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パート1:可愛い受付嬢の日常(4)

「何が言いてぇんだ?」


「あら、聞く気になったの?」


 アントは口をつぐんでしまったが、シュリはそれを肯定だと判断し、椅子を魔法で作って座った。そして足を組んで片手で顎をつき、反対側の手で指を1本立てた。


「簡単だわ。私と協力関係を結んで欲しいの」


「協力? 何のウワゴトかよ」


「とりあえず聞いて。アンタ達にもそんなに悪い話じゃないから」


 シュリの指が再び魔法陣をくりだした。アント達の緊張が一気に高まったが、今回の魔法は攻撃用ではなかった。


 魔法の光がアント達に宿った。変化を感じて目を大きく開けたのは彼ら自身だった。


「これは……!?」


「あ、アニキ! 力が……力が溢れてっす!」


「そうでしょ?」


 シュリはにっこり笑い、突然火の玉を彼らに飛ばした。油断した彼らはそのまま火の玉に飲み込まれてしまった。


「おい! こりゃなん……は?」


「あ、熱くねぇっすよ?」


 シュリが指パッチンをすると火の玉はすぐに消えた。


 現れたアント達は服や装備がめちゃくちゃに焼けてしまったが、体だけは何の問題もなく元気だった。むしろ力が溢れる感覚が快感を感じさせるほどだった。言葉にしなくても、彼らは火が幻想だった訳ではなく、ただ自分達が強くなったから火に打ち勝ったのだと悟った。


 彼らが状況を理解したことを感じたシュリは、相変らず笑いながら話した。


「どう? そのくらいの力ならBランクの魔物も倒せそうじゃない?」


「……なんだと?」


「簡単に言うと、私と契約を結ぼうと提案するのよ。アンタ達にその程度の強化魔法を提供して、私自身も必要なら喧嘩もするわよ。アンタ達なんかより私がずっと強いというのは大体理解しただろうね?」


「……」


「いいわよ、その鈍い頭でも理解できたみたいで良かったわ。とにかく私の力でアンタ達は普段倒すことができなかった高ランク魔物を倒せて、私はアンタ達の助けで利益を得るのよ。まぁ、もちろん報酬は私がほとんど持っていくよ」


「っざけんな! 仕事は俺達にやらせて、金はテメェが持っていくというんか!」


「当たり前でしょ? 私の助けがなければ、最初から倒せない奴らを相手するんだから。そしてよく知らないみたいだけど、Bランク以上は報酬の格が違うの。私が持って行って残ったものだけでもかなり得するのよ。それまでは持って行かないから安心して。いくらなんでも無給同様の安月給で働けと言うほど薄情な人じゃないわよ、私。そして……」


 突然シュリの目が輝き、魔力がチラチラした。それだけでも周囲の温度が下がったような錯覚とともに、お腹の中が重くなる威圧感が周りを支配した。


「そもそもアンタ達が私に夜襲をかけてきたということ、忘れた訳じゃないでしょ? その気になれば全員を連れて行くか、それともこの場で殺して隠蔽することもできるわよ」


「うぐっ……」


「一度だけ警告するわ。私が提案という丁寧な表現を使ったからといって勘違いしないで。私は卑怯に夜襲をかけてくる奴らを大目に見るほど慈悲深くないし、私に喧嘩をしかけた時点でアンタ達の命の主導権は私にあるわよ」


「脅迫するのかよ!?」


「じゃあこれが脅迫じゃないと聞こえるの? もしそうだったら、そのままどこかの森に行って猿達と一緒に住むのがいいでしょ」


「くっ……」


 シュリが堂々と宣言すると、アントは歯を食いしばった。シュリはそんな彼を安心させようににっこり笑った。


「もちろんさっきも言ったけど、アンタ達にも得がない訳じゃないわ。何よりアント、アンタ一人だけCランクのチームがBランク以上の高ランクの魔物をどれだけ相手にしたと思うの? その経験を積むことだけでも相当なことだわよ。そして残ったものだけアンタ達が持って行っても、元々アンタ達が儲けたのよりはもう少し多いのよ。それだけは保障するわ」


「それをどうやって信じろというんだ?」


「信じたくなければ仕方がないし。私は確かな情報を持っているけど、それをアンタ達に教えるつもりはないわ。アンタ達はただ私の言葉を信じて提案を受け入れるのか、それとも拒絶して〝措置〟を取るかを選択すればいいのよ」


 シュリは最前線のベルドの町の受付嬢。キャリアは3年しかたっていないが、ランクによる収入とかはCランクの端くれのアントとは比べ物にならないほどよく知っている。そもそもそういう仕事の処理を担当する人だから。


 もちろん、それをアント達が知るはずがないし、シュリも教える気などない。


 一方、アントは緊張したような顔で口を開いた。


「〝措置〟だと? 何をすると言うんかよ?」


「さぁね、果たしてどういうことかしら?」


 意味深な笑みと閃く眼差し。それだけでもアント達を脅かすには十分だった。もちろん実際には魔法で記憶を消して、おまけに悪い事をしないように少し制約をかけるだけだが。


 アント達は今シュリを襲ったことからも分かるように悪人だが、かといって殺す気はない。それに治安を担当する人でもないシュリには、そのような権限もない。勝手に殺したら謎の人殺しAさんになるだけだし。


 一方アントもCランクを見た目で達成したのではないか、警戒しながらも条件を突き詰めるほどにはできた。


「オレの装備は先ほどテメェが全部壊したからいねぇ。せめて代わるものを買う金は……」


「あ、それは心配しないでね」


 空中に大きな魔法陣が現れ、その中であっという間に物質が生成・合成され、兵器の形状を作り出した。一般的な錬金魔法だが、そのレベルはずっと高かった。


 やがて作られたのはアント達の武器。その形はシュリが壊した武器に似ていた。でもそれらより遥かに頑丈で、込められた魔力の格も違っていた。アント達は武器を手にしただけでも、その違いを感じて目を大きく開けた。


 しかも彼らがそれぞれ武器を手にした瞬間、武器から魔法陣が浮かび上がって、各自の胸に同じ魔法陣が浮かんで消えた。


「これは……帰属魔法!?」


「何だと? マジかよ!?」


「間違いない!」


 ジョドの言葉にアント達は再び武器を見つめた。


 帰属魔法とは魔法で物の所有権を対象に縛る魔法だ。遠く離れても主人の意思で傍に召喚でき、他人がむやみに使おうとすれば魔法で懲罰される魔法。つまり帰属魔法が刻まれた時点で、その武器は彼らのものになったのだ。


 驚いた目線が集中すると、シュリはにこっと笑いながら口を開いた。


「プレゼントだわ。別の物も後で作ってあげるね」


 アントは唾をごくりと飲み込んだ。


 ――前に使っていた剣よりこれがもっと強力だ。こんな武器をオレのものにする、Bランク以上の魔物狩りができたら……。


 結局彼が提案にとって口を開くまで、そんなに長くは掛らなかった。

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