第144話 世界を滅ぼす魔法
「今度は僕から攻撃するよ」
フラマ・グランデが詠唱を始めた。
これは自己相似珊瑚刺火!!」
「燐火ちゃん! 重層金鳳劫火を使って!」
「分かったよ!」
開闢より賜りし重厚なる力
絨毯の様に重厚な灼熱の花弁よ
幾重にも重なり我を守れ
何物も通さぬ不可侵の八重咲の花!
「立ち塞がれ! 重層金鳳劫火!!」
フラマ・グランデが放ったサンゴの様に枝分かれして僕たちを狙う炎の花弁を、幾重にも重なった重厚な炎の花弁が防ぐ。
魔法の威力が互角で決着がつかなそうなのだ。
「もう怒ったよ! やっつけるまで攻撃をやめないんだから!」
燐火ちゃんが赫 々 南 天の詠唱を始めた。
フラマ・グランデも赫 々 南 天を詠唱している。
同じ魔法同士の激突。
僕たちとフラマ・グランデの間で炎の果実が激しくぶつかり合う。
フラマ・グランデがどれくらい体力があるか分からないけど、このまま決着がつかないと子供の燐火ちゃんが先に疲れちゃう可能性が高い。
ここは僕の出番かな。
同じ魔法なら、魔力が高い方が強いのだ!
ふんっ!
僕の体から黄金の光が湧き出て、燐火ちゃんの魔法の威力が更に上がった。
燐火ちゃんの魔法がフラマ・グランデの魔法を押し込んでいく。
「これは……神の力か! 君は妖精である事をやめるつもりか? このままだと戻れなくなるぞ」
フラマ・グランデにも言われるとは思わなかったのだ。
やっぱりパパやハバっちゃんの言う通りなんだね。
でも僕は止まらないよ。
叶えたい願いがあるから!
「知ってるよ。でも僕には願いがあるんだ! 誰も願いを叶えてくれないから、僕が神様になって自分で願いを叶えるのだ!」
「そうか……余計な心配だったようだね」
「自分の心配をした方が良いよ。わたしの魔法の方が強いんだから! そろそろ当たっちゃうよ!」
燐火ちゃんの言う通り、燐火ちゃんが放った赫 々 南 天はフラマ・グランデの目前に迫っていた。
「大丈夫ですよ。僕は魔法の強さだけで大魔導士と呼ばれているのではないのでね。弾けろ!」
フラマ・グランデが指をパチンと鳴らすと炎の果実が弾けた。
何が起きたの?!
「驚いているようだね。赫 々 南 天には弾けて更に多くの敵を攻撃する派生魔法があるんだよ。それとも、僕が君の魔法に干渉した事に驚いたのかな?」
「そ、そんなの知らないよ! ゲームにはそんな仕様なかった!」
「ゲームではないからじゃないかなぁ。これが現実だよ」
「偽物は早くやられちゃえ!」
燐火ちゃんが攻撃魔法を次々に放っていくが、全てフラマ・グランデの謎の魔法で威力を分散させられている。
これでは僕が魔力を供給して魔法の威力を上げても無意味なのだ。
落ち着いてフラマ・グランデの魔法の謎を解明しないといけないのだ。
でも燐火ちゃんが錯乱していて、謎を解明するどころではないのだ。
魔法を使い始めてから、初めて思い通りにならなかったから仕方ないとは思うけど……
「落ち着いて燐火ちゃん!」
「落ち着いてるよテプちゃん!」
「無闇に魔法を使っても勝てないから様子を見ようよ!」
「わかってるよ! 威力を分散させられるなら、分散させられない威力の魔法を使えばいいだけだから!」
燐火ちゃんが魔法の詠唱を始めた。
これは燐火ちゃんの最強魔法極大紅蓮躑躅!
フラマ・グランデも同じ詠唱を始めたが、途中で詠唱を止めた。
「バカな! 極大紅蓮躑躅だと! 世界を滅ぼすつもりか!」
「偽物の大魔導士をやっつけるの!」
「くっ!」
フラマ・グランデが知らない魔法の詠唱を始めた。
そして、水色の可愛い魔法の花が咲き誇った。
これは水で出来たネモフィラなのだ!
炎の大魔導士フラマ・グランデが水魔法を使ったのは驚きなのだ。
でも、この程度の水魔法では極大紅蓮躑躅は止められない。
魔界の大地を焼き払った極大紅蓮躑躅同士がぶつかり合ったら世界が滅びる可能性があるから魔法を変えたのだろうけど、このままでは燐火ちゃんの魔法が紅鳶山と一緒にフラマ・グランデを消し飛ばしてしまう。
僕は……僕に出来る事は……何もしない事なのだ!
僕は神獣王モードを解除して魔力の供給を止めた。
「ど、どうして?!」
燐火ちゃんが狼狽えている。
ごめんね。
でも、こうしないと憧れの人を死なせてしまうから。
僕の魔力供給が絶たれたので、通常の紅蓮躑躅と同じ威力に下がった。
これでフラマ・グランデの水魔法と互角の威力なのだ。
炎と水の花が激突し、水蒸気が紅鳶山を包んだ。
水蒸気のせいで蒸し暑いけど、山や町が消し飛ぶのは防げたのだ。
一旦仕切り直しかな。
風が吹いて水蒸気がなくなるのを待とう。
にゅっ。
急に水蒸気の中から手が伸びてきた。
フラマ・グランデ!
油断していたのだ!
狙いは燐火ちゃんの賢者の石か!
僕は飛び跳ねて燐火ちゃんが首から下げている賢者の石を守ろうとした。
すかっ、むぎゅっ。
僕はフラマ・グランデの手ではない何かにしがみついた。
何が起きたの?!
風が吹いて水蒸気がなくなると、僕はフラマ・グランデの胸に飛びついていた事が分かった。
見上げると、フラマ・グランデの手は燐火ちゃんの頭に添えられていた。
「ダメだよ。魔法を人を傷つけるのに使ったらね」
フラマ・グランデの狙いは賢者の石ではなかった?!




