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第57話 殺人事件?!

 ちょっと早い時間だったけど温泉を満喫(まんきつ)出来て良かったなぁ。

 次は夕食だ!

 普段燐火(りんか)ちゃんのママさんが作ってくれている料理も美味しいけど、旅館の料理は初めてだから楽しみだな。


「丁度夕食の時間の様だ。宴会場へ向かうぞ」

「テプ殿、豪華な食事が出ますぞ」

「楽しみですね(じょう)さん」


 僕達は先導する魔王さんに続いて宴会場へ向かった。

 宴会場では他のお客さんも沢山来ていた。

 恋人同士に見える20代の男女、女子大生3人組に老夫婦。

 お腹が出たおじさんと青年の二人組は、どういう関係のなのだろう?

 みんな楽しそうだなぁ。

 他のお客さんを気にしながら座布団に座って食事を待つ事にした。

 10分ほど待つと料理が運ばれて来た。

 お刺身だー!

 お船の容器に乗せられたお刺身が運ばれて来た。

 でも一緒に運ばれて来た禍々(まがまが)しい野菜は何だろう……

 茶色や深緑色の先端が渦巻いている不気味な植物だから、これは魔界の植物だよ!


「魔王さん、これは故郷の野菜ですか? 食べても死なないですよね?」

「何を言っている? 我の世界にこんな植物は存在しないぞ。妖精界の植物だろ? 先端がメルヘンな形状をしているではないか」


 魔王さんも知らない植物なの?!

 条さんは大丈夫かな?

 隣の条さんを見ると、いつも通りの表情をしている。

 えっ、条さんは平気なの?!


「二人共どうしたのかな?」

「条はメルヘンな植物が気にならないのか? 人間が食べても平気とは思えないのだが」

「メルヘンじゃなくて禍々しいですよ! 絶対魔界の植物だから!」

「いや、これは山菜ですよ。たぶんワラビかぜんまいじゃないかな」

「ワラビ? ぜんまい? 山菜ってなんですか?」

「おじさんは山菜について詳しくないから説明が難しいなぁ。簡単に言うと、山で採れる植物ですよテプ殿。美味しい煮物なので食べてみようよ」

「良く分からないけど食べられる物で良かったです」

「条を信じよう。我も食べるぞ」

「それでは、いただきます!」


 謎の植物の正体が判明した所で、僕達は食事を初めた。

 山菜の煮物と一緒に白米を食べてみたら美味しかった。

 怖がって食べるのを止めなくて良かった!

 温泉の時はずっと話続けていた魔王さんも、食事中は話をしないでいる。

 会話を忘れる位に美味しいのかな?

 結局、無言のまま食べ終わっちゃったよ。


「お刺身も山菜の煮物も美味しかったです」

「味噌汁も具が沢山で美味しかったですね」

「うむ、我も満足した」

「今日のお楽しみもこれで終わりかぁ……」


 温泉とご馳走を堪能し終えた喪失感から思わず呟いた。


「何を言っている。旅館の醍醐味(だいごみ)と言えば深夜の殺人事件だろ? まだ殺人事件が起きていない」

「殺人事件!!」


 僕は思わず叫んでしまった。

 何を言っているの魔王さん!

 殺人事件なんて起きたら大変でしょう!

 やっぱり魔王さんは魔王だった。

 物騒(ぶっそう)な事を平然と言わないでよ!


「何を言っているんですか魔王さん。テプ殿が驚いているではないですか」

「我は常識を言ったまでだ。旅館では夜に殺人事件が起きるのだろう? この世界の本で知ったぞ。毎回旅行の度に殺人事件が起きるんだ」


 ドヤ顔で言ってるけど、それって推理小説だよね?

 推理小説では毎回殺人事件に巻き込まれるけど、現実でそんなに殺人事件が起きるはずがないでしょ!


「普通は殺人事件なんて起きないですよ。調べてみましょうか?」

「お待ちください! 殺人の話は他のお客様のご気分を害される可能性がありますので!」


 女将さんがスマホで調べようとした条さんを止めた。

 急に出て来てどうしたのだろう?

 確かに殺人の話題なんて好ましくないけど、調べるのを止める程の事かなぁ。


「条よ。スマホとやらで調べるのは無粋だ。直接凶器を探そうではないか?」

「凶器?! 魔王さんは殺人事件が起きていると思っているのですか?」

「うむ、事件は既に起きている。我らの知らないところでな」


 魔王さんが推理小説御用達(ごようたし)の無能な刑事さんみたいな事を言った。

 推理小説ならストーリー上必要なキャラ設定だけど、現実で言ったら痛い人だよ。


「聞かせてもらった。女将さん、オーナーを呼んで来てもらえんかね?」


 ほら、また変な事を言いだした。

 ん、今の魔王さんじゃない?!

 オーナーを呼ぶように言った相手を確かめたら、小太りのおじさんだった。


「どうしたのですか? トラブルですか?」


 旅館のオーナーが女将さんに呼ばれて来た。

 急に呼ばれたから戸惑っている様だ。


「この旅館で起きた殺人事件について教えて頂きたいだけですよ。私はこういう者でしてね」


 小太りのおじさんが(ふところ)から手帳を取り出した。


「け、刑事さん! さ、殺人の事なんて……」

「その様子……何かご存じなのですね。帯刀(たてわき)君、関係者を集めて下さい」

「了解です。明比(あけび)警部」


 帯刀(たてわき)君と呼ばれた刑事が宴会場にいた宿泊客を集めた。

 一体何事?!

 殺人事件は魔王さんの妄想(もうそう)じゃないの?

 本物の警部が出てきちゃったよ!

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