第14話 陽翔お兄さんの幼馴染
少しだけトラブルがあったけど、動物園は楽しかったな。
陽翔お兄さんがソフトクリームを買ってくれたので、燐火ちゃん達と一緒に食べた。
僕の分は陽翔お兄さんが食べさせてくれている。
「テプちゃん、美味しいかい？」
「美味しいです！」
「良かった。少し心配だったんだよね。ウサギさんだったらお腹壊すから」
「大丈夫です。僕はウサギではなくて妖精なので！」
「妖精か……珍しいな。魔獣とかならいそうなんだけどね」
魔獣とかならいそう？
僕は陽翔お兄さんの言った事が不思議に思えた。
何で魔獣がいるのが当たり前の様な言い方をするのだろう？
この世界に魔獣も妖精もいないけど、どちらかと言えば妖精の方が一般的だと思うのだけど。
僕が喋ったのに、全く驚かなかったのも不思議だと思う。
「陽翔お兄さんは、何で僕が喋っても驚かないんですか？」
「何でって？ テプちゃんは蒼真の所にいたんだろ？」
「蒼真の所？」
なんだろう？
人の名前だと思うけど……心当たりがない。
「テプちゃんは蒼真とは関りがなかったの？ 燐火ちゃんは蒼真のお店の常連だったから、テプちゃんは蒼真から預かった子だと思ったんだけどね」
「燐火ちゃんが常連のお店……」
僕は一か所だけ思いつく場所があった。
燐火ちゃんが常連のお店と言って思い浮かぶのは百怨ショップだ。
僕が苦手な纏蝶さんのお店だ……
「もしかして……纏蝶さんのお店の事ですか？」
「やっぱり知ってるじゃないか百怨ショップ蝶番。纏蝶蒼真は僕の元同級生なんだよ」
「えっ……」
陽翔お兄さんと纏蝶さんが元同級生？！
そうすると……しず子さんと纏蝶さんも元同級生だったって事？
そう言えば、纏蝶さんや百怨ショップの話題が出ると、しず子さんは必ず不機嫌になっていた。
あの蝶と筋肉の化け物は何をやらかしたのだろう……
「元同級生って事は、陽翔お兄さんは纏蝶さんの事をよく知っているのですか？」
「よく知っているよ。僕と蒼真としず子は幼馴染だからね」
「幼馴染！」
僕は思わず叫んでしまった。
筋肉ムキムキで蝶の羽根を纏った男が幼馴染なんて嫌だ！
何で陽翔お兄さんは普通にしていられるんだろう？
学校にあんなのがいたら怖いよ！
「驚かせちゃったかな？ 蒼真は普通じゃないからね」
「普通じゃないで済む相手ではないような……」
「そうだね。蒼真は収魔師だから、一般の人から見たら普通ではないよね」
えっ、収魔師？
何それ？
纏蝶さんは、怪しい物を売っているお店の変人店長じゃないの？
「おっと、また一般の人には分からない事を言ってしまった。昔から知っているから、僕にとっては当たり前の事なんだよね」
「収魔師って何ですか？」
「収魔師は古来より魔を収集する存在なんだ」
「魔を収集ですか？」
「そうだよ。魔とはね、この世の枠組みから外れた存在の事を言うんだ。そういう世界の枠組みから外れた危険な物を集めているのが収魔師の使命なんだ。蒼真はね、呪物、魔道具、聖遺物……あらゆる神秘を集めているんだ。世界の平和の為にね」
陽翔お兄さんは纏蝶さんの事を誇らしく思っているようだ。
纏蝶さん……情報量多すぎない？
僕の存在が霞みそうだよ！
僕だって魔法王国の妖精で王子なのに！
「凄い人だったのですね纏蝶さん。百怨ショップって、百円ショップの偽物だと思っていました」
「知らない人が聞いたら偽物って勘違いするよね。でもね、百怨ショップには意味があるんだ。百には沢山って意味がある。沢山の怨恨が集まるから百怨ショップなのさ。僕らが子供の頃は蒼真の両親がやっていたんだけどね……両親二人で蝶番。それがお店の名前の由来さ。今は蒼真が店長だけどね」
何だろう？
一瞬だけ悲しそうな顔をしていたような気がするけど……気のせいかな？
「ごちそうさま！」
「陽翔お兄さん、ソフトクリーム美味かったぜ！」
「まぁ、コンビニのより美味しかったですね」
陽翔お兄さんと話をしている間に、燐火ちゃん達がソフトクリームを食べ終わったようだ。
「それは良かった。僕とテプちゃんは食べ終わっていないから、少しだけまってね」
僕と陽翔お兄さんは話を止めて、ソフトクリームを食べ終わった。
「さて、帰ろうかみんな！」
陽翔お兄さんに連れられて僕たちは帰宅した。
僕は燐火ちゃんの部屋の押入れに入り、ベッド代わりの座布団に座った。
陽翔お兄さんと、纏蝶さんと、しず子さんが幼馴染か……
それなら、何でしず子は纏蝶さんの話題を避けるのだろう？
纏蝶さんの格好が原因かな？
あの独特な恰好の男性と知り合いだとは思われたくないよね。
今度、しず子と一緒に百怨ショップに行く機会があったら確認してみよう！
今日は色々収穫があったな。
纏蝶さんについて詳しくなれたし。
あれっ、僕は何をしに動物園に行ったのだろう……
