第45話 陣形効果
燐火ちゃんがあと四人って言った後に黙ってしまった。
あと四人いたら何が出来るの?
空ではしず子さんと増子さんが乗ったロボットが激しい空中戦を繰り広げている。
「このぉ! 敵が多すぎてキリがないよ!!」
増子さんが乗ったA7110ナイトに、無数の魔女の群れが突撃している。
魔女は攻撃を防ぐ気が無い様だ。
鋼鉄の剣を振るっているが物量で押されている。
増子さんの機体に近づいた魔女が、次々に自爆していく。
度重なる自爆攻撃を受け続けて、ついにA7110ナイトの装甲が耐えきれなくなった。
A7110ナイトが煙をあげながら墜落していった。
すかさず、しず子さんが乗ったA834闇夜が墜落したA7110ナイトの援護に向かった。
だが、直ぐに攻撃を止めてしまった。
どうやら弾切れの様だ。
「弾が足りないわね~。癒しの水では弾が回復しないのね~」
しず子さんは軽い調子で言っているが大ピンチだ。
もう僕達を守る者はいない。
「変な金属に乗って飛び回っていたから分からなかったが、お前たちも魔法少女か? 衰えたものだな。自ら飛ぶ力も魔法で攻撃する力もないとはな」
魔女の始祖プロパガンダから声が聞こえて来た。
全身紫色のアメーバの様な体なのに、何処から声を出していのだろう?
怖いよ……誰か!
誰か助けてよ!!!
「どうやら間に合ったみた。大丈夫か?」
「僕達の助けが必要みたいですね」
健斗君と翔太君?!
何で二人がいるの?
早く二人を逃がさないと!!
「危険だから逃げて!」
「何言ってるんだ? 逃げたら勇者じゃないだろ?」
「この状況……覆せるのは神官の僕しかいないと思うけど?」
危険な状況なのに二人は逃げようとしてくれない。
どうしよう……
「健斗君、翔太君、いつものヤツをお願い!」
「任せろ燐火!」
「準備は僕が行います。二人は指定位置に移動して下さい」
燐火ちゃんが愚者の杖を地面に突き立てると、健斗君が燐火ちゃんの前に立った。
「テプさん、ここに立っていて下さい」
翔太君が僕を抱えて運び、燐火ちゃんの右斜め前に降ろした。
何をするんだろう?
僕は翔太君に言われた通り、黙って立つ事にした。
「どうやらピンチの様だな魔法少女! 四天王が全員やられた以上、見逃す事は出来ない。ここで決着をつける!!」
だぁーっ!
何で最悪のタイミングで魔王が出てくるんだよ!
今は魔王と戦っている場合ではないのに。
「おじさん! ここに立って!」
翔太君が魔王を燐火ちゃんの右斜め後ろに立たせようとした。
「なんだ小僧。我を誰だと思って……」
「偉そうな口を利く大人ならぁ! 状況くらい把握しろよぉ!」
先頭に立っていた健斗君が怒鳴った。
「ふん、生意気な。貴様、名は?」
「勇者ラファエルだ!」
「勇者か……面白い。少しだけ茶番に付き合ってやろう」
魔王が翔太君が指定した燐火ちゃんの右斜め後ろに立った。
それでいいのか魔王!
勇者ラファエルって、健斗君のゲームのキャラクター名なんだよ。
本物の勇者じゃないんだから。
「翔太、あと一人はどうする?」
「誰か来てくれそうな人がいれば良いのだけど……」
どうやら、あと一人足りないらしい。
「お困りかな? 通りすがりで良ければ力になるよ」
振り返ると、現場を混乱させるプロ。
怪盗ガウチョパンツがいた。
健斗君と翔太君がいる時点で魔法力とか関係なさそうだから、最後の一人が怪盗ガウチョパンツでも大丈夫かな?
「陽翔お兄さん! ここに立ってもらえますか?」
「翔太君! 私は正義の怪盗、ガウチョパンツだよ!」
「そういうのいいから急いで!」
翔太君が怪盗ガウチョパンツを燐火ちゃんの左斜め前に立たせた後、左斜め後ろに立った。
「健斗! 準備完了だ!」
健斗君が両手を上げ詠唱を始めた。
「夢現のごとき魔を増幅せし極大の幻想。それは死臭漂う幻の花! 魔力増幅陣形ラフレシア!!」
巨大な死の香りがする、五枚の巨大な魔力の花びらが生み出された。
これは……ラフレシア!!
「ほう、なかなかやるな。生意気な口をきくだけの事はある」
魔王が感心しているって事は、本当に凄いのかな。
魔力増幅陣形って初めて聞いたけど、立ち位置で魔力が上がるなんて知らなかったよ。
「ありがとうみんな! これで真の紅 蓮 躑 躅が使える!」
燐火ちゃんが愚者の杖を魔女の始祖プロパガンダへ向けた。
開闢より賜りし真の力
あらゆる次元において 比類なき永久の炎よ
我らは示す
真なる炎を前にして 滅せぬものは存在せぬと
万物を構成せし五行の力を越えて顕現せよ
燃え上がる恋より赤き 偉大な神の花
力持たぬ者が希う幻想すら超えて!
「咲き誇れ! 極大紅蓮躑躅!!」
上空のプロパガンダに向かって深紅の炎で出来た躑躅が放たれた。
プロパガンダが最初の紅 蓮 躑 躅を消滅させた時と同じように、深紅の炎で出来た躑躅を飲み込もうとした。
だが、今度は止める事が出来なかったようだ。
徐々にプロパガンダが消滅していく……
「何故だ! 何故恐怖を喧伝する私が恐怖を感じるのだ!」
「それが神への畏怖だよ。手を出してはいけない神の花に触れてしまったから」
「こんな! こんな花なんかにぃ!」
それが魔女の始祖、プロパガンダの最後の言葉だった。
紅鳶町全体に影を落とす程の巨体が消滅したのだ。
勝った……燐火ちゃんが勝ったんだ!!




