第1話 奇跡の出会い?
奇跡の出会いだと思った。
公園で出会った、熊のキャラクターのプリントTシャツを着たおかっぱあたまの少女。
僕が魔法少女に選ぶのは、この子しかいないと思った。
最近の子はませていて、お洒落な子が多い。
それが悪い事だとは思わない。
僕だってお洒落で可愛い女の子は好きだ。
だけど、魔法少女に選ぶとなると別だ。
幼く純朴な少女が、大人に憧れて少し背伸びをする。
子供では解決出来ない事件を成長した姿で解決したり、時には少しだけ大人の恋をしちゃったり……
その手助けが出来るのが、魔法少女をサポートする妖精の醍醐味という物だからだ。
早く契約をしなければ!
今回、魔法王国アニマ・レグヌムから紅鳶町に派遣されたのは僕だけではないのだ。
生意気なオハコと、やる気がないプレナには先を越されたくない。
僕は公園のベンチに座っていた少女の前に立って名乗った。
「僕はアルタロネクタネブ・アバ・センタンクトロルテプ6世。魔法王国アニマ・レグヌムの王子さ! 魔法少女になって欲しいんだけど、僕と契約してくれないかな?」
少女がガシッと僕の両耳を掴んだ。
「どうやって生贄に捧げれば魔法が使えるの?」
い、生贄?!
小学校で流行っているブラックジョークかな?
魔法少女知ってるよね?
普通は魔法のブローチやコンパクトを思い浮かべるよね?
「生贄じゃなくて魔法のブローチで変身するんだよ。ほらっ!」
僕が前足を振り上げると、花をモチーフにしたピンク色の可愛いブローチが出現した。
これが魔法妖精の力の結晶。
変身ブローチ!
少女が空中に浮かぶ光輝くブローチを手に取った。
「どうやって使うの? テプちゃん?」
「テプちゃん? それは僕の事?」
「そうだよ。テプちゃんって言ってたよね?」
「いや、僕の名前はアルタロネクタネブ・アバ・センタンクトロルテプ6世だよ」
「じゅげむ、じゅげむ、ごこうのすりきれ……」
「それは有名な長い名前だね……分かったよテプでいいから。君の名前は?」
「木花燐火だよ。隣に座って」
燐火ちゃんが僕をベンチの上に降ろした。
ずっと耳を持たれて吊るされていたから、耳の付け根がジンジン痛い。
ちょっと乱暴な子なのかな?
いや、違う。
動物との関わり方を知らないだけだと思う。
僕はこの世界ではウサギと呼ばれる動物に似ている。
小学校で飼育しており、飼育委委員であったなら扱いを分かっていたかもしれない。
でも燐火ちゃんちゃんは飼育委員ではなかったのだろう。
燐火ちゃんが優しい女の子なのは違いない。
だって、可愛い熊のキャラクターがプリントされているTシャツを着ているんだよ。
たぶんお母さんが選んだTシャツだと思う。
燐火ちゃんは子供っぽい服装を嫌がる年頃だろう。
それなのに素直に着ているのは優しい証拠だ。
選んでくれたお母さんに感謝しているのだろうな。
「可愛いTシャツだね。お母さんが選んでくれたのかな?」
「ちがうよ。わたしがお願いして買ってもらったんだ」
お母さんではなくて自分で選んだのか!
可愛い熊のプリントTシャツをお母さんにおねだりするなんて……可愛いじゃないか!
「燐火ちゃんはクマちゃんが大好きなんだね。僕もクマちゃん可愛いと思うよ!」
そう言った僕を燐火ちゃんが冷たい目で見降ろした。
え、僕何か機嫌を損ねる事言っちゃった?
何で燐火ちゃんが不機嫌なの?
「テプちゃんは馬鹿にしてるの?」
「馬鹿になんてしてないよ! 本気でクマちゃんが可愛いって思ってるよ!」
「はぁ……どう見ても弱小動物のテプちゃんが、熊の事を可愛いって言って良いと思っているの? 熊はね、力の象徴なんだよ」
「ち、力の象徴?!」
「そうだよ。ヒグマは時速50km以上で走るんだよ。圧倒的な腕力、そして優れた動体視力で敵を逃さない。まさに力の象徴。恐れ、敬うべき対象だよ」
クマが恐れ、敬うべき対象?!
僕はクマより燐火ちゃんが怖くなってきたよ!
落ち着くんだ僕。
小学生は最強動物図鑑とか最強海洋生物図鑑を好きだったりする。
燐火ちゃんも図鑑の影響でクマが好きなだけだと思う。
そうだ! 髪型!!
あのおかっぱあたまは、お母さんに髪を切ってもらっている証拠。
きっと「髪が伸びてきたからお母さんが切ってあげるね」って言われて、自宅で切ってもらっているのだろう。
想像するとほっこりする。
「髪型似合っているね。お母さんに切ってもらったのかな?」
「何で分かったの!? テプちゃんの想像通り、お母さんにお願いしてもらって切ってもらっているんだよ!」
想像とは少し違ったけど、燐火ちゃんが喜んでくれて良かった。
自分でお母さんにお願いしたのか……可愛いなぁ。
だが、次に燐火ちゃんが言った事は、想像とは遥かにかけ離れていた。
「お願いするのは恥ずかしかったけど、敬愛する大魔導士フラマ・グランデ様と同じ髪型にしてもらったんだ!」
は?!
大魔導士フラマ・グランデって誰?
この世界に魔法はないのに大魔導士?
今更だけど気付いてしまった。
僕は……選ぶ相手を間違ったのかもしれない……
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