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3/6

男が決闘すれば済む問題か?


「まあちょっと落ち着けよ、狩人さん、アンタは山に住む男で神様じゃないんだな?」

 夜盗さんがその場を仕切り出した。


「我らは浄心山の山神(やまがみ)さまの末裔である」

「そうか、末裔でも神そのものじゃないと」

「畏れ多いことを言うでない!」


「村が飢饉のときは助けるってどうして?」

「例えば(それがし)が姫を妻とし、岳父殿が困窮されるのを黙ってみていようはずがない。将来の姫が育つ麓村(ふもとむら)、山の皆は大切に思うておる」


「ほらな」

 夜盗さんはなぜか私のほうに声を向けた。

「生け贄って考えがどっから出たか知らんが、相当ズレてるぞ?」


「では山の皆さんは、私がお嫁に行かなくても、冬の飢饉には助けてくれますか?」

 私は夜盗さんの言葉を受けて厨二さんに尋ねた。


「や、も、もし嫁に来てくれなかったら、某が落ち込み、家族や仲間たちもがっかりする。麓村が約定を違えたとなれば、今後の冬の寄進は減るだろう」


 減る、のか。なら私、やっぱり生け贄じゃん。


「あ、あの……、」

 次の質問のために私は輪をかけておずおずと声を出した。目隠しを誰も取ってくれないから話しにくくて仕方ない。


「何だ?」

「姫様」

 夜盗さんは不遜でも、厨二さんって、ははあって膝でもついていそう。


「3年前にここに来た雪路姉さんは?」

「おお、ユキジ姫なら雷鳥の奥として子を既に儲け幸せに……」

「そうなんだ……、よかった……」


「して、我が姫の名は如何に?」

「え? 私? 私の名は……」


「名乗るな、まだ名乗るんじゃない」

 夜盗さんがむんずと大きな手で私の口を塞いだ。


 指の間からヘンな声が出ていく。

「ふぇ?」


「名乗ればこの男と契ることになる……」


「そなた、なぜに邪魔をする?」


「このバカ女が大事なことを忘れてるからさ。そのユキジさんもおまえと同じように鎖で繋がれてたんだろう?」

 厨二さんから質問されてるのに、夜盗さんは私に問いかける。


 それにしても、今日会ったばっかりでバカとかおまえとか言われる筋合いないんですけど! 

 き、キスは初めてで、すっごくドキドキして、実はもう一回してみてくれないと何だったかわかんないくらい、ふわふわ状態だったけど……。


「い、生け贄の作法は古から変わってないって……」


「雷鳥にムリヤリされたかもしれない」

 夜盗さんは私にそう言ってからまた厨二さんに向き直る。


「アンタさっきから姫さん見てとっても嬉しそうだけど、自分のことばっかだ。姫さん自身の気持ちは聞かないのか? アンタと一緒に過ごしたいと思ってないかもだろ?」


 厨二さんより私がハッとした。確かにそうだ。

 生け贄という立場だと信じていたから諦めていた、相手が言葉の通じる人間で嬉しいというか、厨二だけど、蛇よりはマシって思っちゃってる。

 雪路姉さんも山に居るなら私も大丈夫かも、とまで思ってしまった。


「いや、その、長老が言うに、今まで断られた例はないって、麓村には長老のご母堂が居られるから、その点心配ないと……」


「あのババア!」

 私の見事な悪態が辺りに響いた。今までの緊張と涙を返せ。


 恐がらせておいて問答無用に誰でも受け入れるように仕向けやがって。あのニコニコ顔の真意はこれか。

 息子が長老を務める嫁の少ない山里に女を供給でもしてる気かよ!

 恋愛の自由はどこにいった、行き遅れのダメ女でも、選ぶ権利くらいあるわ!


「コホン、目隠しを外してもらえませんか?」

 私は打って変わって丁寧に、ふたりのどちらとも決めずに頼んだ。


「あ、姫様、作法ではこのまま、目隠しのまま気持ちよくして差し上げて、『山里に来てください』と某がお願いするのですが……」


「触っていいかどうかも聞かずにか?」

 夜盗さんの皮肉な声。


 こうやって聞いていると、夜盗さんはかなり真っ当な感覚の持ち主だ。

 あられもない、大抵の男性がその気になってしまうようななりで木に繋がれていて、2人っきりの時でもムリヤリしたのはあのキスだけ。

 いや、胸元開いたりもしたか、厨二さんが来なかったら夜盗さんに最後までされてたんだろうか? 

 ただの時間の問題だったんだろうか?


 厨二さんに姫様と呼ばれるのはこそばゆいけどやはり嬉しい。

 それに比べて夜盗さんは最初からおまえ、とかバカ女とかだ。

 私はどうしたいのだろう?


「某には、姫様のお相手候補が2人居ることが問題だと思われる。我が里では今日ここに来る権利を得るために5人と決闘して参った。1人ならば諍いもなく、姫様のお心煩わすこともない。そなた、ここで某と剣を交え、生き残ったほうが姫様を得られる、ということでどうだ?」


 ヤレヤレとでも言いたげな、夜盗さんのため息が聞こえた。

「それがもう、中世の理論なんだよ。この女、アンタが姫様と呼んでる女性は、自分のために競い合って一番になった男が欲しいんじゃない。そんなことで男の器量は測れないってわかってるんだ。それより、ただ自分の気に入った男がいいのさ」


「そなた、なぜそのように姫様の内面のことにまで通じておる?」


「いや、さっき出会ったばっかりだけどさ、村で一番行き遅れた女だぞ? 自分の意見は持っていて選り好みが激しく融通の利かない頭でっかちに違いない」


 酷い言われ方だとは思ったけれど、あながち間違いでもないんだろう。料理できなくてもいいと言ってくれた村の男が1人いたけど、恋どころか尊敬もできずごめんなさいしたのだから。




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― 新着の感想 ―
[一言] 本当にこの二人の男は人間なのだろうか?( ˘ω˘ )
[一言]  いいから、さっさと目隠し取ってやれって(^^)  顔見た途端に「ぎゃあ!」ってなるかもしれないじゃん(^^)
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