第23話 自分より弱い奴に会いに行く
陽翔お兄さんの目的を聞いた後、僕と燐火ちゃんは二人で町中を探検する事にした。
健斗君と翔太君は帰宅したし、しず子さんは詩音さんを追いかけて去ってしまったからだ。
帰りを待っていた増子さんは、残念ながら今日はテスト勉強で忙しかったみたいだ。
僕としては燐火ちゃんが魔法少女としての使命に目覚めてくれたのが嬉しい。
他の仲間が活動出来なくても、僕と二人で事件を探しに行ってくれるのだから。
「いないなぁ。今までは町中に出て来たけど、町の外に出た方が良いのかなぁ」
燐火ちゃんが誰かを探している。
ん、今までは町中に出て来た?
まさか、燐火ちゃんは困っている人ではなく、今まで戦ってきた魔女を探しているのだろうか?
「燐火ちゃん、もしかして魔女を探している?」
「探していないよ。魔女はハズレだから」
「ハズレ?」
僕には燐火ちゃんが言っている意味が分からなかった。
「そうだよ。魔女はアイテムをドロップしないからハズレ。最初はドロップ率の問題でアイテムが出ないと思っていたけど、たぶん魔王とかラスボスと同じ扱いなんだと思う」
あぁ、まだ敵がアイテムをドロップすると思っていたのね。
現実世界はゲームとは違うのに……
「燐火ちゃん、敵を倒してもアイテムはドロップしないよ。それより人助けしようよ。人助けしたら、お礼に何かをくれるかもしれないよ」
「嫌だ! 人が持っている物じゃなくて、レアアイテムが欲しい!」
ダメだ……目的が完全にレアアイテムの入手になっている。
魔法少女から更に遠ざかっていく……
「レアアイテムが欲しいのは分かったけど、どうするつもりなの?」
「自分より弱い奴に会いに行く」
何それ?!
自分より弱い奴に会いに行く?
何で?
「何で自分より弱い奴に会いに行くの?」
「弱い相手なら沢山倒せるから確率が低いアイテムも出しやすいし、火力が強すぎてアイテムごと焼き払う危険が無くなるからね」
燐火ちゃんは自信満々に言った。
うん、その通りだね。
燐火ちゃんの最強魔法紅 蓮 躑 躅では、敵が本当にアイテムをドロップしても消滅するだろうから。
もっと威力が低い魔法で敵を倒したいというのは筋が通っている。
「分かったよ。出来るだけ探してみようか」
燐火ちゃんが諦めてくれなさそうだから、僕は一緒に敵を探しに行く事にした。
そんなに都合よく敵が出てくるかなぁ。
僕の想像通り直ぐに敵が出てこなかったので、海まで来てしまったよ。
少し遠くまで来てしまったなぁ。
塩分でべたつく砂が毛に付着して気持ち悪い。
少しだけ海で遊んだ後に帰ろうかな……と思ったら出て来たよ魔女!
「見つけたわよ魔法少女! 仲間の仇を取らせてもらうわよ」
「ハズレか……」
魔女は戦う気満々だが、燐火ちゃんはガッカリしている。
目的は魔女より弱い相手だったからね……
「逃がすか! 出でよ! 我が眷族たち!」
魔女が両手を上げると、猛犬のような無数の魔獣が現れた。
囲まれた! これでは逃げられない!
「出て来た! 雑魚敵!!」
燐火ちゃんが喜んだ。
元々、弱い敵を探していたけど、周囲を囲まれる程に沢山の敵は想定していないでしょ?
どうするのさ、魔獣に咬まれたら!
「これで私の勝ちね。私が魔獣使いの魔女だって事に気付かなかったのが貴方達の敗因よ!」
魔女が勝利宣言をした。
どうしよう? 敵の数が多すぎる!
燐火ちゃんの最強魔法の紅 蓮 躑 躅は敵が近すぎて使えない。
単体攻撃の炎 剣 菖 蒲では、敵が多すぎて対処出来ない。
どうしよう?
これだけ敵が多いと、僕が敵の注意を引く作戦も効果はない。
僕は対処方法を思いつかなかったが、燐火ちゃんは平気な顔をしている。
変身ブローチを天に掲げて、愚者の杖を生み出した。
そして詠唱を始めた。
これは……新しい呪文!
猛獣の牙より鋭き劫火の牙よ
我に仇なす全ての敵を絡め取れ
出でよ! 樹木の如き生命の花!
「蹴散らせ! 珊 瑚 刺 火」
牙の様な鋭い湾曲した無数の劫火の花弁が、燐火ちゃんを中心に生み出され、魔獣使いの魔女と魔獣たちを串刺しにしていった。
そして、周囲を埋め尽くす程に沢山いた敵が一瞬で灰になった。
敵が灰になって、僕の気分はハイになった!
そんなくだらない事を思うくらい、新しい魔法の効果に興奮を抑えられなかった!
「やったね燐火ちゃん。敵が一瞬で灰になったよ」
あれっ、何故か燐火ちゃんが地面を這っている。
「無いっ! アイテムが無い!!」
えっ、燐火ちゃん。
まだ敵がアイテムをドロップするのを諦めていなかったの?!
ゲームじゃないんだよ。
現実世界で、敵を倒したらアイテムがドロップする事なんて普通はないよね?
「燐火ちゃん、敵を倒してもアイテムをドロップしないよ。相手が弱くてもね」
「アイテムが出ないのはテプちゃんのせいだからね!」
何故か僕が怒られた……
納得がいかなかったので、現実を見ようよって言おうとしたが、直前で言うのを止めた。
僕自身も現実を見ていない事に気付いたからだ。
魔法少女に選ばれた少女は、魔法少女の使命に目覚めて人助けをする。
その考え自体が現実を見ていない。
目の前にいるのはゲーム好きな普通の少女なのだ。
選んだ相手によっては、魔法少女の使命など放棄して逃げ出していたかもしれない。
理由は何であれ、一緒に戦ってくれるだけで有難い事なのだ。
「ごめんね燐火ちゃん、そろそろ帰ろうか?」
僕は素直に謝った後、燐火ちゃんと一緒に帰宅した。




