第18話 サキちゃん
増子さんのパワーアップを諦めた僕達は、纏蝶さんに別れを告げて帰る事にした。
だが、簡単には帰る事が出来なかった。
百怨ショップを出て直ぐの大通りで魔女と遭遇したからだ。
背中から翼が生えている魔女がいたのだ。
「やっと出て来たわね魔法少女。忌々しい店から出てくるのを待ちわびたわよ」
百怨ショップが魔女に忌々しいって言われているよ。
魔女から見ても異常なのね、あのお店……
「出たな魔女！ くらえ！！」
増子さんが走って翼が生えた魔女に殴りかかった。
増子さ～ん！ 変身するの忘れているよ！
変身しても攻撃力は変わらないけど……
「当たらないわよ！」
魔女が消えた？！
何処に行ったのだろう？
「テプちゃん、あそこにいたよ」
燐火ちゃんが魔女の居場所を教えてくれた。
翼が生えた魔女は、元いた場所から50m離れたところにいた。
この魔女の能力は高速移動だな。
「待て！」
「無駄だよ！ 魔法少女がこんなにも弱いなら、この地を手に入れるのは容易いわね」
増子さんが追いかけて攻撃するが全く当たらない。
何で無駄に攻撃を繰り返しているのだろう？
疑問に思った僕に燐火ちゃんの詠唱が聞こえた。
この魔法は……燐火ちゃんの奇襲用魔法炎 剣 菖 蒲！！
増子さんは燐火ちゃんが魔法を使う時間を稼いでいたのか！
全てを貫きし灼熱の刃よ
大地を穿ち 我の敵を討て
気高き勝利の花
「貫け！ 炎 剣 菖 蒲！！」
燐火りんかちゃんの詠唱が終わると同時に、炎で出来た刀剣のように鋭い唐菖蒲が道路を突き破って現れた。
だが、翼が生えた魔女は空中に逃れていた。
燐火ちゃんの魔法ですら当たらない？！
あと魔法を使っていないのはしず子さんだけだが、攻撃魔法が使えない彼女では魔女を倒すのは無理だと思う。
この魔女を倒すには、逃げる場所すらない程の圧倒的火力が必要だと思う。
それが出来るのは、燐火ちゃんの広域殲滅魔法の紅 蓮 躑 躅だけ。
でも被害が大きいので町中では簡単に使えない。
どうしよう……
「サキちゃんがいればなぁ……」
燐火ちゃんが呟いた。
「そうね、サキちゃんがいれば何とかしてくれそうね～」
「僕は嫌いだから会いたくないなぁ」
しず子さんは燐火ちゃんと同じ意見だが、増子さんは嫌っているようだ。
サキちゃんって誰かな？
オハコとプレナを見たが、二人共否定するように首を振った。
どうやら魔法王国の仲間は誰もサキちゃんを知らないみたいだ。
燐火ちゃんとしず子さんは、サキちゃんの登場を待っているようだが、そんなに都合よく現れるのだろうか……
「あっ、サキちゃんいた！」
「本当だ。サキちゃ～ん。あの魔女を退治してくれないかな～」
燐火ちゃんとしず子さんが呼びかけた先には……条さんがいた！
僕の公園友達の糸園 条さん。
47才のサラリーマンの彼には、どこにもサキちゃん要素はないのだけど……
「テプ殿ではないですか」
条さんが近づいてくると同時に、何故か増子さんが電柱の影に隠れた。
何で怯えているの？ 勇気は何処にいった？
増子さんの行動は謎だが、今は条さんを戦いに巻き込まない様にしないと！
「条さん！ 危険なので逃げて下さい！」
僕は条さんを止めようとしたが遅かった。
「人間が増えた、増えた。全員切り刻んであげるわよ」
魔女が攻撃しようとしたので、僕は前足を上げて直立した。
「ここは通さないぞ！」
僕が立ち塞がったところで無駄だとは分かっている。
それでも、僕がみんなを守るんだ！
ごぼっ！
背後で嘔吐するような音が聞こえた。
恐ろしい魔女を見て条さんが吐いたのかもしれない。
振り返ると条さんの口から嘔吐物ではなく……白くて蠢く無数の糸が出ていた。
こ、こえええええっ！
何アレ！！！
恐怖でプルプル震えていると、謎の糸が翼が生えた魔女に向かって噴き出された。
びゅるるるるるっ！
翼の生えた魔女が空に逃げたが、無数の白い糸が複雑な軌跡を描きながら追いかける。
それはロボットアニメのミサイル戦闘のようだった。
翼が生えた魔女を追尾する白い糸が、ミサイルが生み出す白煙の軌跡の様に見えるのだ……
最初は余裕を見せていた翼が生えた魔女だったが、先回りをしていた糸の一本が左足を貫いたら形勢が逆転した。
バランスを崩した翼が生えた魔女を、白い糸が次々に貫いていった。
そして、翼が生えた魔女が干からびていき、最後は吸収されて消滅した。
動きを止めた白い糸を見て分かった。
これ……寄生虫のアニサキスだよね？
アニサキスのサキちゃんだったのね……増子さんが逃げた理由が分かったよ……
「ありがとうサキちゃん」
燐火ちゃんがお礼を言うと、サキちゃんが条さんの口の中に戻っていった。
「急に体が軽くなった！ テプ殿に会えて元気をもらったからかな？」
意識を取り戻した条さんが元気に言った。
元気になったのは、寄生している相手が魔女から養分を得たからだよ……
でも本当の事は言えない。
「今日はいい天気だからじゃないかなぁ……晴れていると気分が良いですからね……」
僕は誤魔化した。
これが虫使いとしての能力なのか、寄生されているだけなのか……僕には分からなかったからだ。
時間があったらしず子さんに聞いてみよう。
条さん本人に聞くのは気が引けるからね……
