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パート8:種族と種族(10)

「……可能かどうかは重要ではありません。すべきことをするだけです」


 言葉はそうしているが、ゲントロンは少しもひるまない様子で魔力を引き上げた。彼の魔力が揺れ、結界の中に息詰まる圧迫感が広がった。


 シュリはそれを見て微笑んだ。


「意気込みはいいな……と言いたいのだが、目を見ると最初から勝算を予想しているんだな」


「いいえ。たとえ先代とはいえ、一時期魔王の座に就いていた御方。わしなんかの力で倒せるとは思いません」


「本気じゃないな」


 ゲントロンは2度目の指摘には答えなかった。その代わり、他の魔族に手振りをした。すると魔族達は一斉に手を上げて魔法陣を展開した。


 不意に、シュリはその姿から懐かしい感じを受けた。


 ――青二才(・・・)らに挑戦してもらうのはどれくらいぶり?


 過去まだ魔王になる前の頃、そして魔王になって間もない頃にはこのように挑戦を受けることが多かった。そもそも魔族は議論=決闘と言っていいほど力の論理を好む種族だから。シュリが魔王になった後はそのような基調をかなり抑えていたが、それもシュリが魔王になったばかりの頃には該当せず。


 そしてシュリが魔王として過ごした歳月は200年以上。つまり、幼い魔族は知らない。シュリが力だけを重視した魔族達を黙らせた方法(・・・・・・)を。


 そのためか。シュリは珍しく気持ちが良かった。〈大魔の行進〉を解体しながら魔族を相手にしたストレスが全部なくなったほど。


「根性は気に入ったな。だからお前らに賞を与えるようにしよう」


「賞、ということは?」


「なに、大したことはない」


 他の魔族の魔法陣が完成した瞬間、ゲントロンも両手で魔法陣を展開した。瞬く間に構築された魔法陣が他のものと共鳴して魔力を発散した。


 その瞬間シュリが指パッチンを1度した。シュリを中心に非常に複雑な魔法陣が展開され、周辺に魔力の波動が広がった。


「私は魔王になった後に新しい魔法を作った。付ける名前がなくて適当に魔王魔法と名付けただけだが、これが意外と私以外に使える魔族がいなくてそのまま固着化した」


「それは素晴らしいですね!」


 ゲントロンが手を振り上げた。共鳴していた魔法陣が輝き、シュリの周りで獄炎がわき起こった。


 お構いなしにシュリは言葉を続いた。


「その中でもこの魔法は〈魔王の聖域〉と呼ばれる。この名前を口にするのも、直接見せるのも久しぶりだ。光栄に思うがいい」


 その瞬間、獄炎がシュリを取り囲むと直六面体の結界が展開された。その中に獄炎があふれた。


 内部のすべてを消滅させるまで燃え上がる獄炎魔法、〈地獄の神殿〉。前の大戦争で人間側のSランク級強者を一撃で葬ったという猛威の魔法がシュリを襲った。


 だが……ゲントロンは妙な予感を感じていた。これではシュリを倒すことはできない、と。単に相手が魔王だった存在だからではなく、もう少し……根本的な直感が心の中に警鐘を鳴らしていた。それを振り払う為に、さらに魔法に魔力を込めた。


〈地獄の神殿〉はアマドランの秘術で一時的に力が増幅したゲントロンですらも他の魔族の助けなしでは使えない大魔法。そして歴史的にも燃やせない者はいなかった。魔王であったシュリを消滅させることは不可能でも、戦闘不能には追い詰めることができるだろう。


 ……というのがとんでもない過小評価(・・・・)ということを、彼は夢にも知らなかった。


 


【すべての炎は 私のものだ】


 


 炎の中で響いたのは厳粛な声。


 まるでその声の命令に従うかのように、〈地獄の神殿〉を成していた獄炎が曲がりくねった。


「な……っ!?」


 結界の形状が瞬く間に崩れ、あっという間に一点に吸い込まれた。熱気も魔力も、すべてが魔族達の制御から外れた。


〈地獄の神殿〉が圧縮されて姿を消した席で傷のないシュリが姿を現した。


「どうやっ、て……」


「獄炎とは、目標物が魂まで燃え尽きて消滅するまで消えない究極の炎。お前らが作ったのは獄炎と呼ぶのも恥ずかしい生半可な花火だ。こんなものが私に届くと思ったか」


 シュリは圧縮された獄炎に手を伸ばした。獄炎が動くと炎の魔法陣を描き出した。ゲントロン達のものよりはるかに精巧で精密な魔法陣だった。


「教えてやる。これが本当の〈地獄の神殿〉だ」


「……! 来るぞ! みんな備えろ!」


 魔族達は急いで獄炎魔法を展開した。しかしシュリは手振り1つでその炎の制御権を完全に強奪した。そして防御が剥がれ戸惑った魔族達に〈地獄の神殿〉の獄炎が降り注いだ。


「く……あっ!?」


 炎はすぐ消えた。いや、正確にはシュリが消した。そして魔族は角と翼と尾だけが灰になって消えただけで、他には何の問題もなかった。


 もちろん、彼らが獄炎に耐えたからではない。


「今回は警告レベルでそれだけ燃やした。自分の口で言うのはアレだが、内部を平等に燃やす〈地獄の神殿〉で体の一部だけを正確に燃やす精密性は軍団長級の魔族さえも真似できない絶技だ。お前らがこの絶技についてくる自信があれば、もっと反抗してもいいぞ?」


 圧倒。


 その単語が頭の中をよぎった瞬間、ゲントロンは自分の意志を喚起しようとして大声で叫んだ。


「ぐぁああああ!!」


 数十の魔法陣が展開され、あらゆる火炎が姿を現した。獄炎だけではなかった。平凡な火炎弾から闇より黒い黒炎、虹色に輝く不思議な火まで、火という形を借りたあらゆる魔法がシュリに飛んできた。


 しかし、そのすべてがシュリの目の前に止まった。


「聞こえなかったのか? すべての炎(・・・・・)が私のものだと言った。私に制御できない火が何なのか調べようという目的のようだが……考えが薄っぺらだ」


 シュリの言葉とともに、制御権を奪われた数十の魔法が魔族達に降り注いだ。

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