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パート8:種族と種族(2)

 使い魔達がやられた場所は3ヵ所。正確には外からベルドの町を囲む正三角形の頂点だった。


 ――やっぱり狙うのはこの町だったね。


 シュリは使い魔のほとんどをその3ヵ所に送り込み、さらに一部を広い地域に派遣した。他の魔族もいるかも知れないから。


 奴らは使い魔が見えるたびに魔法で始末していたが、使い魔の頭数が多かった。消滅する前にわずかに見えるだけでも判断材料は十分だった。


 ――3人とも、Aランクの魔族だね。バロディンまで含めるともう5人目かしら? いくら魔族でもAランクはそうありふれた戦力ではないけど。カオンの奴、ずいぶん力を入れるね。


 奴らはシュリの使い魔達を見るたびに始末する一方、3人とも片手に大きな玉を持っていた。まるで夜を凝縮したかのように真っ黒な玉だった。しかし、あっという間に死んでいく使い魔達の視界では、その品物の正体を突き止めることはできなかった。


 だからといって、見当がつかないわけではないが。


 ――黒く大きな玉、Aランク魔族が持っている……あれ、見覚えがあるね?


 似たような秘宝はいくつかある。その中でもささいなことがあれば、現魔王ですら容易に手を出しにくい至高の財宝もあった。


 ――私の考えが正しければ、あれは……。


 しかし、シュリの判断より相手の動きの方が速かった。


 魔族達が持っていた玉が光を放ち始めた。同時に濃密な魔力がその周辺を覆い始めた。彼らに接近しようとした使い魔は皆、魔力の圧力で消滅してしまった。


 ――まあいいよ。位置はもう確認済みだから。


 シュリはすぐに魔族達の元へ〈分体形成〉の魔法陣を電送した。各魔族に1人ずつ、計3体の分身が現れ魔族達に突撃した。もちろん体型と声などは全部違うようにして。


「人間か!?」


「ナマイキな!」


「一人で来るとは、恐怖を忘れた奴だな!」


 魔族達はそれぞれ叫びながらシュリの分身達に向かって魔法陣を展開した。しかし、シュリはその姿を見ても平気で魔法を構築した。


 分身ごとに2つずつ、計6つの魔法陣が展開された。〈地獄の手〉だった。だが魔族達も同じ魔法でその攻撃を相殺した。いや、むしろ数多くの火の玉や雷のような魔法がシュリの分身達を襲った。


 ――ちっ、やっぱり私だってもこれは手に余るね。


 ゲントロンまで合わせるとなんと4人も、4体の分身を操りながら相手する状況。いくらシュリでも容易ではなかった。シュリの額に汗がためられた。


 しかし、最も困難なのは戦闘そのものではなかった。


 ――分身で見たらはっきり分かった。あれを放っておいたらダメだよ。


 魔族達が持っている玉。シュリの記憶通りなら、あの玉は魔法陣構築を自動化する宝物だ。本来なら数十人が動員されるべき規模の大魔法さえも1人で使えるようにしてくれるもの。


 それを、ただの人間でもなくAランクの魔族達が3つも持ってきた。見るまでもなくろくな目的ではないだろう。


 幸いにも今回の魔族3人はみんなシュリの知り合いだった。シュリはその中で最も短気で単純な奴に話しかけた。


「何しに来たの?」


「あーん? オレをバカだと思うのかよ? それを正直に話してるって……」


「あら、人間を相手に下心を隠そうなんて、どうもしょうもない奴だわね」


「あぁん!? このミッドカー様に何だと!」


 ――はい、当籤。


 自分をミッドカーと称した魔族の鼻先に8つの魔法陣が展開された。凄まじい威力を持つ〈滅界八陣雷爆〉の雷電がミッドカーを襲った。


「うぉ!?」


 ミッドカーは急いで防御魔法をかけて攻撃を防いだ。しかし、防御魔法はその一撃で壊れた。その隙をシュリの〈地獄の手〉が突いた。


「くぅっ!?」


 ミッドカーは慌てて避けた。だが完全には避けられず、熱い極炎が彼の肩に触れた。彼の顔が苦痛と屈辱で歪んだ。


「なまいきな!」


 まるで同じ魔法で報復するかのように、〈地獄の手〉の魔法陣が十個も展開された。極炎の拳がまるで集中砲火のようにシュリに降り注いだ。


「ふん」


 シュリは砲火の隙間が最も大きい場所に飛び込んだ。そして極炎を最小限に相殺した後、そのままミッドカーに飛びかかって手を振り回した。その手に〈地獄の手〉の獄炎が宿った。


 シュリはそれでミッドカーが持っている宝玉を狙った。


「おおっと!」


 ミッドカーは宝玉を持った手を後ろに移動させた。そして意気揚々とした顔をしたが、その瞬間シュリの手が彼の肩をぎゅっとつかんだ。極炎が彼の肩を燃やした。


「ぐぅう……っ!?」


「やっぱり弱いね。何を企んでいるのか聞く必要もなさそうだわ」


「このぉ!」


 ミッドカーの体から魔力の刃がハリネズミのように伸びた。シュリは〈地獄の手〉の宿った手でそれを砕きながら退いた。


 挑発をしてはいるが、シュリもそれほど余裕はなかった。一対一だったら早くから宝玉を奪うことができたはずだが、他の魔族達を同時に相手する状況になると魔法を満足に使うことができない。


 だからこそ魔法の代わりに言葉でミッドカーを攻撃した。


「何をするつもりなのかは分からないけど、たかがそんな道具なんかに頼るなんて。魔族の分際で情けないわよ」


「ふははっ! 余裕を見せられるのも今だけだぜ! これが発動したら貴様らは皆死ぬからな!」


 確かに、宝玉から流れ出る魔力は尋常ではなかった。恐らくかなりの大規模な魔法を準備しているだろう。


「あら、そんなにすごいの?」


「当たり前だ! 貴様は我らの進軍のイケニエになるぞ!」


 大規模な魔法。進軍。生け贄。


 シュリは頭の中のキーワードを組み合わせて眉をひそめた。


「アンタ達、まさか……」


「ふふふ、今さら分かったとしても遅い!」


 ミッドカーは翼をぱっと広げて魔力を吹き出した。数十の魔法陣が展開された。


「果たしてこれだけの数の魔法を全部防げるのか!」


 ミッドカーの勢いに乗る叫びとともに、彼の展開したすべての魔法陣が一斉に魔法を発射した。

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