第53話 一撃必殺
蒼羽さん大丈夫かな。
しず子さんがいればケガを治してあげられたのだけど、喫茶店で蒼羽さん達の話をした時から会っていない。
蒼羽さんの仲間には、回復魔法が使える星七さんがいるから大丈夫かな?
気が合わないけど、次に会った時も手助け出来るといいな。
魔法少女として新たな敵である鉱魔と戦っている姿は真剣だったから。
「さて、お家に帰ろうか?」
「うん、今日はゲームで遊ぶ日だからね」
僕と燐火ちゃんは、そのまま帰宅する事にした。
家に帰ると燐火ちゃんはすぐにゲームを始めた。
いつもは燐火ちゃんがゲームで遊んでいるのを見ているが、今日は僕の部屋代わりの押し入れで鉱魔との戦いについて考える事にした。
今回は蒼羽さんと一緒だったから、鉱魔を油断させる事で勝利出来た。
でも次に鉱魔に遭遇した時に蒼羽がいなかったら鉱魔をコアに戻す事は出来ない。
回復魔法の星七さんや、水の攻撃魔法の使い手の亜夕美さんが居ても止めを刺せないのだ。
そもそも毎回彼女達と一緒とは限らない。
僕達だけで鉱魔と戦えるのだろうか?
燐火ちゃんの魔法なら一瞬で倒せそうな気もするけどね。
消滅させる事は出来そうだけど、コアには戻せないだろうな。
「ごはんよ~」
ママさんの声で考えるのを止めた。
考えても答えは出そうもないなぁ。
実際に試してみるしかない。
楽しい夕食の時間まで悩みたくないからね。
僕は考えるのを止めた。
翌日、下校途中で透明な鉱石で出来たクマが大暴れしている所に出くわした。
けが人が出ていないのはポニーテールの魔法少女が戦っているからだ。
癒の戦士コスモオーラ、星七さんだ。
「このクマ野郎! 大人しくしやがれっ!」
星七が魔法のステッキでクマの鉱魔を殴っているが、全く効いていないようだ。
何でこの人が癒しの魔法の使い手なんだろう……あっ、しず子さんも同じだった。
気が強くないと手当てが出来ないのかなぁ。
「大丈夫ですか星七さん」
「なんや、喋るウサギじゃないか。ケツ周り刈られてるけど、虐待されてるんか?」
「虐待じゃないですよ! これは取引の結果です!」
「ウサギのケツを刈るなんて変態か?」
「変人だけど変態じゃないです! 妖精の毛は価値があるんですよ!」
「そんな事はどうでもいいから時間を稼げ! 蒼羽のノロマが来るまでな。今日は時間稼ぎの亜夕美がいないんだよ!」
どうやら星七さんは、鉱魔に止めを刺せる蒼羽さんを待っているようだ。
攻撃魔法が使える亜夕美さんも来れない様だ。
あんまり仲が良くないのかなぁ。
通っている学校も違うみたいだし。
「どうしようか燐火ちゃん?」
「どうしようって言われても、わたしに出来るのは火炎魔法を使う事だけだよ」
「大魔導士は火炎魔法の威力を上げる事に執着した愚者だから?」
「その通りだよテプちゃん! これが愚者の証だ!」
燐火ちゃんが愚者の杖を具現化した。
「さて、あのお姉ちゃんに当たらないように頑張るよ」
燐火ちゃんが詠唱を始めた。
猛獣の牙より鋭き劫火の牙よ
我に仇なす全ての敵を絡め取れ
出でよ! 樹木の如き生命の花!
「蹴散らせ! 珊 瑚 刺 火」
牙の様な鋭い湾曲した無数の劫火の花弁が、燐火ちゃんを中心に生み出され、クマの鉱魔を貫いた。
貫いた花弁から火が広がり、クマの鉱魔が灰となって消えた。
まさに一撃必殺!
燐火ちゃんの真骨頂!!
「あじぃっ! 火傷するだろコラッ! なんじゃこりゃ!!」
突然現れた炎の花弁を見た星七さんが慌てふためく。
僕は鉱魔の灰の山を前足でつついた。
燐火ちゃんの魔法で倒すとコアは現れないのか。
残された灰から魔力も感じない。
消し炭になっただけみたいだね。
「テプちゃん、一件落着だね。帰ろうか?」
「お前らがやったんか?」
変身を解いて青いジャージ姿になった星七が燐火ちゃんの前に立ち塞がった。
「わたしがやったけど」
「なんて事をしてくれたんだ。コアが回収出来なかったじゃないか! コアが無ければ世界を救う事が出来なくなるんだぞ!」
「なんで?」
「大賢者アクイアス・セッテが言っていた。コアの力が無ければ世界は救えないと」
「だから何で? 大賢者に言われたから正しいの?」
「そうだ。私達に魔法少女に変身する力を与えた大賢者が言っているのだ。鉱魔が現れる程に荒廃した世界を救うにはコアの力が必要だって」
「荒廃している? 世界は平和だと思うけど?」
「子供だかから分からないんだ。この町は平和でも、世界では争いが絶えない。世界は終わりに向かっているんだ」
星七さんが世界の危機を必死に訴えかけている。
でも変だなぁ。
星七さんの言っている事は分かるよ。
世界中で争いは絶えない。
でも、何で平和な紅鳶町に鉱魔が現れるの?
「星七さん、何で平和な紅鳶に鉱魔は現れるのですか?」
「平和を脅かす為だ。世界が荒れるのが鉱魔の望みだからな」
「鉱魔に意志は無かったと思うけどなぁ」
「そうだよね。ただ暴れているだけだったよ」
「それは下級鉱魔だからだ。上位鉱魔はこの町の破滅を望んでいるんだ」
「それも大賢者さんの言っている事?」
「そうだ」
「何してるの?」
あっ、蒼羽さんだ。
元気そうだから、星七さんにケガを治してもらったのかな。
元気になっていて良かったよ。




