第145話 テプ・グランデ
「ど、どうして?」
燐火ちゃんもフラマ・グランデの行動が理解出来なくて困惑しているようだ。
「どうしてって? どういう意味かな?」
「なんで威力が劣る水の魔法を使ったの? 火炎魔法使いとしての誇りはないの?」
「ないですねぇ。僕は大魔導士。だから常に最善な行動をとらないといけないのでね。君は極大紅蓮躑躅同士が激突すれば世界が崩壊するとは思いませんでしたか?」
「でも……最強魔法じゃないと倒せないと思ったから!」
「考えがたりないですねぇ。僕なんかを倒すために世界を滅ぼすのは釣り合わないですよ。テプ君が正しい判断をしなければ君は仲間を傷つけていたのですよ。ほいっ」
フラマ・グランデが胸元にぶら下がっていた僕を掴んで肩に乗せた。
なんだかフラマ・グランデの使い魔みたいな立ち位置で気まずいのだ。
「どうして? テプちゃんはわたしと一緒にいたくないの? なんで一緒に戦ってくれないの?」
「僕も燐火ちゃんと一緒にいたいよ。でも火力だけでは解決出来ない事もあるんだ。もう強力な火炎魔法は必要ないよ。強すぎる力は危険だから」
「でも……」
「燐火ちゃんなら魔法が使えなくても大丈夫だよ。勉強も運動も出来るんだから! 僕の自慢の燐火ちゃんは何をやっても一番なのだ!」
「うん。分かったよテプちゃん」
燐火ちゃんが賢者の石が取り付けられた変身ブローチをフラマ・グランデに渡した。
「良い子だ。さて、最後の仕事を済ませるとしようか」
フラマ・グランデが戦いを見守っていた増子さんの方に足を引きずりながら向かった。
燐火ちゃんの魔法でボロボロなのだ。
「今の僕の力ではこいつを破壊できない。頼めるか?」
フラマ・グランデが賢者の石を増子さんに差し出した。
「良く分からないけど受け取ればいいのか?」
増子さんが賢者の石を受け取ると一瞬で砕け散った。
忘れてた!
増子さんは魔法のアイテムや呪物を壊してしまう体質だったのだ。
「怪我を治しましょうか?」
しず子さんが癒しの水を使おうとしたが、フラマ・グランデは静かに首を振った。
「大丈夫なんですか? しず子さんに怪我を治してもらったほうが良いですよ」
「その必要はないんだよ。まだ目的を果たしていないからね」
「目的を果たしていない? 賢者の石を壊したのに?」
「賢者の石はもう一つあるからさ」
フラマ・グランデが胸元から賢者の石を取り出した。
賢者の石が二つあるのを知らなかったのだ。
「これを悪用されたら対抗出来る者はいない。早急に破壊する必要がある。頼んだよ」
「なんか複雑な気分だが任せてくれ!」
増子さんが賢者の石を受け取ると一瞬で砕け散った。
フラマ・グランデが僕を肩から下ろした。
見上げるとフラマ・グランデの体が透けてきていた。
「どうしたんですか?!」
「召喚の媒介の賢者の石がなくなったから消えるだけですよ」
「大変じゃないですか! なんとか出来ないんですか?」
「無理だよ。僕は元々存在しないからねぇ」
「せっかく出会えたのに、これでお別れなのは悲しいのだ」
「そう思ってくれるのは嬉しいですねぇ。色々教えたかったが、教えなくても君なら大丈夫かな。君は僕の教えがなくても正しい選択が出来ると思うからね」
「自信がないのだ」
「なら一つだけ教えておこう。扱える力より大きい存在であれ。自身の力の強大さに振り回されないようにな。自信がないくらいの方が悩みながら正しい答えが出せるものさ」
「頑張ってみるのだ」
「応援しているよ。最後に一つだけお願いしよう。グランデの名を継いでくれないかい? 君は見た目は小さいけど、強大な力に負けないくらい大きい存在だからね」
「グランデの名を継ぐ? 僕が?」
「そうだよ。テプ・グランデ。君こそ僕の後継者。君が大魔導士だ」
そう言ったと同時にフラマ・グランデが完全に消えた。
僕が大魔導士?
大変な事になったのだ。
燐火ちゃんではなく、僕が大魔導士として認めれられてしまったのだ。
嬉しいけど複雑な気分なのだ。
「色々あったけど無事に解決しわたね〜。暗くなる前に帰りましょ〜」
しず子さんが燐火ちゃんの手を引いて下山の準備を始めた。
さて、今日のところは帰るとしよう!
「テプちゃん、燐火ちゃんが受け取ってくれないから返しておくよ。大事な物だよね」
増子さんが賢者の石がなくなった変身ブローチを渡してきた。
壊れてなくて良かった!
変身の力は増子さんの能力でなくなっているみたいだけどね!
変身ブローチが僕の体に戻っていった。
ドクン!
なんだろう?
今の鼓動は?
「テプちゃん? なんで光ってるんだ?」
増子さんが驚いている。
僕が光っている?
別になにもしていないのだけど。
「テプちゃん、なんで神獣王モードになっているの?」
しず子さんも驚いている。
神獣王モードになっている?
僕は何もしていないけど?!
よく分からないけど、僕も異変に気がついた。
世界が震えているのだ。
違う!
震えているのは僕だ!
黄金の光につつまれ、僕の体は世界から消えた。




