第33話 海で遊ぼう
わ~い、海だぁ~!
今日はしず子さん、増子さんと一緒に海に遊びに来たのだ!
昨日は山で昆虫さん達が遊んでくれたけど、今日は海の仲間が遊んでくれるかなぁ。
海を拠点にしている四天王はいないから安心だよね。
しず子さんが駐車場に車を止めた後、僕と燐火ちゃんは一斉に浜辺に向かって駆け出した。
「テプちゃん、競争だよ!」
「望むところだよ!」
燐火ちゃんに負けたくないから、僕は必死に走った。
様子を見る余裕はないけど、近くから足音が聞こえるから、今のところ互角だと思う。
砂浜に入ると体が砂に沈み込んで速度が落ちる。
足が沈み込んで滑る前に、タイミングよく蹴り出して速度が落ちるのを最小限にする。
ピョピョピョン!
今日の僕は冴えている。
足場が悪くても最速で走り切るのだ!
冷たっ!
波打ち際で僕は足を止めた。
「この黒いところ冷たいね」
「うん、何で黒く見えるんだろうね」
「そうだね。乾いている時は黄色っぽいのに変だよね」
僕と燐火ちゃんは波で濡れた砂の上を二人で歩いた。
本当に不思議だよね。
僕の毛は濡れても黒くならないのに、砂は濡れると黒く見えるんだ。
でも濡れて色が変われたら、僕は黒兎になれるのか。
その方がカッコいいかも!
「テプちゃん、カニさんがいたよ。捕まえようよ!」
「よしっ、ぐりぐりぐりっ」
僕は砂を掻き出したけど、カニに逃げられてしまった。
手強いなカニさん。
僕と燐火ちゃんは、かけっこの勝敗を忘れてカニを追いかけた。
元々ゴールを決めてない勝負だったから、勝敗を決める必要は無かったからね。
大事なのは勝負している気分なのさ!
「あらあら、こんなところにいたのね。走って行っちゃったから心配したわよ」
「まったく、俺様と違ってテプは子供だな!」
追いついて来たしず子さんとオハコに呼びかけられた。
「大人ぶって頑張らない方が子供だと思うよ」
「なんだって! どっちが本当の子供か決着つけるか?」
「決着をつけよう! 今で妖精は脇役だと思ってたから遠慮していたけど、今日は僕も戦うよ!」
「テプちゃんが立ち上がった! 最大火力でやっつけちゃえ! 大魔導士の弟子の力を見せつけるのだ!!」
燐火ちゃんが、オハコと対決しようとする僕を応援してくれた。
だけど、僕は燐火ちゃんの弟子って扱いなのかぁ。
本来は妖精の僕が魔法を教える立場なんだけどね……
「ケンカはダメよ。戦いの準備なら増子さんが進まてくれてるから。もう少し待っててね~」
しず子さん以外の三人が同時に固まった。
増子さんが戦いの準備を進めている?!
もしかして、今日も世界の敵と戦う予定でしたか?
「なぁ、しず子。俺様とテプはしず子達と違って戦えないぜ」
「何を勘違いしてるのよオハコ~。海の戦いって言ったら、スイカ割に決まっているでしょ~」
「な~んだ。スイカ割か。ビックリしたなぁ」
「テプちゃん、驚きすぎだよ」
「燐火ちゃんだって一瞬固まってたよね」
「驚かせてしまってごめんなさいね~。それじゃ案内するわよ~」
僕達はしず子さんに案内されて、増子さんがスイカ割の準備をしている場所に連れて行ってくれた。
「待ってたぞ! 最初は誰と誰が戦う?」
「俺っちは寝てるからね。食べる時に起こしてくれや」
増子さんはやる気満々だが、プレナはビーチパラソルの下で居眠りした。
狸なのに、狸寝入りじゃなくて本当に寝たよ……
「わたしが戦うよ! 一人で全員倒すから!!」
「それなら、最初の相手は私ね。ルールは妖精組が指示を出して、魔法少女組がスイカを割る。スイカが割れなかったら負けで、二人共スイカを割れたら割るまでの時間が短い方が勝ちって事で良いかな?」
「そのルール通りだと、相棒のプレナが昼寝している増子さんが不利になると思うけど」
「僕は大丈夫だ! 気配斬りで鍛えているからな!」
気配斬り……スイカに気配ってあるのかなぁ……
まぁ、増子さんが良いって言うなら気にしないけど。
「もう一つ、ルールを付け加えてもいいかな?」
「どうしたの燐火ちゃん?」
「いいぜ! 何でも受けて立つ!!」
「使う棒を自分で用意してもいいかな?」
「私は大丈夫よ!」
「僕もだ!」
ルールが決まったのでスイカ割対決を始めた。
最初にしず子さんがオハコの指示を聞きながら的確に足を進めていった。
オハコはいつも通りの乱暴な口調で指示を出しているが、しず子さんは普通に聞いているのが凄い。
僕なら苛ついて喧嘩になっちゃうからね。
結構良いコンビだよね。
あっ、スイカが割れた。
タイムは3分18秒。
これより短い時間でスイカを割れば僕達の勝ちだ。
次は僕達の番だ!
燐火ちゃんがスタート位置に立って、愚者の杖を具現化した。
えっ、自前の棒って愚者の杖の事だったの!!
僕が驚いている間に、燐火ちゃんがスタスタ歩いてスイカを一撃で割った。
タイムは34秒……圧倒的な差である。
「凄いわね~。負けちゃいました~。次は増子さんね」
「よしっ、僕が仇を取るよ!」
「ふっ、スイカの気配が分かるわたしに勝てるかな?」
しず子さんと増子さんが交代した。
次は増子さんと燐火ちゃんの対決。
最初に増子さんが挑戦したが、指示がないのでゆっくり足を進めている。
「空気の流れが違う……そこだ!」
増子さんの棒がスイカを捕らえたが5分もかかってしまった。
時間はかかったけど、何も見えず指示も無い状況で当てたのは凄いと思うけどな。
「これなら、またわたしの勝ちだね」
「どうかな? まぐれは二回続かないよ」
「まぐれじゃないから! 今回も速いよ!」
燐火ちゃんがスタスタ歩いて直ぐにスイカを撃ち抜いた。
今回も30秒程度……何かおかしい。
僕は全く指示を出していないんだよ。
それなのに燐火ちゃんは一人でブツブツ言いながら的確にスイカを割った。
ん、ブツブツ言いながら?!
普通は指示が聞こえやすいように黙って歩くよね?
それなのに燐火ちゃんは何を言って歩いていたのだろう?
「燐火ちゃん、もう一度やろう! 僕抜きでエキシビションとしてね」
「任せてテプちゃん。見本を見せてあげるよ」
燐火ちゃんがスタート地点に立った後、僕はこっそり燐火ちゃんの傍に寄った。
えっ、今なんか聞こえた様な……
確か、聞こえたのはーー
『全てを貫きし灼熱の刃よ。大地を穿ち 我の敵を討て』
ーー燐火ちゃんの魔法詠唱の一部だ!
攻撃対象の位置座標を特定して現れる炎 剣 菖 蒲の特性を利用して、スイカの位置を把握してたのね……
これは……不正だあああああ!
「燐火ちゃん、炎 剣 菖 蒲使っていたよね。愚者の杖を使いたかったのは、魔法の力を利用する為だったの?」
「そうだよ。流石、テプちゃんだね。気づかれるとは思わなかった」
「駄目だよ燐火ちゃん。それじゃスイカ割の意味がないでしょ。しず子さんと増子さんもそう思うでしょう?」
「私は楽しんでくれたら、なんでも良いわよ~」
「その手があったか! 僕は面白かったから良いと思うぞ! 魔法少女らしくていいじゃないか!」
「俺様は納得いかないけどね。せめてベスト指揮官大賞とかに選んで欲しいね」
しず子さんと増子さんは大人だなぁ~。
生意気キツネは放って置こう。
「やったぁ! わたしがナンバーワーン!!」
「仕方がないなぁ~燐火ちゃんは、本当に一番が大好きなんだから」
「はいっ、みんなスイカを食べるわよ~」
しず子さんがスイカを配ってくれたので、僕はスイカにかぶりついた。
甘くておいしい!!
今日も楽しい夏休みを過ごせそうだ。




