第22話 陽翔お兄さんの真意
燐火ちゃん達は陽翔お兄さんのデート相手を追い払えて満足したようだ。
だけど僕は違う。
僕は陽翔お兄さんの隣の席に座った。
「どうしたのテプちゃん?」
「陽翔お兄さんは、何であの人とデートしていたのですか? 普通はデートが上手く行かなかったら怒りますよね?」
「僕が彼女とデートしていたのは恋愛とは別の理由だからさ。まぁ、目的を果たせなかったは残念だけどね」
「目的ですか? 何かの事件がらみですか?」
「良く分かったね。そうだよ、僕は調査の為に彼女を誘ったのさ」
「……怪盗ガウチョパンツとしての目的ですか?」
「ありゃ~、良く分かったねテプちゃん。バレないと思ったのにな~」
陽翔お兄さんが恥ずかしそうに頭をかいた。
バレバレだよ陽翔お兄さん……
燐火ちゃん達にもバレてたよね?
「陽翔お兄さんが怪盗ガウチョパンツだって気付けたのは、あの眼鏡のせいじゃないかなぁ」
「あれか。あの眼鏡を付けてればバレないと思ったのに。これはね、普通は見えない魔の物を見る事が出来るんだよ。蒼真から借りてるんだ」
陽翔お兄さんが蝶の眼鏡を取り出した。
あっ、やっぱり纏蝶さんのお店の製品だったのね。
蝶のデザインが同じだから、何となく気付いていたよ。
「魔の物が見えるから、この前の展示物のスフィンクスに魂があるって気付けたのですか?」
「そうだよ。そして、アレが人為的に起こされた事件だという事を突き止めている」
人為的? まさか?!
「陽翔お兄さん、もしかしてだけど……詩織さんって事件に関わっています?」
「僕の調査結果では関わっていると思っている。だからデートに誘って色々聞き出そうと思ってたのだけどね。燐火ちゃん達は、彼女の裏の顔に気付いていたのかな。今まではデート中に邪魔をされた事が無かったからね」
「調査の邪魔をして、ごめんなさい」
僕は頭を下げた。
「気にしなくて良いよ。あとはしず子に任せるから」
「何で私が調査しなければならないの?」
「後輩なんだろ? ほら、俺の交際相手の素行調査って事で頼むよ」
陽翔お兄さんが手を合わせて頼み込んだ。
「何で私が素行調査をしなければならないの? 貴方の交際相手でしょ……仮のだけど。自分で調べなさいよ!」
「まぁ、そう言わずに頼むよ! 交際相手の素行調査は幼馴染の特権だよ!」
「そんな特権はいらないわよ!」
「でも、調べるんだろ? アイツはエジプト展のスフィンクスに魂を込めた。死霊術か降霊術に関わりがある」
しず子さんの顔つきが変わった。
もともと、幼馴の二人と会話している時は話し方が変わっていたが、今回の変化はそういうものではない。
強い殺意を感じるのだ……
初めて癒しの水を浴びた時も同じだった。
びちょびちょになった驚きで忘れていたが、癒しの水を浴びて最初に感じたのは暗く深い殺意だった。
僕は魔法王国の妖精だから分かる。
魔力に込められた感情を。
普通は回復系の魔法を使う人は優しい人が多い。
この人を救いたい……痛い思いをさせたくない……そういう優しい思いが魔力に込めれれている。
だけどしず子さんは違う。
彼女の魔力が殺伐としているのは、人を助ける為に必死なだけだと思っていたが、それだけではないようだ。
「調べるわよ。でも貴方達の為ではないからね。燐火ちゃん達に暴言を吐いた事を許さないだけだから」
しず子さんが支払いを済ませて出て行った。
貴方達?
貴方達に僕は含まれないはず。
それなら貴方達って言った意味はーー
「陽翔お兄さん。もしかして、今回の件に纏蝶さんは関わってますか?」
「関わっているよ。百怨ショップに集められた魔道具や呪物は、僕が回収したものが大半だからね。人々に害をなす魔の物を集めるのが怪盗ガウチョパンツの使命さ」
僕は最近世間を賑わしているニュースを思い出した。
盗難品が直ぐに戻ってくるので大騒ぎにはなっていなかったが、珍事件としてニュースに取り上げられていたのだ。
「もしかして、盗まれた美術品が数日後に戻ってくる事件が起きていたのは、陽翔お兄さん達がやっている事なのですか?」
「その通りだよ。人々の為にやってはいるけど犯罪だからね。バレない様にするのは大変なのさ!」
もっとまじめにやってよ!
そんな大事な事なら、バレない様にしっかり変装してよ!
でも、そういう理由なら僕達も協力出来るかもしれない。
「それなら僕達も手伝いますよ。人助けは魔法少女の役目ですから!」
「それは止めた方がいい」
陽翔お兄さんが真剣な目を向けている。
「どうしてですか?」
「『きょうかい』と敵対しているからだ。君たちを死なせたくはない」
「きょうかい? 何かの宗教ですか?」
「宗教か……そういうものも含まれる。邪神の復活をもくろむ邪教の『教会』、魔法至上主義の魔術師達の『協会』、この世とあの世の『境界』を脅かす存在……僕達は多くの『きょうかい』と日夜戦っているのさ」
多くの『きょうかい』との戦い。
僕達の知らないところで、そんな事が起きていたとは……
魔法少女と一緒に楽しく人助けと言っている状況ではないな。
「敵が多いなら、仲間が多い方が良いと思うけど……」
「ありがとうテプちゃん。でも、これは僕達の役目なんだ。君たち日の当たる世界の人々が関わっちゃいけない事なんだよ」
そう言った陽翔お兄さんの目は輝いていて、物語の主人公の様だった。
あれっ、おかしくないかな?
もしかして、僕って脇役の一般人扱い?!
僕だって魔法王国の妖精で王子なんですけど!




