第16話 痴話喧嘩?
今日は二度と行きたくなかった百怨ショップ蝶番に来ている。
目的は増子さんの魔法力の強化だ。
僕の想像通りなら、このお店に魔法力を強化出来る道具があるはずである。
初めて来た時は恐ろしくてハッキリと見ていなかったが、陽翔お兄さんが言っていた通り、呪物以外にも魔道具や聖遺物も置いてあった。
燐火ちゃんは入店して直ぐに商品を見て回っている。
流石常連である。
問題なのは……しず子さんである。
今日のしず子さんは百怨ショップより怖い。
そして、そんなしず子さんを見ても態度を変えない纏蝶さんも怖いけど……
「あら、いらっしゃい。今日は何を探しに来たのかな?」
「またそんな不気味な恰好をしていたの! いい加減止めなさい!」
しず子さんが怒鳴った。
しず子が怒鳴った理由は分からないが、ボディビルダーの様な筋骨隆々な体型の纏蝶さんが、体が隠れるほどの大きな二枚の蝶の羽根を体に巻き付けた異様な服装をしているのは不気味だというのは理解出来る。
「失礼ね。しず子は知っているでしょ? ママと同じ格好を馬鹿にしないで欲しいわね」
「何で蒼真がお母さんと同じ格好をする必要があるの? 話し方も気持ち悪いのよ」
「なんなのよ。しず子だってママとは仲が良かったじゃない?」
「それは蒼真のお母さんだったから! 蒼真が同じ格好をしなくてもいいでしょ!」
「蝶には魔を払う力がある。収魔師としての正装なのよ。昔は素直な子だったのに、どうしてこんなに拗ねちゃったのかしらね」
「貴方の……貴方のせいでしょ!」
しず子が感情を露わにするのを初めてみた。
いつもは、ふわふわとした雰囲気で話すのに……
「ねぇオハコ? どうしたのしず子さん。様子が変だけど」
「見ての通りだよ。俺様に聞くなよ」
「分からないから聞いているのだけど。しず子さんの契約妖精なら分かるでしょ。何であんなに苛立っているの?」
「当たり前の事を聞くなって! 好きな人が変な恰好で、変な話し方していたら嫌だろ?」
好きな人?
嘘でしょ!!
しず子さんが纏蝶さんの事を好きだって?!
オハコは何を言っているのだろう……僕をからかっているのかな?
僕が納得していないのがオハコに伝わったのだろうか、オハコが尻尾でカウンターの上の写真立てを指した。
そこには女性と見間違うような美青年の腕に飛びついている学生服姿のしず子さんと、陽翔お兄さんが写っていた。
陽翔お兄さんは言っていた。
しず子さんと纏蝶さんが同級生だって。
消去法で考えると、この美青年が纏蝶さんという事になる。
ええええっ!
何があったら、この美青年が三倍以上の体格の筋肉バッキバキ男になれるの?
「お友達が困るでしょ。いい大人なんだから落ち着きなさいよ」
纏蝶さんがしず子さんを落ち着かせようとした。
「いい大人なのに変な事ばかりしているのは蒼真の方だから!」
「変な事ではないわよ。私はこの仕事に誇りを持っている。しず子こそ、なにかしなさいよ。28才なのに何もしていないのは問題よ。やりたい事はないの?」
「私が……私がやりたかったのは……」
しず子さんが口篭もった。
僕は気付いてしまった……しず子さんがやりたかった事を……
オハコの言う通り、しず子さんが纏蝶さんを好きなら答えは簡単だ。
纏蝶さんと一緒に百怨ショップで働きたかったのだろう。
纏蝶さんのママさんの様に。
でも、纏蝶さんがママさんのポジションに収まってしまったから、しず子さんのいるべき場所が無くなってしまったのだろう。
ふ、複雑だあ~。
「まぁ、直ぐには答えがでないでしょうけどね。今日はゆっくりしていきなさいよ。欲しい物があったらサービスするわよ。昔あげた古いお守りより効果が高いのが揃っているからね」
纏蝶さんがしず子さんの胸の変身ブローチを指差した。
昔あげた古いお守り?
しず子さんの変身ブローチに古びたお守りがつけられていた。
やっぱり!
しず子さんの魔法が特別なのは、燐火ちゃんと同じで纏蝶さんのお店の製品を身に着けているからだった。
「私はいらないわよ! 今日はこの子にあげる物を選びに来たの!」
「僕は勇気増子。勇気マシマシの魔法少女セイント・ジャスティスをやっている」
増子さんが纏蝶さん前に立って自己紹介をした。
「あら、元気な子ね。私の事は纏蝶さんって呼んでね」
「わかった! 宜しく纏蝶さん!」
「いいわね。貴女には特別な一品を選んであげるわね」
「ありがとう!」
増子さんが纏蝶さんに気に入られて良かった。
想定外のトラブルがあったけど、元々の目的である増子さんのパワーアップは出来そうだ。
「楽しそうに笑っているけど、テプちゃんは大丈夫なの?」
突然纏蝶さんに話しかけられて驚いた。
大丈夫って、どういう意味だろう?
「このままだと、お尻の毛が無くなるわよ」
纏蝶さんが指を差した先には、買い物カゴいっぱいに品物を詰めた燐火ちゃんがいた。
燐火ちゃあああああん!!
まさか、僕の毛で支払うつもりじゃないよね?
僕は慌てて燐火ちゃんを止めに向かった。




