第42話 プロパガンダ
隣町での戦いを終えて帰宅した僕はパパと話をする事にした。
魔法王国と交信出来る場所は、妖精とゆかりがある場所だけだが、今回は燐火ちゃんのお家で話をしようと思う。
公園だと交信中に敵の襲撃を受けるかもしれないし、交信だと燐火ちゃんが話に参加出来ないからだ。
面倒だけど、僕は急いで通信用の魔法儀式の準備をした。
「燐火ちゃん、準備はいいかな?」
「大丈夫だよ。わたしは何もしなくていいんだよね?」
「何もしなくて大丈夫だよ。全部僕がやるから。いくよ!」
僕は通信用の魔法陣を起動した。
『どうしたのだアルタロネクタネブ? 通信儀式を使うのは珍しいな。隣にいるのは魔法少女か?』
「魔法少女じゃないです。わたしは大魔導士だよ」
『大魔導士? どういう事だ?』
燐火ちゃ~ん!
燐火ちゃんが大魔導士と名乗ったのでパパが混乱している。
そこは魔法少女って言ってよ。
僕がパパに怒られるじゃないか!
「えっと、凄い魔法少女って事です! 最近のこっちの世界では流行っているんですよ……」
『そうなのか。私が魔法少女と活躍していたのは20年だからな。大分変っているのだろうな』
そうだよ、本当に変わっているんだから!
パパから聞いていた魔法少女の常識が全く通じないくらいにね!
「そんな事は置いておいて、教えて欲しい事があるんです」
『何かあったのか?』
「善行を積んで聖の気を集めているのに、紅鳶町に魔女が出現を続けています。しかも隣町に人間の異能者が潜伏していて、紅鳶町を狙っています。何か心当たりがありますか?」
『隣町の件は分からない。だけど紅鳶町に魔女が出現する理由は分かっている。この前凶悪な魔女が現れたと聞いた後に調べたからな』
「何が分かったんですか?」
僕はパパに問いかけた。
燐火ちゃんは僕の隣で黙って考え込んでいる。
やっぱり燐火ちゃんも気になるのかな?
魔女が現れ続ける理由について。
『魔女が現れる理由は宇宙にある』
「宇宙?!」
いきなり宇宙だって?
話が飛躍し過ぎじゃないかな。
宇宙人が魔女を呼び寄せているって言うの?
『驚くのも無理はないか。紅鳶町の遥か上空の宇宙空間に魔女がいる。宇宙にいるとは思わなかったのでな。探すのに時間がかかったよ』
「宇宙に魔女が? そんな魔女聞いた事ないですよ」
『プロパガンダ……そう言えば分かるだろう』
プロパガンダ……昔話で伝えられる魔女の始祖。
遥か昔に多くの妖精や魔法少女が戦って命を落としたという。
最強の魔女が何故?
プロパガンダが現れた理由は分からないが、魔女が生まれる理由は分かった。
魔女とは魔の気が集まって出来た力が実体化して生まれる存在だ。
そして実体化する時に融合した思念によって能力が変わる。
獣に襲われる恐怖が魔獣の腕の魔女生み出したり、蜘蛛への恐れが蜘蛛の頭の魔女を生み出すのだ。
だけどそれは魔法少女がいなかった場合の話。
魔法少女が善行を積み、聖の気を集める事で魔の気を薄める。
それだけで魔女の出現を抑えられる。
プロパガンダを除いて……
魔女の始祖であるプロパガンダは自ら魔の気を生み出し、魔女を生み出す事が出来るのだ。
通常の魔女は人の負の感情を集めるのに、プロパガンダは逆に恐怖を生み出してばら撒くのだ。
際限なく……
今も宇宙で魔女を生み出して、眼下にある紅鳶町へ魔女を落としているのだろう。
種を蒔くように。
ぽとり、ぽとりと……
「パパ、どうすればいい?」
『逃げろ。魔法王国の王としては失格だとは思うが、息子のお前に死んで欲しくない』
「全員で戦えば勝てるよね?」
『無理だ。かつてプロパガンダと戦った神話時代の妖精は強大な攻撃魔法が使えた。だが、今の妖精はどうだ? 魔法少女を生み出すだけのマスコットキャラ同然だ。アルタロネクタネブ、どうやって攻撃するつもりだ?』
僕は戦えない。
だけど燐火ちゃんなら!
「燐火ちゃん、一緒に頑張ろう! 僕達なら負けないよね!」
「うん、テプちゃんが本当のお父さんを見つかられる様に頑張るよ!」
えっ、本当のお父さん?!
目の前に映ってると思うけど?
「パパなら目の前にいるよね?」
「でも見た目が違うよ。王様ウサギじゃなくてチンチラだよね?」
「チンチラに似てるけど妖精だから! 僕達、魔法王国アニマ・レグヌムの妖精は、動物と違って魂によって姿が変わるんだよ。僕のママはフェネックに似てるし」
「そうなんだ。チンチラのお父さんとフェネックのお母さんからウサギのテプちゃんが生まれるんだね。悩んで損した」
あーっ、そういう事でずっと悩んでいたのね。
燐火ちゃんは世界の危機が迫っているって理解しているのかな?
『魔法少女よ。アルタロネクタネブを連れて逃げてくれ』
「やだ!」
『何故だ? 死ぬかもしれないんだぞ?』
「パーティーの中で一番安全な所にいる魔導士が、一番に先に逃げちゃダメなんだよ!」
『何故宴会をするのだ? 意味が分からん』
「パパ、パーティーとは冒険を共にする仲間の事で、前衛を任される戦士系の職業と魔法を使う後衛で分担して戦うんですよ」
『なんだそれは。魔法少女と関係あるのか?』
無いですよねー。
燐火ちゃんに教えられた僕は意味が分かるけど、パパたち魔法王国の住人には理解出来ないだろうな……
僕には説明出来そうもないな。
「わたしが全部やっつけるから大丈夫だよ」
『何故言い切れる? たった一人で戦えるのか?』
「一人じゃないから。テプちゃんも一緒だよね」
「うん、僕も燐火ちゃんと一緒に戦うよ」
『駄目だ。アルタロネーー』
「倒すから! どんな恐怖も悪意も一息で消し飛ぶ灰にする。それが火の力を賜った大魔導士の力だから」
『良く分からないが、私には止められないようだな……危なくなったら逃げるのだぞ』
パパが僕達を止めるのを諦めた。
心配してくれたパパには申し訳ないけど、これでいい。
魔女の始祖プロパガンダを放置したら、健斗君達や条さんも死んでしまうかもしれない。
僕達は逃げる事も負ける事も出来ないんだ!!




