第100話 謎の悪魔
隠し部屋の中では、男性が魔法陣の真ん中にしゃがみ込んで何かを呟いていた。
男性から強い邪の気を感じる。
「ここで何をしてるんですか?」
男性が振り返った。
「誰だね君たちは? ここは立ち入り禁止のハズだ」
「テプちゃん、このおじさんもお化けかな?」
「だ、誰がお化けだ!」
「だって変な模様の魔法陣の真ん中で呟いてるから」
「燐火ちゃん、そんな事を言ったら失礼だよ」
「どうでもいいけど、ここから出て行ってもらえないか? ここは従業員専用の部屋なのでね」
「お化けじゃなくて従業員なのに何で魔法陣の真ん中で呪文を唱えていたの?」
「呪文? なんの事かな?」
「とぼけても無駄だよ。黙っていてもやっつけるから!」
燐火ちゃんが愚者の杖を具現化して男に突き付けた。
「これは魔法?! なぜこんな子供が?」
「子供じゃないよ。わたしは大魔導士なんだから」
「大魔導士だと?! 我ら以外に魔法を使える者が存在するなど聞いていない!」
「早く目的を言った方が良いですよ。大魔導士ごっこを始めた燐火ちゃんは僕でも止められないですから」
「目的だと。お化け屋敷が繁盛する事に決まっているだろ!」
お化け屋敷が繁盛する事が目的?!
世界を滅ぼすとか支配するとかじゃないんだ。
今までの敵を比べると小者感が強いな。
「この人弱そうだから僕がやっつけるよ。燐火ちゃんの魔法は威力が高すぎるからね」
「テプちゃん危ない!」
燐火ちゃんが僕を抱えて飛びのいた。
急にどうしたの?!
男を見ると不自然なほど反り返っていた。
そして腹部から人型の何かが生えてきた。
あれは悪魔……
燐火ちゃんが詠唱を始めたと同時に悪魔が叫んだ。
衝撃波が飛んできて壁にひびが入る。
でも、魔法発動時の魔力結界が守ってくれているから大丈夫だった。
全てを貫きし灼熱の刃よ
大地を穿ち 我の敵を討て
気高き勝利の花!
「貫け! 炎 剣 菖 蒲!!」
炎で出来た刀剣のように鋭い唐菖蒲が地面から生えて悪魔を貫いた。
やった!
「油断しちゃだめだよテプちゃん」
「どういう事? 燐火ちゃんの魔法は一撃必殺。直撃したんだから大丈夫でしょ?」
「テプちゃん、よく見て?」
燐火ちゃんに言われて悪魔を見ると……動いている?!
悪魔は炎の花弁で腹部を貫かれたのに灰になっていなかった。
そして腹部に穴が開いたままこちらを向いた。
燐火ちゃんが僕を抱えて転がると同時に悪魔の口から光線が放たれた。
光線が壁を貫通している!
こんなの当たったら死んじゃうよ!
「消滅するまで連続で攻撃するよ!」
猛獣の牙より鋭き劫火の牙よ
我に仇なす全ての敵を絡め取れ
出でよ! 樹木の如き生命の花!
「蹴散らせ! 珊 瑚 刺 火!!」
牙の様な鋭い湾曲した無数の劫火の花弁が、燐火りんかちゃんを中心に生み出され、悪魔を次々に串刺しにしていった。
「最後にもう一回! 貫け! 炎 剣 菖 蒲!!」
燐火ちゃんの火炎魔法が悪魔の頭部を破壊した。
これで終わりだろうか?
悪魔が生えて来た本体の男性はそのままだから、もう一度悪魔が生えてきそうで怖いんだよね。
突然、男性の腹部が光り出した。
想像通り、また悪魔が生えてくるのか?!
燐火ちゃんが直ぐに攻撃魔法を放てる様に愚者の杖を構えた。
様子を伺っていると、男性の腹部から光り輝く赤い玉が浮かび上がってきた。
これはなんだろう?
しばらく様子を伺ってみたが何も起きなかった。
「なんだろうコレ」
燐火ちゃんが赤い玉に近づいた。
「危ないよ燐火ちゃん!」
「大丈夫そうだよ。ほら」
燐火ちゃんが赤い玉を手に取ると、玉が光を失い周囲を満たしていた邪の気が無くなった。
「なんだろう。コレ」
燐火ちゃんが見せてくれた赤い玉は見た事が無いものだった。
「やったね! テプちゃんが知らないって事は、これはレアアイテムなんだよね。ついにレアアイテムを落とすモンスターを見つけられたね!」
「そんなに単純に喜んで良いのかなぁ。危険なアイテムかもしれないから、戻ったら纏蝶さんに見てもらおうよ」
「うん。鑑定の瞬間はドキドキするから楽しみだね」
「そろそろ健斗君が陽翔お兄さんと翔太君を救出していると思うから戻ろうか」
「そうだね。急いでもどろう! 健斗君と翔太君に感謝したいからね」
「その前に確認しておくね」
僕は前足で男性の脈を確認した。
どうやら死んではいないようだ。
何でお化け屋敷の繁盛の為に悪魔の力が必要だったのか、何で邪の気を纏っていたのか気になったが、気絶しているから聞き出せないな。
纏蝶さんに謎の赤い玉を調べてもらって分かると良いのだけど。
謎の男性が生きている事が確認出来たので燐火ちゃんと一緒に部屋を出た。
部屋の外では陽翔お兄さんと翔太君が、スタッフの人に運ばれているところだった。
「何してたんだよ燐火。頼んだんだから、ちゃんと二人を見とけよな」
健斗君が怒っている。
黙って陽翔お兄さんと翔太君を置いていったから仕方ないかな。
「ありがとう健斗君!」
燐火ちゃんが今まで見せた事がないような最高の笑顔を向けた。
「な、なんだよ急に!」
怒っていた健斗君が照れている。
急にあんな笑顔を向けられたらそうなるよね。
レアアイテムを手に入れた事が心の底から嬉しかったんだね。




