パート7:嵐の前の静けさ(5)
シュリが再びアントのもとに戻ると、彼らは戦いの真っ最中だった。
いや、シュリの予想よりもよく戦っていた。
「くっ、そぉ……! また来やがる!」
アントはそう叫びながら後ろに下がっていった。金属毛のシルバーベアと硬くて強い巨体を持つセミジャイアントが彼を追いかけようとした。だが魔法使いジョドが起こした風がハザードマンの〈腐食の霧〉を動かして他の魔物を牽制した。それらがためらっている間に、アントをはじめとする3人の前列が魔物を攻撃した。
――なかなかいいね。特に〈腐食の霧〉でシルバーベアとセミジャイアントを牽制するのはかなりいい選択だわ。
アント達はかなり疲れた様子だった。しかし、相手する魔物達の体にも大小の傷がいくつもあった。いくらシュリの魔法で補助されているとしても、本来Cランクチームに過ぎなかったアント達がBランクの魔物4匹を相手にここまで善戦するとは。シュリに付きまとった経験がかなり有用だったようだ。
シュリは加勢しようかと悩んだが、周りから押し寄せる気配を感じ取ってむしろ自分をさらに強く隠蔽した。
「ここか!」
他のハンター達が集まっていた。彼らはアント達の奮戦を見て驚きながらも、彼らを邪魔しないように落ち着いて加勢した。戦勢が見る見る傾いた。
――ここはこれくらいでいいね。
シュリは万が一の監視魔法を残してその場を去った。
***
シュリはすぐにベルドの町の本体でギルドマスターの部屋を訪れた。そしてエンシス平原で出会った魔族についてマナードに話した。
「エンシス平原に魔族が現れたと? それも2人も?」
「うん。かなり強かったわ」
「強かった、か。どのくらい? この前のあいつよりも強かったのか?」
「1人は同じくらいだったわ。もう1人の奴は最後に現れて前の奴を連れて逃げただけだから、よく分からないけど……魔力だけを見るとやっぱり同じレベルだったと思うよ」
「Aランクの魔族が2人か。よほど不穏な感じだな。エンシス平原の異変との関連性は調べられなかったか?」
「ごめん。取り調べは生け捕りの上でするつもりだったわ」
シュリはかなり心から謝ったが、マナードはあまり否定的ではない顔で首を振った。
「いや、謝るほどのことではない。どうせ、戦闘中の会話なんかでは情報を吐く奴らではないはずだからな。……そして今の君には限界があるはずだ」
「心配りはありがたいけど、私にはかなりプライドが傷つく状況なんだわよ」
「プライドだけ傷つくのならむしろ良かったんじゃないか。そして魔族がエンシス平原にいたことを知っただけでも収穫だ。昨今の状況が人為的なものである可能性がもっと高くなったからだ」
マナードはそう言ったが、シュリはいまだに不満そうな顔をしていた。
「それはそうだけど、結局実質的には大きな収穫がなかったわ。どうせ魔族が関わっているだろうというのは推測していたんじゃないの」
「それはそうだが、必ずしも収穫がないわけではない」
「うん? なんで?」
マナードは何故か真剣な目でシュリを見つめた。
そのまま黙っていることを約1分。もどかしくなったシュリが何か言おうとした瞬間、マナードが小さくため息をついた。
「正直言うと、君を百パーセント信じられる確信がないからだ」
「うん? どういう意味なの?」
「エンシス平原の異変は魔族が関与した可能性が大きい。……魔族なら誰でもできるからな」
――「……ああ」
――つまり、元魔王である私を疑ってたってことだね。
理解はできた。こんなに近いところに、普通の魔族でもない魔王がいるから。元魔王である彼女は、魔族にできる全てのことを同じようにできるという認識が人間にある。そしてその認識が間違いなく正しいことを、他の誰でもないシュリ自身が認めている。
それにエンシス平原はベルドの町から近い所。ベルドの町を拠点にしたシュリなら往来も難しくない。
もちろん生物を魔物化したり魔物を強化する為には魔族の因子が必要。それは本体の細胞でのみ可能だ。シュリは本体を町に置いて分身だけ外に出すから、本来なら本体のアリバイで証明ができるだろう。
しかし、シュリの空間転移がどれだけ安定しているかを経験したマナードなら、細胞ぐらいは空間転移で分身に送ればいいということぐらいは理解している。
シュリは苦笑した。
「いい機会だから1つ情報をあげるとしたら、私にはエンシス平原を今のような状態にするのは難しいのよ」
「何故だ?」
「私は純魔族だから。魔物の力や半魔族と魔物を区分する基準が魔族の因子比率なのは知っているでしょ? 純魔族の細胞では今のエンシス平原のように微妙な変化を起こしにくいわ。不可能なことじゃないけど、意図的に因子の量を調節するのが本当に面倒なのよ」
「言い換えれば、状況を見れば犯人が半魔族か純魔族かある程度見当がつくというのか?」
「そうなのよ」
「いい情報ありがとな。……まぁ、そうでなくても、君を心から疑ったことはないだろう」
「私なら魔族側と内通している可能性も完全に捨ててはいないはずなのにね」
「それも念頭に置いている。ただ、君に限ってその必要はないことだけは確かだからな。そんな煩わしいことなどする必要もない強者だろ?」
「……そう言われるとどう反応すればいいかちょっと微妙だね」
だがどんな理由があろうとも、マナードが信じてくれるということ自体は悪い状況ではない。ちょっとした感想など、状況の為には後回しにしてもいいだろう。
その後もシュリはマナードといくつか言葉を交わした後、ギルドマスターの部屋から出てきた。
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