第29話 鏡の迷宮と陽翔お兄さんの迷走
今日は陽翔お兄さんと一緒に遊園地に遊びに来た。
陽翔お兄さんは、遊園地に一人で行くのが恥ずかしいから誘ったって言ってたけど、本当は別の理由だって分かっている。
目的は新しく出来た鏡の迷宮だろう。
最近、この鏡の迷宮で行方不明者が出ているからだ。
たぶん陽翔お兄さんは、怪盗ガウチョパンツとして魔の物を回収するのが目的なのだろう。
僕達を呼んだのは作戦が失敗した時の保険だろう。
被害を度外視すれば燐火ちゃんの究極魔法で倒せない敵はいないからだ。
遊園地についてすぐ、陽翔お兄さんが鏡の迷宮に近づくなと言い残してトイレに行ってしまった。
僕には、何で陽翔お兄さんがトイレに行ったのか分かっている。
トイレでガウチョパンツに履き替えるのだろう。
迷惑だから止めて欲しいよね。
どうせバレバレなんだから、最初から履いてくれば良いのに!
「テプちゃん、鏡の迷宮に行こう!」
ですよねー。
行くなと言われたら、逆に行きたくなるよね。
一瞬迷ったが、僕は燐火ちゃんと一緒に鏡の迷宮に行くことにした。
どう考えても、怪盗ガウチョパンツが解決しようとしている程度の事件を、僕と燐火ちゃんが解決出来ないとは思えない。
僕は姿を消して、燐火ちゃん一人分の金額で鏡の迷宮に入場した。
別に入場料を誤魔化しているのではないよ。
元々妖精に入場料金は設定されていないからね!
行方不明者が出ているっていう噂があるからだろうか、鏡の迷宮は空いていた。
「流行っていないね、面白いのに。テプちゃんが増えた!」
「燐火ちゃんだって沢山いるよね? どうやって進めば良いの? 道が分からないけど?」
「こうやって左手をついて回れば、そのうちゴールにたどり着くよ」
燐火ちゃんが手をついて歩き始めた。
壁ならやり易いけど、鏡に手を触れるのは怖いな。
割れたら嫌だな……
「うあああああああっ!」
僕は思わず飛びのいた。
突然、燐火ちゃんが手を付いた鏡に、見知らぬ女性が写ったのだ。
僕達の直前に鏡の迷宮に入った人はいなかった。
それなのに、ノンビリ進んでいた僕達が前に入館した女性に追いつく事はあり得ない。
この人は……魔女だ!!
「私のテリトリーに現れるとは愚かなことよ」
「愚かではないよ。燐火ちゃん、言い返そう!」
「愚かね……その通りだよ。我はこの世で最も愚かな存在、大魔導士だ!」
燐火ちゃんは魔女に愚かと言われて嬉しそうだ。
「ちょっと、しっかりしてよ! 相手は魔女だよ! 早く倒さないと!!」
「もう遅いわよ」
ーーそう言ったと同時に魔女の姿が消えた。
「先ずは小娘の方からだ!」
燐火ちゃんの背後に腕を刃に変えた魔女が迫っていた。
どうしよう!
燐火ちゃんの呪文も、僕が庇うのも間に合わない!
「サン・シェエエエエド!」
怪盗ガウチョパンツが車に使う日除けを構えて魔女の攻撃を受けた。
「くっ、完全に防ぎきれなかったか! 大丈夫か、そこの少女?」
怪盗ガウチョパンツが怪我をして膝を折った。
完全には防ぎきれなかったって言うけどさ、車の日除けじゃ魔女の攻撃どころか人間の攻撃すら防げないよ!
ケガをしても燐火ちゃんを心配してくれる心意気は見事だけどさ。
「大丈夫だよ陽翔お兄さん」
「陽翔お兄さんじゃなくて怪盗ガウチョパンツね」
「一人ザコが増えたくらいで私の攻撃を防げると思ったの? ほらっ、鏡がある限り、私は自由に動けるのよ」
鏡の魔女が次々に移動して見せた。
鏡と鏡の間を自由に移動出来るのか。
これでは奇襲したい放題だな。
これだけ速く動けるのであれば、燐火ちゃんの詠唱が間に合わない。
魔女にスキが出来れば良いのだけど……
「アンブレラァーンス! どりゃぁ! 魔法を使うなら今だ!」
怪盗ガウチョパンツが傘を槍の様に突き出した。
ダサッ!
そして危ない!
相手が魔女だからいいけど、それは禁断の技だ!
「何それ?」
鏡の魔女がぺしっと手を振り下ろすと、怪盗ガウチョパンツの傘の槍がひしゃげた。
「ただの捨て駒さ!」
カッコよく言ってるけど、本当に捨て駒だよ。
傘が無駄になっただけだよね?
だけど、少しは役にたったかな。
魔女が怪盗ガウチョパンツに呆れている間に、燐火ちゃんが愚者の杖を取り出し詠唱を始めたのだ。
シルクのドレスの如き優雅な花弁よ
幾重にも重なり我を守れ
魅力に満ちた八重咲の花!
「立ち塞がれ! 金 鳳 劫 火!!」
柔らかなシルクの様な劫火の花弁が僕達を包んだ。
これは防御魔法!
劫火の花弁が全方位を囲んでいるから、背後から攻撃されても大丈夫だね。
僕は燐火ちゃんの新魔法を見て安心した。
頼りない怪盗ガウチョパンツより、燐火ちゃんの魔法の方が凄いから!
「舐めないで欲しいわね。こんな柔らかそうなお花で私の攻撃を防げると思ったの?」
魔女が鏡の中から飛び出して攻撃をしてきたが、劫火の花弁に触れた途端に燃え尽きた。
相変わらず凶悪な威力だな……防御魔法なのに一瞬で魔女を焼き尽くしてしまったよ……
「どうやら貸を作ってしまったようだな。次に会った時に返させてもらうよ。さらばだ!」
怪盗ガウチョパンツが走り去っていった。
別に借りを返さないでいいよ。
陽翔お兄さんには何時もお世話になっているからさ。
僕と燐火ちゃんは鏡の迷宮から脱出した。
そして、再びズボンに履き替えた陽翔お兄さんと合流して、遊園地を満喫したのであったーー




