屋根裏の残留思念
家の外から複数の子供の笑い声が聞こえて来た。
悪さをして屋根裏に閉じ込められている僕は壁の隙間から外を見る。
隣りの家のケンジ兄ちゃんと幼馴染のタクトにヒカリコが、3人で仲良く手をつなぎ村の広場に向けて駈けて行くのが見えた。
村の広場の方角から祭りを知らせるピ〜ヒャラピ〜ヒャラドドンコドンと、笛や太鼓の音が聞こえて来ている。
綿飴、カルメラ焼き、ベッコウ飴、りんご飴などの屋台からの甘い香りも微かにした。
僕も行きたいな、だけど父ちゃんに見つかるとまたゲンコツをくらい、今度は明かりが入らない地下室に閉じ込められるかも知れない。
父ちゃんの怒りが鎮まるまで我慢するしかないのかなー。
それにお小遣いを貰わないと、綿飴もカルメラもベッコウ飴もりんご飴も買えない。
甘いものだけじゃ無く射的も金魚掬いもやりたいから、父ちゃんの怒りが鎮まるのを待つしか無いのかな、あーあ祭りの前日に父ちゃんを怒らせるなんて、なんと馬鹿な事をしちゃったんだろ。
父ちゃん早く帰って来ないかなー。
帰って来て此処から下ろしてくれないかなー。
父ちゃんの帰りを待つ僕の耳に母ちゃんと姉ちゃんの会話が聞こえて来た。
「お父さん今日帰って来るの?」
「明日になるみたいよ」
「それじゃマサトの奴お祭りに行けないね」
ええーそんな、それは無いよ。
ヨシ!
母ちゃんと姉ちゃんが祭りに出かけたら抜け出そう。
小遣いは姉ちゃんのヘソクリを拝借すれば良いや。
家から母ちゃんと姉ちゃんの気配が無くなった。
計画を実行。
屋根裏から下り、姉ちゃんの勉強机の引き出しからお金を拝借して裏口から家の外へ。
裏口から出て数歩進んだら、周りの景色が歪み消えて行く。
ああそうだ、僕は屋根裏から出ては駄目だったんだ。
振り返ると家が燃え崩れて行く。
家が燃えたとき屋根裏で焼死した事を思い出したら、僕の身体が消えて行くと共に思念も霧散していった。