第40話 読めない実力者
僕は朝起きてポストから郵便物を回収した。
居候の身だからね、少しは皆の役に立たないとね。
僕はいつも通り、宛名ごとに郵便物を振り分けた。
あれ、これは燐火ちゃん宛てだろうか?
燐の文字はグチャグチャで読めないが、後ろの『火どの』は辛うじて読める。
送り主は誰だろう?
燐火ちゃんにお手紙が来るのは初めてだから気になった。
よし、早く燐火ちゃんに渡して確認しよう!
僕は手紙をくわえて、二階の燐火ちゃんの部屋に行った。
「燐火ちゃん、お手紙来てるよ」
「お手紙? 誰からだろう?」
燐火ちゃんが手紙を受け取って送り主を確認した。
「ゲノレ人いアソ?! 誰だろう? 知らない文字が書いてある」
燐火ちゃんが机の上に手紙を置いた。
ゲノレ人いアソ?
燐火ちゃんは何を言っているんだろう?
名前どころか言語ですらない。
僕は机に飛び乗り、手紙の宛名を確認した。
『ゲノレ人いアソ』
本当に書いてあった!
字が汚くて蛇行しているが、確かに『ゲノレ人いアソ』と読める。
な、なんだろう?
僕は中身が気になった。
「燐火ちゃん、開けてみてもいいかな?」
「いいよ。私の手紙じゃないから」
「ありがとう」
僕は手紙を開けて中の文面を読んだ。
「はELじょラ。2じに山ズまつ。やなウず二り」
「急にどうしたのテプちゃん? 復活の呪文?」
「手紙に書いてあったんだよ。復活の呪文でも最強パスワードでもないと思うよ」
「意味が分からないね。パスワードだったら理解出来るけど」
「殆ど意味が分からないけど、たぶん真ん中の2じは時間の事だと思うよ」
「二時がどうしたんだろうね?」
「たぶん二時に山に来て欲しいんだと思うけど?」
「えー。誰が来るか分からないから行かない!」
「僕もその方が良いと思うよ。不審者が出るかもしれないからね」
「気味が悪いから捨てちゃおう」
燐火ちゃんが手紙をゴミ箱に入れた。
知り合いからのお手紙だったら失礼だけど、送り主不明の怪文書だから捨てても良いよね。
呪いの文章みたいだったから纏蝶さんに見てもらうって事も考えたけど、僕自身が纏蝶さんのお店に行きたくなかったから止めた。
さてとっ、つまらない手紙の事は忘れよっと!
僕と燐火ちゃんは手紙の事は忘れて走りに出かけた。
秋の運動会で活躍する為、今の内に鍛えておくのだ。
僕も燐火ちゃんと一緒に走った。
燐火ちゃんとのランニングは楽しい。
相棒って感じがするよね!
予定通り海岸沿いを走った後、商店街がある通りに戻って来た。
あとはゆっくり歩いて帰るだけだが……岩石の体をした巨体の魔人が僕達の行く手を阻んだ。
こいつは……最後の四天王!
剛力のゲルバリアン!!
「魔法少女! 何故俺の果たし状を無視した? 四天王最強のゲルバリアン様に恐れをなしたか?」
ゲルバリアンが何故か怒っている。
果たし状?
最近もらった手紙は朝の怪文書だけだけど……もしかして、あれの差出人はゲルバリアンだったの?
「果たし状なんてもらってない」
「嘘をつくな! そこの妖精が朝回収したのを見ている!」
朝の手紙の差出人はゲルバリアンだったのか……
もしかして、『ゲノレ人いアソ』って『ゲルバリアン』って書いたつもりだったの?
「ゲルバリアン、果たし状に何を書いたのか教えてくれませんか?」
「何をとぼけている! 読んだのであれば内容は把握しているだろう! まぁ、いい。何を書いたか教えてやる。はたしじょう。2じに山でまつ。かならずこいだ!」
「そんな事書いてなかったよ!」
燐火ちゃんがゲルバリアンの言った事を否定した。
確かにそんな風に読めなかったよね。
『はたしじょう。2じに山でまつ。かならずこい』
『はELじょラ。2じに山ズまつ。やなウず二り』
言われてみれば、何となく分かる様な……
もっと字を書く練習しなよ!!
「分かったよゲルバリアン……それで、ここで戦うの?」
「そうだ! 安心しろ!! 俺はこの剛力しか使わないからな。関係ない奴らを巻き込む心配はない」
「燐火ちゃん、攻撃準備だよ」
「分かったよテプちゃん。大魔導士の力を思い知らせてあげようね」
燐火ちゃんが愚者の杖を具現化させた。
「愚かな! そんな貧弱な棒で俺を傷つけられると思ったか? 俺の肉体は如何なる物理攻撃をも退ける。3ターン攻撃を待ってやろう。己の無力さを思い知るがいい!」
何を言っているのだろう?
燐火ちゃんは大魔導士だよ。
最初から物理攻撃なんて使わないよ!
しかも3ターンって何?
己の愚かさを思い知るのはゲルバリアンだよ。
燐火ちゃんが詠唱を始めた。
全てを貫きし灼熱の刃よ
大地を穿ち 我の敵を討て
気高き勝利の花!
「貫け! 炎 剣 菖 蒲!」
炎で出来た唐菖蒲がピンポイントでゲルバリアンを貫いた。
「あじぃ、あじぃよ!!!」
ゲルバリアンがのたうち回った。
燐火ちゃんの魔法を受けて一撃で消滅しない?!
間抜けだけど、四天王最強の名は伊達ではなかったという事かな。
「燐火ちゃん、止めを刺そう!」
「うん、もう一回行くよ」
燐火ちゃんが次の魔法の準備を始めた。
「待て! ムリ! 魔法ダメ、俺物理だから。絶対!」
「今すぐ魔法でやっつけるね」
「待て! 第二形態……なってくるから!」
ゲルバリアンが走り去った。
「なんか逃げちゃったね。追いかける?」
「放置しようよ。走り疲れたからね」
「そうだね。帰ろうテプちゃん」
僕は燐火ちゃんと一緒に帰宅した。
結局、第二形態になるって走り去ったゲルバリアンは帰ってこなかった。
逃げるならもっとましな言い訳をすれば良いのに……




