第137話 新たな世界の脅威
喫茶店に入るとハバっちゃんが出迎えてくれた。
「いらっしゃい。なんだ客ではないのか。お嬢ならすぐに帰ってくるから奥で待っていろ」
「今日はハバっちゃんに用事があって来たんだよ」
「我は仕事が忙しい。待っていろ」
う〜ん、ハバっちゃん忙しいみたいだからゆっくり待っていようかな。
しばらく待っているとしず子さんと増子さんがやって来た。
「燐火ちゃん、テプちゃん久しぶり。最近見かけなかったけど何してたの?」
「そうだよな。平和だから問題ないけどさ」
「魔界に行ってたんだよ〜」
「り、燐火ちゃん! あのね、そのちょっと外国に旅行に行ってただけだから」
「怪しいわね」
「燐火ちゃん、僕がテプちゃんを捕まえておくから何していたのか教えてよ」
「いいよ!」
増子さんに捕まってしまったのだ。
燐火ちゃんが魔界での出来事を全部しゃべってしまった……
しず子さんも増子さんも怒りはしなかったけど険しい表情をしている。
そうなるよね。
異世界の大地を燐火ちゃんの火炎魔法で滅ぼしかけたんだからね。
子供がやっていいような事ではないよね。
「事情は分かったわよ。それでハバっちゃんに何を聞きたいの?」
しず子さんになら事情を話しても問題ないのだ。
僕はパパさんに言われた事を伝えた。
「それは大変ね。なんとかハバっちゃんと話を出来ないかしら?」
「それなら僕がハバっちゃんの代わりに店番をするよ」
増子さんがエプロンをしてハバっちゃんと交代した。
そしてハバっちゃんがスッと飛んで僕たちのテーブルに来た。
「何用だ? お嬢に仕事を押し付けるとは罰当たりな奴らめ」
いや、神様に仕事をさせる方が罰当たりだと思うけど……
でも言ったら面倒な事になるから黙っておこう。
「ハバっちゃんに相談したい事があるのだ」
「なんだ、言ってみろ」
「パパさん……魔法王国アニマ・レグヌムの国王マグナロクサイア・ロア・センタクトロルテプ5世に言われたんだけど、僕が妖精じゃなくなるって。僕は意味が分からなかったけど、ハバっちゃんは意味が分かるかな?」
「我も意味が分からんぞ。言われたままだろう?」
「言われたまま?」
「そうだ。テプよ、お主神獣になりかけているぞ」
僕が神獣になりかけている?
それって何が問題なんだろう?
妖精よりすごいんだよね?
「その様子だと分かっていないようだな。神になれば人と同じ世界で生きる事は出来なくなるぞ。もちろん妖精ともだ」
「えっ、普通に喫茶店で働いている神様もいるのに?」
「余計な事を言うな。我は特別だ。もともと神である我と、神に成ったものでは扱いが違うのだ。このまま力を使い続けて本物の神獣となれば神界に行かねばならなくなるぞ」
「それは嫌なのだ」
家出程度なら問題ないけど、本当に帰れなくなったり、燐火ちゃんと別れなければならないのは嫌なのだ。
「別に神獣になっても平気だよ。テプちゃんはうちで暮らすから」
燐火ちゃんがさらっと言った。
「娘よ。神の存在は危険なのだ。特になりたては力がコントロール出来ないからな」
「テプちゃんをいじめるならやっつけるよ。わたしの火炎魔法で」
燐火ちゃんがハバっちゃんを指差すと、ハバっちゃんの周囲に火球が生み出された。
「こ、これは……魔導に堕ちたか! これは人が使ってよい力ではない!」
ハバっちゃんが急に怒り出した。
魔道に堕ちる?
なんか怖いのだ!
「かっこいい! 大魔導師木花燐火様だぞ〜」
「喜んでいる場合ではない! 人の道を外れて良いと思っているのか!」
「魔の道を歩むのが大魔導師なのだ〜」
燐火ちゃんは無邪気に喜んでいるのだ。
ハバっちゃんが黙ってしまった。
なんだか嫌な感じがする。
今までみたいに純粋に燐火ちゃんは凄いのだと言えない。
「ふん、そういう考えならばもう言わぬ。世界の脅威にならない事を祈っているよ。我は仕事に戻る」
「ハバっちゃんは何で喫茶店でバイトしてるの?」
「人の世界で生きるには、人の常識に縛られる。それが世界を乱さぬコツなのでな」
ハバっちゃんがスッと飛んでいった。
世界を乱さないか……ハバっちゃんは色々考えているんだね。
このままだと、僕と燐火ちゃんが世界の脅威になるかもしれないのかぁ。
そうだよね。
僕たちは世界の脅威である魔女の始祖を滅ぼした。
魔界の脅威であるグリヌストスも滅ぼした。
そして、人の脅威である七つの大罪も残り二人。
僕たちは世界の全ての脅威を滅ぼせる。
逆側からみたら、僕たちが世界の脅威になるんだろうな。
僕たちは強くなりすぎたのかもしれない。
世界を脅かすくらいに……
「燐火ちゃん、賢者の石を纏蝶さんに返そう。これ以上強くなる必要はないよ」
「えっ、何で?」
「もうそんなに力はいらないよね。残りの七つの大罪は二人だけだから。人間相手なら燐火ちゃんの魔法だけで大丈夫だよ!」
「ダメだよ! もっと強くなって大魔導師フラマ・グランデ様を目指すのだ〜」
燐火ちゃんが無邪気に笑った。
どうしよう?!
僕では燐火ちゃんを止められないのだ……
際限なく強くなり続ける燐火ちゃんを初めて怖いと思ってしまったのだ……




