第59話 事件の真相
「誰か降ろしてくれないかな? このままでは推理が出来ない」
怪盗ガウチョパンツが助けを求めたが、誰も助けようとしない。
「死体が降ってきたと思って焦ったではないか。コイツは捜査の妨害をした。帯刀君、逮捕してくれ」
「無茶ですよ明比警部! 天井から落ちて来ただけで逮捕なんて出来ないです!」
「これだから最近の若い者はダメなんだ。私はね、逮捕しろと言ったんですよ」
明比警部って性格悪いな。
帯刀刑事が苛立っているよ。
こんな感じで毎日一緒に過ごしていたら嫌になりそうだなぁ。
「そんなに怒ったら可哀そうですよ。仲間なんだから仲良くしましょうよ」
「仲間ではない! 部下だ!!」
「私の何処が可哀そうなんだ! 仲間なんかにしないでくれ!!」
明比警部が怒るのは分かるけど、帯刀刑事に怒られたのは意外だったな。
病んでるなぁ……大丈夫かな帯刀刑事。
別な意味で不安になっちゃったよ。
「仲間割れするのは後にしてくれ、真犯人を突き止めるのが先だろ?」
怪盗ガウチョパンツが言った。
言っている事は正しいけど、天井から下半身だけ出ている状態で言っても説得力はない。
「答えは出ている。犯人は帯刀だ。この前読んだ小説の犯人が部下の刑事だったからな」
「それ読んだ事ありますよ。宇宙人警察の話ですよね」
「条も読んだ事があるのか! あれは傑作だ!!」
魔王さんと条さんが僕の知らない宇宙人が主役の推理小説の話を始めてしまった。
殺人事件が起きたっていうのに、推理小説の話で盛り上がるなんておかしいよ!
事情聴取の為に集まった他のお客さんも呆れているよ。
このままだと僕が犯人にされちゃうんだから、事件解決に集中してよ!
「もういいですよ! そんな茶番をしてまで過去を掘り返してウワサを立てたいんですか! 警察までグルになって!!」
「オーナー落ち着いて下さい。せっかく今まで頑張ってきたじゃないですか?」
急にキレだした旅館のオーナーを女将さんがなだめる。
殺人事件が起きているのにふざけていたら怒るよね。
「ウワサとは何ですかな? オーナー詳しくお聞かせ願えませんかね? 女将さんでも構いませんがね?」
「どうしても私に言わせたいのだな……」
「何でとぼけてるんだ? 10年前の殺人事件の事に決まっているだろ? 僕は当時の事件の情報を集めに来たのさ!」
10年前の殺人事件?!
宴会場にいた全員が天井のガウチョパンツに注目した。
見えている部分がガウチョパンツだけだから仕方がない事なんだけどね……
「やっと忘れてくれたのに……客足が戻ってきたのに……」
旅館のオーナーがひざまずいた。
オーナーと女将さんが言っていたのは10年前の事件の話だったのね。
だから被害者が見当たらないのに、女将さんが被害者の状況を説明出来たのね。
そういう事情なら、事件が起きていないのに宿泊客全員を拘束して、仲間の応援を呼んだ明比警部の責任問題になるよね?
よしっ、反撃開始だ!
僕は犯人扱いされたのを許していないからね!
「こうなったのは明比警部の責任ですよね?」
「わ、私は悪くないぞ! 悪いのは帯刀刑事だ」
「何で帯刀刑事が悪くなるの?」
「私は彼が正確な報告をしなかったから判断を誤っただけだ! 仲間の応援を呼んだのも彼一人。殺人事件が起きていないのに事情聴取したのも帯刀刑事だ! 私は途中で怪しいと思ったから何もしてなかった。だから問題ない!」
この人最低だなぁ。
サボって何もしていなかったけなのに。
当然の事だけど、帯刀刑事は怒っているよね。
振り向くと同時に、思わず息をのみ込んだ。
何故なら、帯刀刑事が拳銃を明比警部に向けていたからだ。
「殺人事件ならおきますよ、今からね。もう限界なんだよ! いつも、いつもアンタは!!」
「待て帯刀君! 今まで一緒に事件を解決してきただろう? 私達は最高の相棒だったハズだ!」
「毎回現場を滅茶苦茶にして責任転嫁しておいて相棒な訳ないだろ! 死ね!!」
「殺人はいかんよ帯刀君!」
「全員動くな!!」
どうしよう?!
明比警部は嫌いだけど、死んで良いとは思わない。
魔王さんは条さんと会話中で気付いていないから、僕が帯刀刑事を止めるしかない。
そうだ!
僕には纏蝶さんから入手したスペシャルアイテムがあるんだ!
今回使うのは繋がりの指輪。
一番親しい人の力を借りられる指輪だ。
僕が使えば燐火ちゃんの力を借りられると思う。
効果は十分の一になるって聞いているけど、燐火ちゃんの魔法なら、それくらい威力が落ちていた方が使いやすい。
僕は指に力を込めて願った。
使いたい魔法は炎 剣 菖 蒲。
敵を追尾して地面から攻撃する魔法だ。
殺すのが目的ではない、拳銃だけを消し飛ばせばいいんだ。
来いっ! 炎 剣 菖 蒲!!
カランカラン……
何の音だろう?
一歩踏み出すと何かが前足に当たった。
これっ……愚者の杖だよね……
前足でつかもうとしたけど重くてつかめない。
愚者の杖が出て来ても役に立たないよ!
確かに燐火ちゃんの力だけどさ!!
「何の音だ! 動くなと言っただろ!!」
帯刀刑事が僕に銃を向けた。
あぁ……僕死んだかなぁ……と思ったと同時に炸裂音がした。
バゴンという音と共に怪盗ガウチョパンツが降ってきたのだ。
「借りるぞテプ少年! 杖ストーック!! てやぁっ!」
怪盗ガウチョパンツが愚者の杖を拾って帯刀刑事に向かって突き出した。
杖の先端が拳銃を握る手に当たり、帯刀刑事が拳銃を落とした。
さらに怪盗ガウチョパンツが素早く接近して腕を抑えて拘束した。
頼りになるなぁ。
これでカッコ良ければ完璧なんだけどね。
ガニ股で帯刀刑事を取り押さえている怪盗ガウチョパンを見て、そう思ったのであった……




