第108話 優しい怪盗ガウチョパンツ
色々問題だらけのクリスマスを乗り越え、再び嘆願石集めをする事になった。
来年のクリスマスに向けて、良い事をしようと燐火ちゃんが張り切っているからだ。
平日は隣町で嘆願石に憑りつかれた人を探す時間が足りないから、いつも通り紅鳶町で魔法少女として町のみんなのお手伝いをする事にした。
そして休日はしず子さん、増子さんと一緒に隣町で嘆願石で狂暴化した人を探す作戦なのだ。
翌日は土曜日だったから、僕達はしず子さんが運転する車で暗渠町に向かう事にした。
そして芽衣子ちゃんと合流した。
芽衣子ちゃんも戦えるようになったから一緒に頑張るのだ。
なぜか怪盗ガウチョパンツが一緒なのが気になるけど……
「よしっ、みんな揃ったな。二手に分かれて嘆願石の犠牲者を探そう。今回は手がかりがないからね」
何故か怪盗ガウチョパンツが指揮をとっている。
「陽翔。二手に分かれるのは分かったけど、組み合わせはどうするの?」
「陽翔ではない。私は怪盗ガウチョパンツだ。テプちゃん、燐火ちゃん、芽衣子ちゃんが私と一緒のチームだ」
「どうして貴方が燐火ちゃん達と一緒なのよ!」
「いいから聞けよ! 子供たちを危険に巻き込めないだろ? 僕がみんなの面倒を見ているから、しず子達で嘆願石を探してくれよ」
「そういう事なら先に言いなさいよ! さぁ、みんな~。二手に分かれて嘆願石を探すわよ~」
しず子がオハコ、増子さん、プレナを連れて歩いていった。
全部聞こえているんだけどなぁ。
まぁ、いいかな。
嘆願石の悪魔が具現化したら燐火ちゃんの魔法以外で倒せないからね。
二手に分かれていても悪魔が現れたら呼ばれるよね。
僕達は怪盗ガウチョパンツの後についていった。
2時間くらい歩いたところで怪盗ガウチョパンツが立ち止まった。
「少し寒いね。肉まんを食べながら休憩しようか?」
「ピザまんでもいい?」
真っ赤なものが好きな燐火ちゃんは肉まんよりピザまんの方が好きなのだ。
僕は甘いあんまんが大好きだけどね。
「いいに決まってるさ。あんまんでも豚まんでも好きなのを選んでいいよ」
「あんまんは許せないな」
芽衣子ちゃんがドスの効いた声で言った。
ええええっ!
あんまんダメなの?!
「芽衣子ちゃんはあんまん嫌いだったよね。わたしはピザまんだから関係ないけど」
「冥王軍はこしあん禁止だからね! 粒あんなら許すけど。私も燐火ちゃんと一緒のピザまんにしよう!」
な、なにそれ……
芽衣子ちゃんは粒あん派なんだね。
こんなところで粒あん派とこしあん派の戦いが勃発するとは思わなかったよ。
「テプちゃんは何にするの?」
「え、えっと肉まんかなぁ……」
「テプ君はウサギみたいな見た目なのに肉食なんだね」
「いやぁ、そうかもしれないなぁ……」
「みんな決まったみたいだね。そこのコンビニで買ってくるよ」
怪盗ガウチョパンツがコンビニにピザまんを買いに行った。
本当はあんまんが良かったけど、肉まんも美味しいからべつにいいかな。
「みんな買って来たよ」
怪盗ガウチョパンツが燐火ちゃんと芽衣子ちゃんにピザまんを渡した。
燐火ちゃんと芽衣子ちゃんが美味しそうに食べ始めた。
「テプちゃんは肉まんだったな」
怪盗ガウチョパンツから肉まんを受け取った。
一口かじると口の中に甘い味が広がった。
これはあんまんだ!
顔を上げて怪盗ガウチョパンツを見るとウインクを返して来た。
陽翔お兄さ~ん。
やっぱり陽翔お兄さんは気が利いていい人なのだ!
「美味しいです。はる……怪盗ガウチョパンツさん」
「そいつは良かった。すこし遠くまで来てしまったね。バスで駅前まで戻ろうか?」
怪盗ガウチョパンツの提案で僕達はバスに乗る事にした。
バスに乗ると他の乗客の視線が気になった。
怪盗ガウチョパンツはガウチョパンツだけなら普通だと思うけど、紫の蝶のマスクは恥ずかしいよね。
芽衣子ちゃんもパワードスーツを着ているから目立つよね。
それでもバスが走りだすと気にならなくなった。
僕達が珍しくても直ぐに飽きるだろうからね。
なんだろう?
他の乗客のざわつきが止まらない。
「なんだかワイルドな運転だね」
「レースゲームみたいで凄いね」
「そろそろ警察がきそうだよね」
怪盗ガウチョパンツと燐火ちゃんと芽衣子ちゃんだけがのんきに話をしているが、他の乗客は恐怖で凍り付いている。
窓の外を見ると物凄い勢いで景色が後ろに流れている。
一体どれだけの速度を出しているの?!
スピード違反だよ運転手さん!
運転手さんの方を見ると、お腹から生えた悪魔が運転をしていた。
ギャアアアアアア!
手遅れだよ燐火ちゃん!
もう敵が出て来てるよ!
なんでのんきに観光気分なの?!
「燐火ちゃん! 運転手さんが嘆願石に憑りつかれているよ!」
「ほんとだぁ~。全然気づかなかった」
「なんという事だ。僕達の方に敵が現れるとは! 作戦失敗だ!」
「冥王軍の出番だよ! 一緒にやっつけよう燐火ちゃん!」
「うん!」
燐火ちゃんと芽衣子ちゃんはやっつけようって簡単に言うけど、敵を倒すのは難しいと思うよ。
僕達は走行中のバスに閉じ込められているのだから。




