第138話 圧倒的なのだ!
トン。
オハコがテーブルの上に飛び乗った。
「おい小娘。これ以上強くなるのは危険だって言っているのが分からないのか?」
「そんな事はないよ。フラマ・グランデ様はわたしより強いもん」
「そのフラマなんちゃらはゲームのキャラクターなんだろ。そんなのと比べてもキリがねぇだろ?」
「ゲームのキャラクターでもいいじゃない! 強くなる事の何が悪いの?」
「それは……」
オハコがくちごもる。
難しい問題だよね。
僕でも燐火ちゃんが納得出来る説明が出来ないからね。
「そんな事を言ってたらお別れする事になるよ〜。このままだとテプは魔法王国か神界のどちらかに強制的に連れて行かれる事になるからね〜」
プレナが気が抜けた声で言った。
「神界の事はハバっちゃんが言ってたけど、魔法王国に連れて行かれるってどういう事?」
「聞いてないのかな〜。俺っち達は元々3月中に帰らないといけなかったんだよ〜。今回の件ですぐに帰るように国王に言われちゃったから、魔法王国のルールでは明日には帰らないといけないんだよぉ〜」
「そんなの聞いてないよ! 本当なのテプちゃん?」
「本当だけど……」
「テプちゃんはどうするの?」
「まだ魔法王国に帰りたくないからハバっちゃんに相談しに来たんだけど、今度は神界行きだって言われて困っているのだ」
「大丈夫だよテプちゃん。テプちゃんを連れ去ろうとする人は、わたしがやっつけるから!」
燐火ちゃんが怒っているのだ。
一緒にいたいと思ってくれているのは嬉しいのだ。
でも、みんなに迷惑はかけられないのだ。
「結論を急がなくてもいいんじゃないかしら〜。大事な事だからゆっくり考えましょ〜」
しず子さんが僕の頭をなでてくれた。
うれしいのだ〜。
そうだよね、まだ時間はあるからゆっくり考えるのだ。
「こちらノマド。聞こえるか?」
「ひゃっ!」
急に僕の腕輪から声が聞こえたから変な声を出してしまったのだ。
これは怪盗ガウチョパンツからの通信なのだ。
ひさしぶりだからびっくりしたのだ。
「こちらヘキサなのだ。どうしたのだ?」
「やっと通じた! 最近通信が繋がらなかったがどうした?」
「ちょっと魔界に行っていたのだ」
「魔界? よく分からないが紅鳶町の危機なのだ。しず子達から話を聞いていないのか?」
「聞いていないですよ。しず子さん、何か大変な事が起きているのですか?」
「ちょっとだけ七つの大罪の攻撃を受けているだけよ」
しず子さんがコーヒーを飲む手を止めてサラッと言った。
「ええええっ! なんでそんな大変な状況なのに落ち着いているの?! コーヒー飲んでる場合じゃないですよね!」
「大丈夫よ。増子ちゃんと芽衣子ちゃんが戦って退けていたから。嫉妬のクラウス・ズィーベンって男が機械兵を使って侵攻してきているのよ〜」
そんな簡単に言って平気な事なの?
機械兵ってロボットだよね?
銃とか使うのかな?
「お〜い! 聞いてるか! クラウス・ズィーベンの大侵攻が始まった! 海岸から上陸を始めている! 蒼真がやられた! 早く助けてくれ!」
纏蝶さんがやられた?
それは大ピンチなのだ!
「燐火ちゃん! 助けに行こう!」
「うむ、大賢者の出番なのだ〜」
「私達も一緒に行くわよ〜」
「おう! 魔法少女出撃だね。あとを頼んだよハバっちゃん」
しず子さんと増子さんと一緒に喫茶店を出て海岸に向かった。
魔法少女出撃なのだ!
海岸に着くと傷だらけの纏蝶さんと怪盗ガウチョパンツがいた。
銃を持ったロボットが砂浜を埋め尽くすようにいたのだ。
海には大きな船があり、次々に機械兵が降りてきているのだ。
いきなりクライマックスって感じなのだ!
「現れたな魔法少女! このクラウス・ズィーベンが今度こそ貴様らの町を滅ぼしてやるのだ! 撃て!」
機械兵達の先頭に立っていた男が指示をだすと、機械兵が一斉に発砲した。
「ふん!」
増子さんが手をかざすと銃弾が空中で停止した。
すごいのだ!
「助かったよしず子」
「きてくれるって信じていたぞ」
纏蝶さんと怪盗ガウチョパンツが元気になっていた。
しず子さんが癒しの水で回復させたんだね。
久しぶりだけど、みんなの連携は今まで通りなのだ!
「みんなで協力して今日こそクラウス・ズィーベンを倒すわよ〜」
「おう! 防御は任せてくれ!」
「芽衣子ちゃんも呼んでいるから来るまで持ち堪えるのだ!」
「クラウス・ズィーベンは私が取り押さえるわよ。集魔師としてね!」
しず子さん、増子さん、怪盗ガウチョパンツ、纏蝶さんが一緒なら負けないのだ。
スタスタ。
燐火ちゃんが機械兵の前に歩いていった。
「燐火ちゃん危ないよ!」
「やるよ。テプちゃん」
燐火ちゃんが愚者の杖を掲げて詠唱を始めた。
開闢より賜りし無限の力
猛獣の牙より鋭き劫火の牙よ
無限に増殖し 我に仇なす全ての敵を絡め取れ
出でよ! 世界樹の如き生命の花々よ!
「蹴散らせ! 自己相似珊瑚刺火!!」
炎の花弁が綺麗な模様を描きながら広がり、機械兵達を焼き尽くしていった。
「ばかな! 私の機械兵が!?」
「あの船もじゃまだね」
燐火ちゃんが再び詠唱を始めた。
開闢より賜りし真の力
あらゆる次元において 比類なき永久の炎よ
我らは示す
全てを貫きし灼熱の千刃を持って大地を穿ち我らの敵を討つと
顕現せよ!
全てを貫きし気高き勝利の花々よ!
「貫け! 無限炎剣菖蒲!!」
炎の花弁が海中から敵の船を貫き消し飛ばした。
「こ、こうなったらお前だけでも死ね!」
クラウス・ズィーベンが燐火ちゃんに銃を向けた。
「無駄だよ」
パチン。
燐火ちゃんが指を鳴らすと、銃が発火して消滅した。
「私が全ての財力を使って作り上げた軍団が……」
クラウス・ズィーベンが膝をついた。
「お金があるなら喫茶店で美味しいかき氷をたくさん頼んだほうがいいよ!」
燐火ちゃんが笑顔で言った。
圧倒的なのだ!
もう人間の脅威程度で困る事はないのだ……