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あなた達二人は絶対幸せにはなれません

掲載日:2023/05/06

「アデーレ! お前との婚約を破棄させてもらう!」



 私の婚約者であるアナスタジウス侯爵令息は私に向かってそう言い放った。



「理由をお聞かせ願えますか?」


「お前は病弱な妹をずっと虐めてきたな?」


「何故その様な事を、私が」


「決まっている! アマリエに嫉妬したからだ!」



 予想もしない言いがかりに私が呆れているとアナスタジウスは話を続けた。



「お前のアマリエに対する態度や振る舞いは彼女から聞いていた。

 確かにずっと見ていたらお前のアマリエに対する束縛は酷い物だった。

 あれはするな、これはするな、私の云う事を聞け、と」


「それは……」


「俺はお前に会いにこの家に来る度、彼女を陰で慰めていた。

 そして俺はいつしか彼女を……アマリエを愛してしまったんだ」



 アナスタジウスの腕に誇らしげな目でアマリエがしがみついている。

 そこにある雰囲気は確かに恋人同士のそれであった。

 確かに私は二人の邪魔者で間違いない様だ。

 しかし、二人は絶対に結ばれない訳があるのだ。

 

 

「とにかく、俺達の意志は固い。今更何を言っても俺の心はお前に戻らんぞ!」


「……」


「お姉様、わかって下さい。これ以上私を虐めたり私達の仲を裂かないで!」


「無理よ。あなた達は結ばれる事はない」


「負け惜しみもいい加減にしろ! お前は妹に嫉妬しているだけだ!」


「いいえ。あなた達二人は絶対幸せにはなれません。なぜなら」


「もういい! お前の様な気が強い意地悪な女はずっと誰からも愛されんだろうさ。

 行こう、アマリエ」


「ええ、アナスタジウス様。じゃあね、お姉様」



 二人は扉を荒々しく開けて屋敷を出ていこうとする。

 何事かとやって来た父と義母に事情を話すと二人とも真っ青な顔になった。



「待ちなさい! アマリエ!」


「待って、待つのよ! アマリエッ!」



 慌ててお父様とお義母様は屋敷を出ていこうとするの二人を止めようとする。

 しかし、無理だと分かると二人は私に向かって救いを求めた。

 だが私は愚かな婚約者と妹に対して救いを差し出す気にはなれなかった。

 

 お父様とお義母様は必死になって二人の行方を探させた。

 しかしアナスタジウスとアマリエは侯爵邸にはついに帰らなかった。

 誰にも連れ戻されない様に侯爵所有のどこかの別邸にでも行ったのだろう。

 多分、今頃愛を交わしているだろうが止めようも無かった。


 翌日、アマリエは亡くなった。

 アマリエはアナスタジウスの褥で翌朝腐りきった死体となって発見されたそうだ。

 妹は毎日1回私が点検と維持をしなければいけない存在だった。

 なぜならアマリエは死霊魔術によってこの世に蘇らせた亡霊だからだ。


 1年前、病弱のアマリエが眠る様に亡くなった時に義母は精神の均衡を失った。

 哀れに思った父は亡き母の一族に伝わる秘術を唯一受け継いでいた私を頼ったのだ。

 アマリエの死体を蘇らせてくれと。


 表面上アマリエは蘇った。ちゃんと自ら思考をして口をきき、物も食べる。

 血色が悪い以外見た目は生者と変わらない。

 但し16歳のままで成長はしない。魂を死体に強引に結び付けているだけだからだ。

 肉体を維持し続ける為には厳しい行動制限と私の毎日の魔法施術は欠かせない。


 この事の重要性をアマリエ本人は知らなかった。

 生きている筈の存在に自分が死者と認識させて普通に生活させる事など出来ない。

 父も母も蘇ったアマリエを甘やかした。

 増長したアマリエは私に対してもわがままに振舞い続けた。

 自分が既に死んでいた事も知らずに……。


 別邸で発見された時、アナスタジウスは正気ではなくなっていたそうだ。

 結果的に義母を思う父の心は誰の為にもならなかった。

 全ての人の心を傷つけてアマリエは再び死者の国へ帰った。


 その後、一人の男性が私を訪ねて屋敷を訪れた。

 廃嫡されたアナスタジウスに代わって次期侯爵になった弟のリヒャルト様である。

 ハンサムで優秀と誉れも高い貴公子だ。



「正直、今回の事でわが侯爵家はかなりのダメージを受けました」


 そう言ってリヒャルトは切り出した。

 私達の家族以外誰も今回の真実を知らない以上アナスタジウスはアマリエの殺人犯となってしまっていた為だ。

 無論、私達は誰も真実を語らない。


 次期当主が起こした事件に侯爵家の世間での被害も計り知れない。

 兄が殺人犯のリヒャルトも中々結婚相手を見つけるのは難しいだろう。

 しかしそれは被害者である我が伯爵家も同様だ。

 猟奇的な死に方をした娘の実家として好奇の目にさらされ続けるだろう。

 私の嫁ぎ先も見つかりにくいはずだ。



「こう言っては何ですが、私にはまだ婚約者がいません。

 侯爵家と伯爵家が縁を結べれば我が侯爵家の名誉もまだ救われましょう。

 大変勝手な事とは思いますがお願いを聞いて頂けないでしょうか?」


「……」



 リヒャルトは私と婚約したいと言った。 

 伯爵家と結びつく事によって兄の罪を償うと言って来たのだ。

 侯爵家は婚約者を迎えられる。伯爵家は侯爵家に莫大な恩を売り多大な利を得る。

 確かに表面上どちらにも損はないしこれ以外考えられない様に思えた。

 当人達の気持ち以外は。



「以上は建前の理由です。本音は違う。貴方が兄の婚約者で無くなったからこういう提案も出来る」


「?」


「私も恥ずかしながらある意味兄と同じなのです。

 兄のおまけで貴方と会う度に惹かれていった。

 諦めざるを得ないと思っていましたが……。

 この私の言葉が嘘か本当か、あなたにはよくわかっているでしょう?」



 そのリヒャルトの言葉で私はお互いがまだ幼なかった時の出会いを思い出した。

 アナスタジウスと婚約した後も彼の情熱的な目に気が付かないふりをしていた事も。

 答えは既に決まっていた。

 私は笑みを浮かべてリヒャルトの提案に返答した。

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