第118話 冥王から逃げるのだ!
嘆願石の悪魔を一掃した僕たちは、しず子さん達の元に戻った。
「全員やっつけてきたよ〜」
「映像で見たわよ。おつかれさま〜」
「燐火ちゃんは凄いな。僕ももっと頑張らないとな」
しず子さんと増子さんが燐火ちゃんを出迎えてくれた。
あれっ、怪盗ガウチョパンツがいない。
僕はキョロキョロあたりを見渡した。
「あの変態仮面を探してんのか? あいつなら敵を連れて先に帰ったぞ」
「ここから先は僕の仕事だってドヤ顔で言ってたよ〜」
オハコとプレナが状況を説明してくれた。
怪盗ガウチョパンツがマルク・セットゥを連れていったんだね。
途中で逃げられないといいなぁ……
「ちょっと心配だなぁ。仲間が助けに来たら負けちゃいそうなんだよな〜」
「大丈夫だろ。あいつら仲が悪いみたいだから助けに来ねぇよ」
「そうそう。仲間同士で競ってるから助けに来ないって。早く家に帰って寝ようよ〜」
プレナは早く帰りたくて言っているような気がするけど、オハコが言うなら大丈夫だよね。
僕たちはみんなで協力したから勝てたのだ!
「そろそろ帰ろうと思うけど大丈夫?」
「うん。大丈夫です」
しず子さんに返事した後、隠し通路を通ってショッピングモールの外に出た。
そしてしず子さんの車で紅鳶町に帰った。
「みんなお疲れ様。これで一件落着ね」
「明日からは普通に魔法少女活動しよう! ハバっちゃんにも伝えておくよ」
「よっしゃ。返えるぞしず子」
「もう眠たいよ〜」
「ばいば〜い!」
みんなが帰っていった。
でも僕は無言で周囲を警戒している。
自分の身を守れるのは自分だけだからだ。
僕には分かっている。
これが本当の終わりでない事をーー
翌日、冬休みだから燐火ちゃんと一緒にお出かけする事にした。
僕はさっそく怪盗ガウチョパンツに習った隠密行動を実践してみた。
カサカサカサ。
壁際をはって塀の外をチラッと見て安全かどうか確認した。
「テプちゃん? なんでゴキブリのモノマネしてるの?」
「ゴキブリじゃないよ。怪盗ガウチョパンツに習った隠密行動だよ」
「えっ? なんて言った?」
僕が小声で言ったから燐火ちゃんには聞こえなかったみたいだ。
足元で言っても聞こえないみたいだね。
ぴょん。
僕は燐火ちゃんの肩に乗って同じ事を言った。
「なんで隠密行動しているの?」
燐火ちゃんが不思議そうな顔をしている。
分かってないなぁ。
燐火ちゃんは当事者では無かったから記憶に残っていないのかな。
でも僕は絶対に忘れない。
あの時の恐怖を!
また彼女が僕を襲撃してくるはずなんだ!
そう……冥界の王が!
今回も芽衣子ちゃん抜きで最終決戦を終えちゃったからね。
絶対僕に何か仕掛けてくるはずだ。
今回も激辛品を送ってくるかな?
苦いお茶を飲まされる可能性もあるよね。
僕の押し入れのお部屋にゴキブリのおもちゃが置かれているかもしれない。
新しい魔法少女登場とか言ってママが出てくるドッキリは……ないかなぁ。
でも何が起きても大丈夫!
前回やられた後にドッキリ動画を見て勉強したからね!
だから燐火ちゃんにも話をしない。
燐火ちゃんも仕掛人の可能性があるからね。
「常在戦場って言葉を覚えたからだよ。いつも警戒しながら生活しないとね!」
「そんなに警戒しなくても安全だと思うけどなぁ」
「その油断が命取りだよ。さぁ行こうか!」
今日は博物館に行くのだ。
僕は燐火ちゃんの前を歩く事にした。
その方が芽衣子ちゃんに出会わないで済むからね。
この反応は!
芽衣子ちゃんの気配を感じた。
もう芽衣子ちゃん抜きで事件を解決した事に気づいたのか!
想定はしていたけど早すぎる!
「あっ、蝶々さんだ〜」
僕は脇道に入った。
「蝶々? 冬なのにいたの? テプちゃんそっちは遠回りだよ」
燐火ちゃんが戸惑っているけど気にしていたら逃げきれない。
「今度は猫さんだ〜。猫さんは冬でもいるよね〜」
「テプちゃんなんで解説口調なの? 待ってよ〜」
よしっ!
疑われているけど燐火ちゃんがついてきてくれている。
細かい事は気にしない。
結果的に芽衣子ちゃんに出会わなければ良いのだ。
僕は燐火ちゃんを誘導しながら芽衣子ちゃんを避けて博物館に向かった。
博物館の中でも油断をしなかった。
事前に館内マップを頭に叩き込んでいたから、どこから来ても逃げられるのだ。
芽衣子ちゃんの気配を探る事に集中していたから、展示内容をじっくり見れないのは残念だけどね。
僕は疲れただけだけど、燐火ちゃんは満足してくれたみたいだね。
燐火ちゃんと一緒に帰宅した後、パパさん、ママさんと一緒に夕食を食べた。
「燐火、芽衣子ちゃんと喧嘩してるの?」
珍しくママさんが芽衣子ちゃんの事について話をした。
「喧嘩してないよ。どうしたの?」
「初詣に誘いたいのに燐火に避けられてるって芽衣子ちゃんが泣いてたわよ」
「テ〜プ〜ちゃ〜ん!」
燐火ちゃんがギギギッと音がしそうなぎこちない動きで僕の方を見た。
「僕が……悪いのかなぁ……はははっ」
夕食後、僕は燐火ちゃんから説教された。
僕が悪かったのかなぁ。
最終決戦後に芽衣子ちゃんがやってきたから警戒しただけなのに〜。