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第27話 勇気増子が魔法少女になった理由

 町中を一通り回った後、喫茶店で休憩する事にした。

 毎回、タダでご馳走になっているけど大丈夫なのだろうか?

 ……と思っても、目の前にアイスを出されたら食べてしまうのだけど。

 今日は暑かったからなぁ……


「増子さんおねえちゃん。ありがとうございます」

「どういたしまして。旨いか?」

「感謝しろよ! 俺っちの増子のお陰で旨い飯にありつけるんだからな」

「プレナは何もしてないけどね」

「テプだって何もしてないだろ」

「毎回おごってもらってるけど、本当に大丈夫かなぁ」

「大丈夫だよ燐火(りんか)ちゃん。僕がお店の手伝いをすればいいだけだからさ!」


 それって増子さんのバイト代で(おご)ってもらっているのと同じだよね。

 お手伝いって言ってるけど、この喫茶店が増子さんのご両親のお店でなければ、普通に喫茶店でバイトしたお金で(おご)ってもらっているのと変わらない。

 ちょっと甘え過ぎかな。


「甘えちゃってすみません。増子さんが働いて稼いだお金なのに……」

「気にするなテプちゃん。仲間の為に頑張るのは普通の事だ!」

「でも……」

「僕は仲間が出来て嬉しいぞ! 今まで一人だったからな」


 一人? 増子さんが?

 僕は急に不安になった。

 増子さんも、しず子さんみたいに複雑な事情を抱えているのだろうか?

 僕はもう理解している。

 僕達妖精が魔法少女として選んだ少女が世界平和の為に努力する。

 それは魔法王国の妖精たちの願望であって、現実ではありえない。

 普通の人がいきなり魔法少女にされて、黙って人助けなんてするはずがない。

 今の世の中、他人を助ける余裕なんてないんだ。

 それなのに増子さんは魔法少女となって人助けを行っている。

 何か深い事情があるはずだ……何の願望もなく魔法少女になる人はいない……


「何で一人だったんですか? もしかして……いじめられていたのですか?」

「いじめられていないぞ。(いじ)られてはいたけどな!」


 増子さんが元気よく言った。

 悲しい過去はないのかな?

 カラ元気って事も考えられるけど……

 僕が考えすぎだったのかな。


「何で(いじ)られていたのですか?」

「僕が魔法少女だからさ! 高校生って人助けとか恥ずかしがるヤツが多くてさ。嫌われてはいないけど、冷やかしするヤツが多いんだよね。一緒に活動してくれる人もいなかった」


 魔法少女だから?

 人助けとか恥ずかしがる年頃ってのはわかるのだけど、時系列が合わない。

 何故かプレナと契約する前から魔法少女だったって言っている様に聞こえるのだが……


「増子さんが魔法少女になったのは何時からですか?」

燐火(りんか)ちゃんと同じくらいの年齢だったかな。魔法少女アニメの影響さ。燐火(りんか)ちゃんも見た事あるかな? 魔法少女セイント・ジャスティス。今も続編が放映されているよ。魔法少女セイント・ジャスティス・エクストリーム」

「わたしは見た事無いよ。友達は見ているけど」

燐火(りんか)ちゃんは見てないのか……今度一緒に見ようぜ!」

「けっこうです。魔法少女に興味ないので」

「興味がないのは見てないからだよ。一回見よっか? 見たらハマるから!」


 増子さんが燐火(りんか)ちゃんに魔法少女アニメ、セイント・ジャスティスの布教を始めた。

 うーん、何か引っかかるな……

 気になるのは、もちろん増子さんの発言だ。

 燐火(りんか)ちゃんが言った友達が見ているも、健斗君と翔太君のどちらが見ているのか気にはなるけど……

 増子さんが言っている事が真実であれば、彼女は6年前から魔法少女をやっているという事になる。

 だけど、彼女と契約しているプレナは僕と一緒に先月来たばかりだから話が合わない。

 そういえば魔法少女セイント・ジャスティスって聞いたことがある。

 僕は魔法少女アニメを見た事がないのに……

 そうだ!

 最初に増子さんが登場した時に名乗っていた。

 魔法少女セイント・ジャスティスと……


「ねぇ、増子さん。魔法少女セイント・ジャスティスって、増子さんも名乗っていたような気がするのですが……」

「気がするじゃなくて、名乗っていたぞ。テプちゃんは魔法少女セイント・ジャスティスに興味があるみたいだな。ちょっと待ってな」


 増子さんが喫茶店の上の自室に向かった。

 なんだか胸騒(むなさわ)ぎがする。

 僕は禁断の箱を開けてしまったのだろうか?

 数分後、増子さんが戻って来た。

 フリフリの可愛らしい衣装を持って……


「これが魔法少女セイント・ジャスティスの衣装だ! 可愛いだろ? 改めて見るとさ、初期モデルも捨てがたいよね」

「ま、まさかと思うけど……増子さんは、これを着て活動してました?」

「良く分かっているじゃないか! そうだよ、これを着て活動してたんだ。僕が魔法少女セイント・ジャスティスだ!」


 増子さんが謎のポーズを取った。

 そういう事だったの!

 増子さんは、6年前から自作の魔法少女の格好で出歩いていたのか……

 どうりで町中を魔法少女の格好をしていても、誰も反応しなかったのね。

 見慣れていたら気にも留めないよね……


「商店街のおじさん達には好評だったけど同級生には不評でね。昔はみんなセイント・ジャスティスに夢中だったのにさ。大人になると魔法が解けちゃうのかな。ん、でも商店街のおじさんは大人だよなぁ……」


 増子さんが悩み始めた。

 僕はしず子さんの時とは別の意味で複雑な気持ちになった。

 彼女を完全に理解する事は難しいと思う。

 ただ一つだけ言える事がある。

 増子さんは色々な意味で平和な人だ!

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