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パート8:種族と種族(5)

 ――成功したね。


 シュリは本体で鼻血と頭痛に悩まされながらも笑みを浮かべた。


 魔族達に使った魔法は〈空間転移〉。ベルドの町の周辺にいた魔族を好きな所に行かせる為の魔法だった。それを成功させる為に彼らを相手にしていた分身を全部犠牲にしたが、どうせ〈大魔の行進〉を妨害している間は分身をいくつか操ること自体が手ごわい。


 そして魔族達を移動させた場所は……。


「お前らが何故ここに来たんだ?」


「ゲントロン? 何だよ、ここはまさかエンシス平原なのか?」


 ゲントロンは突然現れた仲間達を見て眉をひそめた。逆に、強制的に移動された魔族達はゲントロンを見て驚いたように目を大きく開けた。


 状況を一番先に理解した者はゲントロンだった。


「まさか〈ビサナのゆりかご〉の遮断力を突き破って、こいつらをここに転移させたというのか? バケモノのような奴がいたようだな」


 ゲントロンは転移直前にシュリの分身が使った魔法を思い出した。


 他の魔族を転移させる直前、ゲントロンを相手にしていた分身が〈ビサナのゆりかご〉に向かって何だか分からない魔法を発射した。そして命中とほぼ同時に他の魔族達がこちらに転移した。


 ――転移させる為に〈ビサナのゆりかご〉に一時的に穴をあけたのか? 何とバカな……。


〈ビサナのゆりかご〉は結界魔法のうちでも最上位に属する強力な隔離結界。Sランクだとしても単独で穴をあけることは容易ではない。それをやりとげたということは……。


 ――これはもっと警戒しなければならない。


 一方。ゲントロンがそのようにシュリについて警戒心を高めている間、シュリは素早く様子をうかがっていた。


 魔族の数は合計4人。全員がAランクの実力者だ。反面、シュリが駆使できる分身はただ1体だけ。しかも魔法を満足に使えない状況だ。


 それさえも魔族達がまだ状況をまともに把握できていない上、危機感があまりなくてしばらく小康状態ではあった。しかし、彼らが動き出すとすぐに不利になるだろう。


 そして、ここでシュリが彼らを捕まえておくことができなければ、今度こそ彼らがベルドの町に攻め込むかも知れない。


 ――仕方ないね。今は大事にしている場合じゃないわ。


 決定を下したなら行動は早く。シュリは直ちに魔法陣を展開した。


 展開されたのは、異空間に物を保管する魔法である収納魔法の魔法陣。平凡で基本的な魔法なので頭脳の演算能力もあまり使わない。シュリはそこから2本の剣を取り出した。


 1つは刃の大きさがシュリの体格より巨大な大剣。そしてもう一つは鋭くて堅い直剣だった。大剣の方はバロディンと戦った当時、〈魔装投影〉で投影した魔法陣の大剣の原本である。


 それを見た魔族達が一斉に反応を見せた。


「な……っ!?」


「待って、その魔剣は!」


 ――やっぱり気づくね。


 シュリは苦笑いした。覆面のせいで見えなかっただろうけど。


 一方魔族達、そのうちでも真ん中にいた男が声を高めた。


「空間剣タザイン、不屈剣ガニウッド……『魔王の八剣』をどうやって貴様が!」


「魔王の八剣?」


 ――なによ、それ。初めて聞く名前なんだけど。


 タザインは大剣、ガニウッドは直剣。シュリが取り出した剣の名前だが、魔王の八剣という名前は初めて聞いた。


 幸い、重ねて聞く必要はなかった。


「先代魔王カシュレア陛下は8本の魔剣をお使いになったんだ。しかし、そのうち7本は先代陛下の死後消えてしまった。貴様がどうしてあの時消えた魔剣を持っている……いや、そうか! 人間の奴らが盗んだのか!」


 ――……私が魔剣を持っていたのは事実だけど、魔王の八剣だなんて。そんな名前をつけたことはないんだけど。どうやら他の奴らが勝手に命名したようだね。


 謎は解けたが、その魔族が怒る理由はよく分からなかった。


「アンタ、名前がジトラ……だっけ? それがどうしたの?」


「「しらばくれるな! 魔王の八剣は先代陛下が残した至高の遺産だ! それを盗んだだけでは足りず、我ら魔族の目の前で持ち出すとは……! 陛下の遺志を愚弄することだ!」


「……ぷっ」


「何がおかしいんだ!」


「いや、ごめん。ちょっと面白くて」


 先代の遺志とか遺産とか、笑いをこらえきれない。果たして自分があんなに叫んでいた先代が目の前に堂々と生きていることを知れば、ジトラはどんな反応を見せてくれるだろうか。


 それを見たい気持ちはあったが、今はダメだ。


「ヤロウ……! 魔族を愚弄するな!」


「おい、ジトラ!」


 ジトラは咆哮しながらシュリに襲いかかった。


 ジトラが手にしたのは赤く塗られた魔剣だった。特に強いわけではないが、刃を合わせるだけで気力を奪う厄介な奴だ。


 しかし、シュリは不屈剣ガニウッドでその剣を阻止した。


「そんなによく知っているなら、ガニウッドの前でその剣の能力は意味がないということも分かるよね?」


「く……っ!」


 不屈剣ガニウッド。絶対折れず、いかなる干渉も退ける屈強の魔剣。他の能力はないが、その堅固さと不変性だけは最強だ。


 だが、剣の届かないところまで守る能力はない。


「だがガニウッドは剣が固いだけだ」


 いつの間にかシュリの傍に近づいてきたゲントロンの言葉だった。


 魔力が限界まで圧縮された拳がシュリを襲った。シュリは空間剣タザインを振り回した。タザインの刃が空間を裂き、ゲントロンの拳は紙くずのように割れた。


「くっ! ……空間を切り裂く魔剣、さすがに強力だな」


 タザインの空間突破は空間防御がなければ防ぐことができない。


 この2つの剣は単純で強い。だからこそ魔法を満足に使えない今のシュリであっても、単純に振り回すだけでも威力を発揮できる。


 しかし、相手はAランクの魔族4人。油断のできない相手だ。にもかかわらず、シュリは堂々と笑いながら挑発の言葉を切り出した。


「たった1人を相手にたじろいでるの? 魔族の名前が泣くよね」

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