短編集
君の声が聞こえない程深い空に沈んでいた
ふと意識がハッキリすると、愛している彼が嫌いだと言っていた黒い服に身を包み祭壇の前で涙を流していた。
「泣いてるの…?」
そう声をかけても反応を示してはくれず、ただ、ポロポロと床が濡れることも構わず涙を零し続けた。
彼がこんなになるまで泣かせるなんて、一体誰が亡くなったんだろうか。
そう思い私は祭壇に飾られた遺影を見ると、
そこには明るい笑顔の私の写真が薄桃色の綺麗な額に飾られていた。
脳に記憶が流れ込むような感覚がして、思い出した。
「そっか、私…車に轢かれて…」
彼と日曜のお茶会をするためにお菓子を買いに行った帰り道、私は車に轢かれて運ばれた。
その時私は彼に、
「ちょっと寝るからさ、起こしてよ。」
そういったはずなのに、きっと彼は何度も何度も私に声をかけ起こそうとしてくれたんだろう。でも、私は空に沈んでいくように眠り、起きなかった。
両親も、兄弟もいない私が死んだ時こんなに泣いてくれる人がいるだなんて思いもしなかったけれど、彼をここまで泣かせている自身が憎くてたまらない。
触れられない彼の頬に手を添えると、なんとなく彼の温もりを感じた。
頬は痩けて目の下はクマが酷い。
肌は青白く生きているか心配になるくらいだった。
この宙に浮いている足を床につけられたらどれだけいいか。
彼のことを抱きしめ、頭を撫でてあげられたら、どれだけ救われるだろうか。
考えるだけで胸が苦しくなり、もう止まっている心臓が痛い。
今の私には可哀想だと、一緒に泣いてあげることも出来ない。
笑って慰めてあげることも出来ない。
お腹が痛くなるほど笑わせてもあげられない。
泣かないでと言っても、今の彼の鼓膜には響くことはないだろう。
今の私に出来ることなんて、何も無い