パート2:受付嬢は怖い(2)
「タイラ先輩、リアが変に思ってるでしょう。説明をするならちゃんとしてください」
「あっ……そうだね、ごめん」
シュリの言葉で、タイラはようやく冷静さを取り戻した。そしてリアに〝カカシ使い〟についての説明を始めた。
「〝カカシ使い〟は、他のハンターを先に立たせて密かに依頼を処理する神秘的なハンターの噂だよ」
「神秘的なハンターですか?」
「うん。何か理由があって公にハンター活動をすることができない人。それで他のハンターを立てて依頼の受注と補償処理を任せ、本人はそのように代理を通じて受注した依頼を処理、お金をもらうんだよ」
「どんな都市伝説かは大体理解しましたけど、それが一体どうして正義の味方なんですか? むしろ他のハンターを利用する悪い人じゃないですか?」
リアの疑問は実にもっともだった。あそこまで聞くと、それこそカカシを立ててお金ばかりもらう奴のようだから。
だがタイラは「噂になった理由を見るとね」と切り出しながら首を横に振った。
「〝カカシ使い〟の噂はあのアントのように質の悪いハンターのせいで始まったんだよね」
「質の悪いハンターのせいで……?」
「うん。性格の悪いことで有名なハンターが、ある日突然言葉遣いに慎重になった。それに、元々自分がやっていたものより一段階上のランクの依頼を受注すると、これ見よがしにそれをやりとげたよ。前はそんな事例が非常によくあったし、それで実は後ろで彼らを操る誰かがいるんじゃないかな~っての噂になったよ」
「ああ。つまり、その後ろで操る誰かが〝カカシ使い〟ということですね?」
「そうよ。最近は現れなくて噂も下火になったけど、もしかしたら久しぶりにまた現われたかも知れないね。それに〝カカシ使い〟の噂にはもう一つ特徴があるよ」
「何ですか?」
「それはね……あの〝不行跡だったけど急に自制するようになったハンター〟達は出身地はまちまちだけど、行いが改善され、高いランクの依頼を受ける姿が初めて目撃された場所は必ずこのベルドの町ということだよ」
「へぇ……じゃあ、もしや勇者様が後ろで悪いハンターをやっつけているんじゃないですか?」
「そう思う人もいるよ。証拠はないけどね」
2人がそんな話をしている間、アントは魔道具のパネルをあちらこちらに操作して依頼リストを調べていた。紙ではなく、魔法を活用したホログラムで依頼リストを見せてくれる魔道具だった。そしてちょうど〝カカシ使い〟に対する話が終わる頃、依頼を選んだように受付に近づいた。
「来るよ! シュリ、あんたに来てる!」
「シュリ先輩、あの人きっと陰険な事をします! 氣をつけてください!」
「いいから貴方も行って仕事しなさい。先輩もね」
近づいてきたアントは何か悩むように暫く頭を掻いた後、ぞっとしない素振りで口を開いた。
「この依頼を受けてぇんだ」
「ハンターカードと依頼番号を確認致します。……Bランク、ハザードマン討伐ですね。Cランクのアント様の適正範囲を外れる任務となりますが、宜しいでしょうか?」
シュリの言葉に回りが騒がしくなった。中には「まただ」とか「やっぱり」といった言葉がまぎれていた。アントはその反応にいらだちを感じたようで舌打ちした。
「……構んねぇ。できる」
「規定上、Cランクのアント様はBランク依頼を受注することは可能ですが、ハザードマンはBランクでも上位です。また、任務中に不祥事が発生しても、第一にアント様本人の責任となります。本当に受注しますか?」
3年もの間、言い過ぎて口に付いてしまったマニュアル。それをペラペラ言うと、一瞬アントがもどかしそうに額に青筋を立てた。
「できるって言っただろうが!! ……黙って受注処理しろ」
アントは一瞬かっとなって大声で叫んだ。でもすぐにハッと驚き、再び声を下げた。その態度がますます騒めきを強めたが、アントは舌打ちをするだけで無視した。
「確認しました。受注処理が完了しました」
「あぁ。……ちょっと、じっと見るとオメェ、顔なかなかだな」
受注処理が終わってすぐ余裕ができたらしく、アントは陰険な目でシュリを見た。シュリは瞬間的に鳥肌がはらはらと生える気持ちだったが、顔だけは完璧に笑顔を維持した。
「お褒めありがとうございます。お次の方がお待ちしておりますので……」
「おいおい、冷たくしねぇよ。どうだ? 仕事が終わったら一杯やろうぜ」
――こいつ、もっと〝教育〟を頑張らなくちゃ。
シュリはそう思いながら、こっそり指を動かして魔法を使った。誰も見つけられない極少量の魔力だけを使い、〝契約〟でアントと繋いでおいた魔法通信を開く単純な魔法を。
[ほら、でたらめなことしないでって言ったでしょ?]
「うおぉっ!?」
アントは驚いてあたりを見回した。いざ、目の前にいた受付嬢が通信を送っていたとは見当すらつかない様子だった。
――Cランクの端くれが気づくほどな下手くそじゃないから。
[訳もなく娘さん達に迷惑をかけなく、依頼受注が終わったら大人しく出てきなさい。私がいつも見守っているということ、忘れないで」
「……ちっくしょう!」
アントは乱暴に雑言を言いながら振り向いた。いや、振り向こうとした。だがその前にシュリに近づき、腕を抱えたリアは声を上げた。
「おっさん、何やってんですか!」
「おっさ……!? おい、オレはまだ若い……」
「さておいて! このお姉さんが誰なのか知ってて変なことを言っているんですか!? この人、あの勇者様の恋人なんですよ! 勇者様に怒られたいですか!?」
「勇……!?」
アントの顔が白くなった。
やはり勇者の名はアントも無視できないだろう。いや、むしろ曖昧に質の悪いハンターなので、今も活発に活動する英雄を敵に回すことは重荷だろう。ただでさえ勇者は、質の悪いハンターを拳で矯正することで有名だから。
「……くっそ!」
結局アントはドンドンと足音を立てて外へ出た。
小説が面白かったら是非私の他の小説にも関心を持ってくださったらありがたいです!
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