ちゃんが正統派の魔法少女を目指してくれなかったからね。
でも最近は感謝しているんだよ。
ゲームで遊んでばかりの燐火ちゃんが運動も勉強も出来るのは彼の影響だからね。
僕がパパに憧れて成長している様に、燐火ちゃんもフラマ・グランデの影響で立派な大人になれると思うよ。
最近は僕もファンになりかけているんだ。
ゲームの登場人物で架空の存在なんだけどね。
さて、少し早いけど僕は先に寝ようかな。
明日も頑張って走らないといけないからね。
僕は眠りについた。
翌日、燐火ちゃんと一緒に走って登校した。
今日は最初から気合を入れて走ったから遅れずについていけた。
大変なのは放課後の練習。
いきなり走って怪我しないようにロッカーの上で準備運動をした。
「テプちゃん帰るよ」
授業が終わって帰りの準備が出来たようだ。
よしっ、気合を入れて走るぞ。
前を走る燐火ちゃんの後を追って走ると公園に辿り着いた。
公園に何の用だろうと思っていたら、燐火ちゃんがベンチに座った。
「燐火ちゃん疲れたの?」
「違うよ。待ち合わせ」
「待ち合わせ? 今日は他の人と走るの?」
「違うよ。今日は冥王軍の活動日だよ」
「えっ、冥王軍の活動日?!」
「何で驚いてるの? テプちゃんも冥王軍なんだからシッカリしてよ」
「だって今日活動するなんて聞いてないよ」
「当然だよ。テプちゃんは幹部じゃないから教えていないもん。芽衣子ちゃんが言ってたけど、情報漏洩はダメなんだって」
情報漏洩って言うけどさ、誰に話すのだろう?
僕、冥王軍の活動知ってますなんて誰にも言えないよ。
しかも僕は幹部じゃないんだね。
3人しかいないから仕方ないけど、ちょっと悲しいよ……
「燐火ちゃ~ん」
声がする方を見たら芽衣子ちゃんが走って来ていた。
芽衣子ちゃんも元気だなぁ。
「行くよテプちゃん。今日も魔法少女を倒しに行こう」
「ええっ! 倒しちゃ駄目でしょ!」
「そんな事言ったら駄目だよテプちゃん。こういうのは気分が大事なんだから!」
「はいはい、分かりましたよ」
僕は燐火ちゃんの後について行った。
「芽衣子ちゃん、今日は何しようか?」
「まずは魔法少女を探そう。妨害が目的だから、何をしているか探らないとね」
「それなら僕が探してみるよ」
僕は上空に飛び立った。
見つけた!
川辺で鉱魔と戦っている。
「燐火ちゃん、芽衣子ちゃん。敵は川辺だよ!」
「行こう燐火ちゃん」
「うん」
僕達3人で川辺に向かうと、魔法少女達がクマの鉱魔と戦っていた。
一昨日燐火ちゃんが灰にしたのに!
しつこいなクマの鉱魔!
燐火ちゃんの魔法では倒せないのかなぁ。
「芽衣子ちゃん、一昨日倒したのに、また復活してるよ。どうしようかな?」
「ちょっと待ってて……違う! 違うよ燐火ちゃん」
「何が違うの芽衣子ちゃん?」
「一昨日の敵とは違うよ。鉱物で出来たクマなのは一緒だけど、他の個体だと思う」
他の個体?
僕には同じクマにしか見えないけど、芽衣子ちゃんには別の敵に見えているんだね。
でもそうすると別な疑問が出てくる。
最初に僕達が目撃した馬の鉱魔は蒼羽さんの魔法でコアになった後に現れていない。
同じタイプの鉱魔が複数いるなら、もう一度馬の鉱魔が現れてもよいと思うのだけど。
「鉱魔がコアに変わったらどうなるか実験してみよう。今回はしず子さん達を妨害してみるね」
燐火ちゃんが愚者の杖を具現化した。
えっ、燐火ちゃんが魔法を使ったら大けがじゃすまないよ!
「みなさん! 燐火ちゃんが魔法を使うので逃げて下さい!」
僕が叫ぶと、しず子さん達と蒼羽さん達が鉱魔から離れた。
そして、燐火ちゃんの詠唱が始まった。
シルクのドレスの如き優雅な花弁よ
幾重にも重なり我を守れ
魅力に満ちた八重咲の花!
「立ち塞がれ! 金 鳳 劫 火」
クマの鉱魔が紅蓮の炎の花弁に包まれた。
これは燐火ちゃんの防御魔法金 鳳 劫 火!
しず子さんが癒しの水をクマの鉱魔に使おうとしたが、炎の花弁に遮られて効果が無かった。
亜夕美さんのウォーターウイップも効果がない様だ。
だけど、鉱魔が動きを止めた今なら使える魔法がある。
蒼羽さんが魔法のステッキを鉱魔に向け魔法を放った。
「真の姿に戻れ! エンジェリック・スメルティング!」
蒼羽さんの魔法は金 鳳 劫 火の影響を受けずに直撃し、鉱魔がコアに変化した。
「これでよしっ!」
燐火ちゃんが金 鳳 劫 火の効果を解除した。
「フローライト・コア回収完了! 帰るよ星七、亜夕美」
蒼羽さんがコアを回収すると同時に撤退を始めた。
「どういう事なの? 私たちと敵対して、あの魔法少女たちの味方をする事にしたの?」
しず子さんが静かに問いかけて来たけど、内心怒りでいっぱいなのが分かる。
ど、どうしよう?
しず子さんが怖いよ……




