第127話 バルギアンの王
魔獣を倒した後、僕たちは町に戻らずバルギノルへ向かって旅立った。
隣の国に行くのは大変だと思っていたけど、エイビィさんの背中に乗っていたから楽に辿り着けたよ。
一度も休まずに走り続けるなんて凄いな。
魔王さんが言っていた通りバルギアンの能力は強大だった。
バルギアン相手に魔界の人たちが戦っても勝ち目はないよね。
燐火ちゃんの魔法でやっつけるのは乱暴すぎるから、僕が交渉して平和を勝ち取るのだ!
「さっそく王に会ってくれ」
「いきなり王様?! 会っても大丈夫なの?」
「バルギアンの王は最も偉大な者が選ばれる。失礼があれば殺されるかもしれんな」
「えええええっ! 殺されるかもしれないのに会いに行くの?!」
「そうだ。テプなら大丈夫だろう。実力で王を打ち倒すのだ!」
王を打ち倒す?!
何言ってるのエイビィさんは!
僕の何を見て大丈夫って言ってるの?
バルギアンの王と対決なんて心の準備が出来ていないよ!
「面白そうだから行ってみようよテプちゃん」
「燐火ちゃんは気楽だなぁ。対決するのは僕なんだよ」
「テプちゃんだから面白いと思うよ。わたしが戦ったら何も残らないからね」
「燐火ちゃ〜ん。冗談になっていないよ〜」
「大丈夫、大丈夫! 大魔導師様が一緒にいるんだから安心して」
「分かったよ。燐火ちゃんは怖いもの知らずだよなぁ」
「何を言っているのだ?」
おっと!
エイビィさんに燐火ちゃんの言葉を翻訳してなかった。
お返事するのと翻訳のどっちを優先させればいいか判断が難しいよね。
「友達と王に会いに行く話をしていたんだよ」
「そうか! 一緒に来てくれるのだな。ありがとう!」
エイビィさんが巨大な爪を燐火ちゃんに向けると、燐火ちゃんがスッと愚者の杖を取り出した。
もしかして戦おうとしてる?!
「燐火ちゃん! 攻撃じゃなくて握手だから!」
「そうだったんだぁ。いきなり爪を向けるから戦うのかと思った。よろしくね」
燐火ちゃんがエイビィさんと握手をした。
ふぅ、いきなり戦いが始まりそうで焦ったよ!
お互い理解し合うのは大変そうなのだ。
「さぁ、行こう!」
エイビィさんの案内され大きな洞穴に入った。
洞穴の中は結構明るかった。
最初は魔法かと思ったけど、良く見たら光るコケだった。
すこし持って帰りたいな。
僕の部屋代わりの押し入れも明るくなりそうだからね。
「見ろ。あのお方が我らバルギアンの王、カイニィ様だ」
「何用だエイビィ? ネイラスティアの地に向かったのではなかったのか? 我が命を忘れたのか?」
豪華なイスに座ったカニ人間が話しかけてきた。
カニみたいな見た目だからカイニィか……
分かりやすくて良いけどカッコ悪いなぁ。
「王よ。使命を忘れてなどいない。出会ったのだ。ネイラスティアの地で、この者たちと!」
「なるほど。この者たちが予言の者だと言うのか?」
「そうだ。このテプが我らバルギアンを導く最後の王になる! だから王の座を退いてもらうぞカイニィ!」
「偽物だったら、どうなるか分かっているな? バルギアンの歴代の王の中で、最も偉大な王である私を超えられるのか?」
「超えてみせる! テプがな! さぁ、王と対決しよう!」
エイビィさんが王と僕を戦わせようとしている……
何を考えているんだよ!
燐火ちゃんに説明して助けてもらた方が良いよね!
「燐火ちゃん! エイビィさんが僕と王様を戦わせようとしてるんだよ!」
「面白そうだね! ゴー! テプちゃん!」
燐火ちゃん!
ドッグスポーツのノリで僕を魔界の甲殻類系の魔人みたいなのと戦わせようとしないでよ!
どうしよう?!
やっぱり僕が戦わないといけないのかなぁ……
「準備は出来たか? 体に絡まったゴミを取り除くだけの知性があるようだから期待しているぞ」
カイニィ王が変な事を言っている。
体に絡まったゴミを取り除くってどういう意味だろう?
たぶん勘違いなんだろうと思うけど。
「ゴミってなんですか?」
「知らないのか? ネイラスティアの民は体にゴミが絡まっているだろう?」
カイニィ王が燐火ちゃんに爪を向けた。
僕はバルギアンと燐火ちゃんを見比べた。
ああああっ!
そういう事だったんだね!
多分、カイニィ王が言っているゴミは服の事だと思う。
僕はフサフサの毛があるからバルギアンと同じで服を着ていないけど、人間は服を着ているからね。
「カイニィさん、あれは服ですよ」
「ふく? ふくとは何だ?」
「人間は体温を調節するために植物とかで作った服を着るんですよ」
「何だと! ゴミが絡まっていると思っていたが、あれは自分で巻きつけていたのか!」
「巻きつけているっていうのは正しくないけど、自分で身につけているんですよ」
「し、知らなかった。ゴミまみれの生物だとバカにしていたぞ」
「そうだったんですかぁ」
う〜ん、そんな勘違いってある?
魔王さんが言っていた皇帝タルディアス二世って、どうやって服すら知らないバルギアンと和平交渉したんだろう?
もしかして偉大な王だった?
「テプよ。貴殿が我らに匹敵する知恵がある事は分かった。だが、対決をせずに認める訳にはいかない」
カイニィ王が立ち上がった。
忘れていた!
これから僕はカイニィ王と対決するんだった!




