第36話 策略……それは自ら戦わぬ事なり
今日はみんなと一緒に魔法少女としての活動をする予定なのだ。
でも少し早く家を出たので、公園で少し時間を潰す事にした。
「来たわね魔法少女。子供は公園に現れる……私の推測通りね」
公園についてすぐ、怪しいローブを着た女性に声を掛けられた。
四天王の一人、策略のリップリアだ。
ドヤ顔で子供は公園に現れるって言ってるけど、僕達が公園に来たのはたまたまだからね!
「リップリアさん、おはよう!」
燐火ちゃんが元気よく挨拶をした。
どうやら策略のリップリアを覚えていたようだ。
名前を間違えられたバルンシーは可哀そうだったな……
そういえば、バルンシーは何処だろう?
僕は公園中を見渡したが、バルンシーの姿が見えない。
「何をキョロキョロ見渡しているの? こんなにいい女が目の前にいるのに」
「あの~、バルンシーさんはいないんですか?」
「いるはずがないでしょ! 何で私が最弱のアイツと手を組まなければならないの?」
「えっ、でもバルンシーさんは四天王曲の演奏係でしょ?」
「四天王にそんな係はないわよ! あれは、アイツが勝手にやってる事だから。あの男の趣味に興味はないの!」
リップリアが怒りだした。
そうか……バルンシーさんはもう出てこないのか……
バルンシーさんの演奏がないなら、リップリアさんとは無音で戦うのか。
それはそれで寂しいな……
「この後約束があるのでさようなら」
燐火ちゃんが帰ろうとした。
四天王とのバトルが無いなら、つまらないから帰りたくなるよね。
最初はくだらないと思っていたけど、戦闘サウンドは重要だよね!
「逃がさないわよ。折角出番を手に入れたのに、戦わないで去られたら困るんだから!」
リップリアが両手を上げると、公園が謎の光に包まれた。
これは魔法結界?!
魔力探知を行ったら公園の外周で途切れた。
どうやら公園が外界から遮断されたようだ。
「そこのおチビちゃんは気付いたようね。私は今までの四天王は違う! 覚悟する事ね!」
「ところで、出番を手に入れたって言ったのが気になるのですが、何をしたのですか?」
「猛毒のモスデスラを嵌めたのよ。最弱のバルンシーがやられるのは想定内。だが、モスデスラが本領を発揮したら命を奪ってしまう可能性がある。だから、教えてあげたのよ。子供たちは昆虫バトルに弱いってね。モスデスラが敗北した時は笑いが止まらなかったわよ!」
リップリアが高笑いをした。
子供たちが昆虫バトルに弱いって、昆虫バトルが苦手って意味じゃないのに……
モスデスラにとってリップリアは足を引っ張る存在だったみたいだね。
身内同士で足を引っ張って権利を主張しても意味が無いのに、本当に策略が得意なのかな?
なんだか急に小者感が出て来たよ。
リップリア自身の能力も分からないし……
「テプちゃん。リップリアは戦うみたいだから、やっつけちゃおう!」
「魅惑の体操! 第一!!」
リップリアがいきなり体操を始めた。
何だろう……この変な体操は!
燐火ちゃんも呆然としている。
「驚いたようね。これで、その妖精は私の虜。契約妖精に裏切られた気分はどうかしら?」
「テプちゃんはたまには期待を裏切った方がいいから。ちょっと真面目すぎる」
「えっ、燐火ちゃん。それは悲しいな。僕は契約妖精として燐火ちゃんを正しい魔法少女に導きたいんだ。だから真面目なんだよ」
「えー、つまんない。あの変な踊りのモノマネしてよ!」
燐火ちゃんがリップリアを指差した。
それは無理だよ。
人間とは関節の作りが違うんだから!
「何で普通に会話しているのよ! 何で魅了状態にならない」
「何でって、こういう技は男性にしか効かないからじゃないの?」
「だったら効くでしょ。その妖精は男じゃないの?」
「テプちゃんは男なの?」
「オスって言い方は変だから、一応男になるのかなぁ」
「妖精に性別があるって知らなかったよ!」
「でも、人間とは違うから魅了されなかったんじゃないかな? 人間が動物を好きになるのも、恋愛とは意味合いが違う事が多いでしょ?」
「おのれ! 貴方達が操れないなら、既に操った相手を戦わせれば良いだけ! 魅惑の体操! 第二!!」
リップリアが再び変な体操を始めると、公園の草むらから怪盗ガウチョパンツが現れた。
既に操られているのだろう、目が虚ろだ。
なんだ……怪盗ガウチョパンツか……
「驚きで声も出ないか? 貴方達の味方を操る事に成功したのよ。味方の必殺技で攻撃される恐怖を味わうがいい!!」
リップリアが笑みを浮かべながら手を突き出した。
必殺技の魅惑の体操が決まって嬉しいのだろう。
でも、その人弱いんだよなぁ。
本当に戦えるのかな?
怪盗ガウチョパンツが突然サンシェードを閉じたり広げたり繰り返した。
あぁ、やっぱりそうなるのね……
「なんでふざけている! 何で必殺技を使わない?! まさか、こいつも私の魅了から逃れたのか!」
魅了の力が通じなかったと勘違いしたリップリアが慌て始めた。
そのふざけている様に見えるやつが、怪盗ガウチョパンツの必殺技なんだよ……
相手が害のない怪盗ガウチョパンツで良かった!
「ねぇ、テプちゃん。あれ焼いてもいいかな?」
「止めておこうか。ヤキモチも含めて焼いてあげる必要はないよ」
「そうだね。じゃあ、みんなの所に行こうか?」
燐火ちゃんが愚者の杖を具現化させて詠唱を始めた。
シルクのドレスの如き優雅な花弁よ
幾重にも重なり我を守れ
魅力に満ちた八重咲の花!
「立ち塞がれ! 金 鳳 劫 火!」
柔らかなシルクの様な劫火の花弁が僕と燐火ちゃんを包んだ。
これでリップリアは僕達を攻撃出来ないだろう。
そのまま公園の端まであるいていくと、パリンという音と共に魔法結界が壊れた。
やっぱりそうなりますよね!
燐火ちゃんの魔法の方が圧倒的に強いですから!
僕達はそのままリップリアと怪盗ガウチョパンツを公園に置き去りにして、待ち合わせ場所の喫茶店へ向かったーー




