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本編~オークには勝ったのに

「ひゅぅぅっ……! ひゅぅぅっ……! くひゅぅぅっ……!」



 ボロボロと涙を流しながら、浅く切迫した呼吸を繰り返す近衛隊長のシルバーエルフ、シェリル。

 気丈に震えを抑えていた脚は、今はピッタリと閉じ合わされ、ガクガクと揺れている。



 彼女の足元には特大の水溜まり――漏らしたのではなく、オーク共の返り血だ。



 玉座の間に雪崩れ込んだオークの集団は、鬼と化した近衛隊長と近衛隊の奮戦、そして外の敵を全滅させ戻ってきた騎士団によって無事殲滅された。


 王族、将兵ともに犠牲者なし。

 致命的な被害を負ったのは――




(あ、あ、あぁぁぁっ……!)


(も、もうっ……!)


(我慢っ……できません……!)




 お預けをくらい、なけなしの余力を削られ続けた、3人の美しいエルフの括約筋だけだ。




「も、もうっ、だめええええぇぇぇぇっっ!!!」




 最初に限界を超えてしまったのは、やはりリーゼリーナだ。

 膀胱も括約筋も未熟な彼女は、そこそこ長引いたこの戦闘の間で、レオタードの股布をぐっしょりと濡らしてしまっていた。


 とうとう両手で出口を押さえ、生まれたての子鹿のような足取りで、トイレへと駆け出すリーゼリーナ。

 ポタポタと床に水滴を落としながら、必死に足を進めるが、今の彼女には、トイレはあまりに遠かった。




「あっ、あ゛っ! あ゛あ゛あぁぁぁぁっっ!!!」




 道半ば、まだトイレの看板すら見えていないところで、リーゼリーナは押さえ込んだ手の内側に、強烈な勢いの水流を迸らせてしまった。

 レオタードは一瞬で濡れそぼり、太股に何本もの小川が流れ出す。


 パニックを起こしたリーゼリーナは、何を思ったか手近な客間に駆け込んだ。


 そして、扉を閉めると同時にしゃがみ込み、びしょ濡れの股布をずらし――






「ごめ゛んな゛さぃい゛いいぃぃぃいいいぃぃっっ!!!」






 客間の床に、その激流を解き放った。

 小水が赤い絨毯を染め上げ、吸いきれなかった分がバシャバシャと跳ね回る。



「あぁぁっ……あああぁぁぁっ……! 私っ……何ということを……! 夢ならっ……覚めて下さいっ………あああぁぁぁっ……!!」



 トイレどころか、野外や容器ですらない、掃除の行き届いた部屋の床への放尿に、リーゼリーナの瞳から涙が溢れる。

 現実を受け止められず、イヤイヤと首を振りながら、リーゼリーナは最後の一滴まで床に出し尽くした。



 打ちひしがれたリーゼリーナは、数分後に部屋を訪れた王家付きのメイドに助け起こされるまで、放尿のポーズのまま固まっていた。




 ◆◆




「すまないっ! 後は任せるっ!」


「た、隊長っ!?」




 王座の間で事後処理をしていた、銀髪の近衛隊長シェリル。

 だが、指示の途中でその身を大きく震わせると、突如全てを副長に丸投げして、大扉に向けて駆け出していく。

 驚く部下達の視線が、シェリルに突き刺さる。


 だが――




「すまないっ!! もうっ、限界だああぁぁぁっっ!!!」




 左手で下腹をさすり、右手を股の間に押し付ける痴態に、部下達は、シェリルの『何』が限界なのかを一瞬で理解した。


 小水を膀胱で満たしたまま、長時間にわたる戦闘を強いられたシェリルの括約筋は、込み上げる排尿の衝動に陥落寸前となっていた。

 このままでは、せっかくオークとの戦いを勝利で飾ったと言うのに、エルフの誇りである美しい城を、敗北の汚水で穢してしまう。



(トイレっ……早くっ、トイレにっ……! あぁぁっ! 漏れるうううぅぅっ!!)



 黒いレオタードの股布を濡らしながら、必死にトイレを目指すシェリル。

 そんな彼女の前に、外での戦闘帰りの騎士達が現れた。


 シェリルは慌てて、出口を抑えていた手を離す。



「シェリル隊長。そちらもご無事でしたか」


「あっ、やっ、あぁ、ん゛っ! そ、そうだ、なっ、あ゛っ!」



 互いの無事を喜ぶ女性騎士。

 だが、シェリルは外傷こそ負っていないが、括約筋は致命傷。そして間もなく、社会的な死を迎えようとしている。



「シェリル隊長?」


「や、これは、何でも、あ゛っ!? だ、だめだぁぁっ!!」



 もじもじと落ち着かないシェリルに、訝しげな視線を向ける女性騎士。

 シェリルは何とかやり過ごそうとするが、支えを失った括約筋が根を上げて、レオタードの中にまとまった量が溢れてしまった。


 悲鳴を上げ、右手を出口に戻すシェリル。



「み、見ないでくれっ……! 襲撃から、ずっと、我慢していてっ……もう、限界なんだっ……! すまないっ、今は、トイレにっ……!!」


「は、はいっ! お急ぎくださいっ!」



 もはや取り繕うことすら出来ずに窮地を白状するシェリルに、騎士達が慌てて道を開ける。

 どうか、自分達が引き止めたせいで、彼女が大恥をかくことにはなりませんよう――


 そんな祈るような視線に見送られながら、シェリルは再びトイレに急ぐ。



「あ゛っ! あ゛っ! あ゛っ!! あ゛あ゛っ!!」


(出るっ! だめだ、まだっ……! 頼むっ、もう少しだけ、待ってくれえぇぇっ!!)



 ついに両手で出口を押さえつけ、懸命にトイレを目指すシェリル。

 レオタードから溢れた小水で太股まで濡らしながら、何とか待ち望んだ楽園の扉を視界に収める。

 だが、その扉の前には男性の騎士がいて、しかも中に入ろうと扉を開けていた。



「あっ! あ、あのっ! 私っ、その、ん゛っ!! あのっ……あのっ……!!」




『先に入らせてくれ』


 男性相手にその一言が出せずに、口をぱくぱくと動かしながら身を捩るシェリル。

 男性騎士はその様子と、トイレ前という場所から全てを察した。



「私は別の場所に向かいます。どうぞ」


「す、す、すまないっ!! 感謝するうううぅぅぅっっ!!!」



 シェリルは、男性騎士が立ち去るのも待てず、既に開いていた扉に飛び込んだ。



「あっ、あっ! あぁっ、あぁっ、あぁぁっ!!?」



 便器を跨ぎ、レオタードを脱ごうとしたが、もうシェリルの下腹にはそれを待つ余力すらない。

 本格的に噴き出した小水に、慌てて股布をずらし、便器にしゃがみ込んだ。







「んはあああああああああああああああああああああぁぁぁぁっっ!!!!」







 直後に迸る、水竜のブレスのような小水と、廊下にまで響く嬌声。

 あまりの気持ちよさに、シェリルの腰がガクガクと震え、小水のブレスが狙いを外して便器からトイレの床や壁に飛沫を散らす。




「あっ、あはああぁぁああぁぁぁぁあぁぁぁっ……!」


(き、気持ち、いい……! 用を、足しているだけなのにっ……気絶してしまいそうだ……!!)




 だが、本能のまま仰け反り、快感に身震いしているシェリルには、もうそれを気にするだけの余裕はなかった。



 口の端から涎を垂らしながら、トイレを水浸しにしていくシェリル。

 だが――





 ドンドンドンッ! ドンドンドンッ!





『誰かっ、入っているのですか!? あぁぁっ! 早くっ、出て下さいっ! 漏れ、ちゃうぅぅっ……!』


「じょ、女王陛下っ!!?」



 彼女の至福のひと時は、扉を越えて届いた女王の悲鳴によって終わりを告げた。




 ◆◆




(あっ、あぁぁぁっ……! まだですかっ、リーゼリーナっ……! も、もうっ……限界がっ……!!)



 王女も近衛隊長も去った玉座の間。

 女王ティアーレは、涼しい表情に脂汗を浮かべながら、必死に娘の帰りを待っていた。


 娘が戻ってきたら次は自分――そう思い、後少しの我慢だと必死に小水を押し留めてきたが、それももう限界だ。

 ティアーレの体が、ついに隠せないほどの震えを帯び始める。



 尚、彼女が切に帰りを待ち続ける愛娘は、トイレまで間に合わずに客室の床に放尿し、そのショックで身動きがとれなくなっていた。




「んっ……んぁぁっ……!」



(も、もう、だめっ……!!)




「も、申し訳ありませんっ……(わたくし)も、ご不浄に行って参ります……んっ!!」




 努めて平静を装おうとしたティアーレだったが、立ち上がったことで尿意の波が巻き起こり、短い悲鳴と共に体を跳ねさせてしまう。


 ティアーレは顔を真っ赤にして、花弁を散りばめたようなマイクロミニスカートから伸びる太股を擦り合わせながら、逃げるように玉座の間を後にした。



(あぁぁぁっ、恥ずかしいぃぃぃっ……!! で、ですがっ、これで、ご不浄にっ……! あぁぁっ……間に合ってぇぇっ……!!)



 部屋を出るのが1番遅くなったティアーレは、この時点でもう我慢の限界。

 両手で出口を押さえながら、内股でヨチヨチとトイレを目指す。


 途中、シェリルも出会った一団とすれ違うも――



「これは、女王へ――」

「ごめんなさいっ、退いてっ! 漏れちゃうぅぅぅっっ!!!」



 ぐしゃぐしゃの泣き顔で彼らを押し退け、労いの言葉もかけられずにとにかく前へ。


 やがて、下着が湿り気を帯び始めると同時に、念願のトイレにたどり着いた。

 だが――





「し、しよう、ちゅう……!!?」





 赤く灯る使用中のランプにその目を絶望に見開いた。




 ドンドンドンッ! ドンドンドンッ!




「誰かっ、入っているのですか!? あぁぁっ! 早くっ、出て下さいっ! 漏れ、ちゃうぅぅっ……!」


『じょ、女王陛下っ!!?』




 中から聞こえてきたのは、近衛隊長のシェリルの驚くような声。

 そして――






 ――ブジイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!!!!






 便器を穿つ、あまりにも気持ちよさそうな放尿音。



「あ゛あ゛あぁぁぁーーーっっ!!!」



 その音に尿意が刺激され、ティアーレの出口からまたしても小水が溢れ出す。



 ドンドンドンドンドンドンドンッッ!!!!



「ごめんなさいっ、シェリルっ!! 急いでっ!! お願い急いでえええぇぇっ!!」




 大慌てで扉を叩き、声を張り上げるティアーレ。


 普段の彼女は、もちろんこのように中にいる者を急かしたりなどしない。

 だが、もうティアーレの尿意は限界を超え、太股に垂れる小水が止まらなくなってしまっている。


 気高く美しいはず(・・)のエルフの女王ティアーレ。

 彼女にはもう、恥や外聞を気にしている余裕は残されていなかった。




 ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!!




「漏れちゃうっ……! もうっ、もれっ、ちゃうっっ……!!!」


『申し訳ありません女王陛下っ!! まだ、出始めたばかりでっ! しかも、限界だったので、量が……ああぁぁっ! 申し訳ありませんっ!!』




 シュィィーーッ……シュィィーーッ!




「早くっ……! あ゛ぁっ、早くっ……! シェリルっ、早くううぅぅ

っ……!!」



『ご辛抱をっ!! あと少しだけっ、ご辛抱をっっ!!!』



「あ゛あ゛あぁぁっ……!! あ゛あ゛あぁぁっ……!! あ゛っ……あ゛あ゛あ゛ああぁぁーーっっ!!!」


 ジョビビビッ! ジョビビッ! ジョビィィィィィッ!!




 股の下にまで小水を溢れさせながら、トイレの扉に縋り付くティアーレ。

 もう小水まみれの脚がゆるゆると折れ曲がり、その体が崩れ落ちていく。



 そしてティアーレの目が、何か取り返しのつかないことをしてしまったように、ハッと見開かれた。




「ん゛あ゛ぁはあぁぁっっ!!! も゛ぅっ!! だめえええええええええぇぇぇぇっっ!!!!」









 ジョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!

 ジュビイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!!!!




「あああああああああぁぁぁっっ!!!! 嫌ああああああああああぁぁぁっっ!!!!」


『じょっ、女王陛下あああぁぁぁっっ!!!』



 ビジャジャジャジャジャジャッッビジャビジャビジャビジャビジャビジャビジャビジャッッジャババババババババババババババババババババッッッ!!!!!


 エルフの女王は、トイレを目の前にして、堪え続けていた熱水を床に撒き散らしてしまった。




 ◆◆




「……女王……陛下……!」


「うぅっ……ずっ………ぐすっ…………シェリル………ひぐっ………見ないで……下さい………っ」




 長い長い放尿を終えたシェリルが扉を開けると、そこには巨大な水溜まりにへたり込んで啜り泣く、女王ティアーレの姿があった。


 びしょ濡れになった下半身に、大きく黄金色の池。

 そこに、女王の哀しみの発露がポタポタと落ちていく。



(なっ……何という量だっ……! これが本当に、1人の女性の膀胱に………いいや、そうではないっ!)


「申し訳ありませんっ! 女王陛下!」



 壮絶な光景に一時気圧されてしまったシェリルだが、この惨状の責任の一端が自分にあることを思い出し、慌ててトイレの床に跪く。

 自分の用足しが長過ぎたせいで、ティアーレは腹の中の熱水を留めきれずに、廊下で解き放ってしまったのだから。



「私がもたもたとしていたばかりに……女王陛下に、このような恥辱を……!!」


「いえっ………ぐすっ………私が、不甲斐ないのですっ………女王という身でありながら………お……お漏ら……し………うぅぅぁぁっ……!」



 口にした『お漏らし』という単語に自身の醜態を再認識し、ティアーレの口から嗚咽が溢れる。


 だが、彼女が悲しみに暮れる時間は、あまり残されてはいない。

 廊下の先から、ガシャガシャと鎧がなる音が近づいてきたのだ。


 戦闘をしていた別の騎士の一団だろう。



「あぁぁっ……そ、そんな……!」



 このままでは、最悪の失態が白日の元に晒されてしまう。

 ティアーレの顔から血の気が引き、唇がワナワナと震え出す。



「陛下! 陛下が、お小水を我慢されていたことを知っている者は!?」


「え? あ、あの、玉座の間の者達と、あと、先程騎士達とも、すれ違いを……っ」



 女王の苦悶を知る者は、意外と多かった。その答えに、シェリルが焦燥の色を深める。


 仮にティアーレをここから避難させたとして、トイレの前に色濃い水溜まりがあれば、多くの者はお漏らしを連想するだろう。

 今日人前に我慢姿を晒したのは、自分とティアーレ、そして戦闘中からもじもじの止まらなかったリーゼリーナだ。


 水溜まりの主が自分だと思われるのは、王家の2人の尊厳を守るためと思えば屈辱にも耐えて見せよう。

 だが、実際は誰が誰と結びつけるかなど保証できない。


 足音はもう、すぐそこまで迫っている。もう時間はない。



 シェリルは、覚悟を決めた。




「女王陛下は、どこかの部屋にお隠れ下さい。王家付きのメイドを向かわせます。ここは……私にお任せを」


「あぁぁっ、シェリル……! 感謝いたします………恥知らずな私を、どうか許して……!」




 立ち上がり、手近な部屋に駆け込んでいくティアーレ。

 それを見送ったシェリルは、水溜まりを睨みつけ、瞳を潤ませる。




(くっ………無念だ……っ)




 そして、何度も何度も躊躇いながら、もう冷たくなった水溜りの上に、尻からへたり込んだ。


 程なくして現れる、戦帰りの騎士達。

 廊下でへたり込むシェリルに何事かと駆け寄るが、彼女の周りに広がる水溜まりに気づくと、皆言葉を失った。




「シェ、シェリル隊長っ……!?」


「………見ないで、くれ……ぐすっ……」




 つい数分前まで、シェリルはこうなる瀬戸際にあった。

 下半身が濡れる感触に、本当に自分がしてしまったような気持ちになり、シェリルは自然と、大粒の涙を零していた。




 ◆◆




 その後、ティアーレはシェリルから事情を聞いた王家付きのメイドに無事保護された。

 女王と王女のお漏らしは他の誰にも知られることはなく、身代わりになったシェリルについても、ティアーレの死に物狂いの隠蔽工作で、噂となることはなかった。


 こうして、美しきエルフの女王と、王女と、近衛隊長の危機は、なんとか大事にならずに乗り切ることができた。



 めでたし、めでたし。



敗北編をノクターンノベルズで連載中です。

18歳以上の方はこちらのNコード「N3903ID」からお越しいただければ幸いです。

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