パート7:嵐の前の静けさ(4)
魔法の衝突で起こった爆発を通り抜け、炎の鳥の群れがシュリに飛んできた。
シュリは風の刃でその鳥の群れをすっかり散らした。しかし散っていた炎が突然集まり、数本の鋼鉄の剣に変わった。念動力でそれをすべて破壊すると、今度は剣の破片が水の鞭に変わった。
――魔力量や出力はバロディンより不足しているけど、制御能力や術式の精巧さはバロディンより優れているね。思ったよりもっと強いじゃん?
考えている間にも手は魔法陣の展開を止めなかった。熱線砲や氷の槍、華麗で強力な雷電、光線のような勢いで飛んでいく魔弾など。しかしあっという間に浴びせかける魔法に合わせて、相手も同じく魔法を展開して立ち向かった。
「人間のくせになかなかだな!」
相手がそう叫ぶと、突然自分の手に魔法陣を展開して力いっぱい握りしめた。すると拳から猛烈な炎があがった。その炎が渦巻いて、シュリの魔法を全部燃やした。
その光景を見たシュリは目を細めた。
――獄炎? いや、不完全だわ。でも……あれぐらいならまぁまぁだね。
冷静に評価するシュリの本心を知っているかどうか、相手は得意げに笑いながら口を開いた。
「はっはっは! どうだ、これも防げるか!」
相手は拳を振り回した。その動作によって炎がシュリに向けて上がった。まるで拳のような形をした火炎だった。その炎がシュリの魔法を焼き尽くして押し寄せてきた。
しかし、シュリは鼻で笑った。
「不器用だわ」
シュリは相手と全く同じ動作を取った。同じ炎が彼女の手から燃え上がった。二つの火炎の拳がぶつかり合った。
激突の瞬間、シュリの火炎の拳が相手のものを飲み込んだ。それこそあっという間だった。
「なっ!?」
相手は剣状の魔法陣を急展開した。〈魔装投影〉だった。その魔法陣の剣を振り回すと、シュリの発射した火炎の拳が力なく散った。
ただし、それとは別に相手は相当慌てた様子だった。
「人間がどうやって至高の獄炎魔法を……! しかも〈地獄の手〉を俺よりも完璧に使いこなすなんて、貴様いったい何者だ!?」
「……それ本気で言ってるの?」
「どういう意味だ?」
「いや、そんなに粗末な術式しか使えなかったくせにそんな言葉がとんでもないと思って」
「何だと!?」
激怒した相手が〈大炎柱〉を5つ同時に発動した。5つの巨大な火柱が同時にシュリを襲った。
「ふん」
シュリが対抗の為に使った魔法は〈地獄柱〉。1つの巨大な火柱がシュリの前に現れた。その火柱が相手の〈大炎柱〉を簡単に食い止めた。
「バカな! 〈地獄柱〉を1人で使ったと!?」
「なんでびっくりするのよ。うるさいからそろそろ気絶させるわ」
「タワゴトを!」
シュリは魔法陣を4つ展開した。各魔法陣から漆黒の甲殻に包まれた巨大な腕が現れた。その4つの腕の1つが相手を押さえつけようとした。相手が発動した〈地獄の手〉がその腕を押し出したが、腕そのものを燃やすことはできなかった。
「〈マイヤの腕〉まで……! 一体何者なのかは分からないが、油断できる相手ではないようだな」
シュリと相手は同時に互いに飛びかかった。シュリの〈マイヤの腕〉が相手を襲い、相手は魔法陣の剣を振り回して対抗した。相手が魔法陣の剣を振り回すたびに猛烈な炎が燃え上がった。
――獄炎を吐く魔剣だね。あいつが直接使った獄炎魔法よりも獄炎の完成度が高い。
玉艶魔法は魔法と魂まで含め、存在するすべてのものを燃やす究極の火炎魔法だ。しかし、強力であるだけに非常に複雑な術式と高度な制御能力を必要とする。シュリさえも魔力の波長を偽装する為に戦力を発揮することができない今は〈地獄の手〉と〈地獄柱〉くらいしか使えないほど。
相手の獄炎魔法はとても粗末な未完成品だったが、〈魔装投影〉で具現化した剣は完璧な獄炎を誇っていた。
「はあっ!」
短い気合いとともに振り回された魔法陣の剣が〈マイヤの腕〉1つを切り取った。直後、相手は他の腕を警戒して後ろに退いた。
だが、そんな彼をシュリが走って追いかけた。〈マイヤの腕〉達の手のひらに魔法陣が1つずつ浮かび上がっていた。手のひらを基点に魔力の衝撃波を放つ体術魔法、〈螺旋波〉だった。
「ぐぅ……!?」
3つの〈マイヤの腕〉からの強力な〈螺旋波〉が相手を吹き飛ばした。だがその最中にも〈マイヤの腕〉がまた1つ破壊された。
「なかなかだね」
残った〈マイヤの腕〉は2つ。シュリは〈マイヤの腕〉を操作して巨大な腕の連続攻撃をしかけた。
「なめるな!」
相手は勢いよく叫びながら防御魔法陣を展開した。そしてその上に剣の獄炎を加えた。防御魔法陣はすぐに壊れたが、〈マイヤの腕〉も獄炎に焼かれて拳が砕けた。
「ふぅ、これでもう……」
相手は最後まで言い続けることができなかった。急に両側の空間から飛び出した〈マイヤの腕〉が拍手をするように彼を踏み潰したのだ。その一撃で相手は全身の骨が砕けて地面に墜落した。
だがシュリが彼に近づこうとした瞬間、、いきなり他所から飛んできた〈地獄の手〉がシュリを襲った。それを〈マイヤの腕〉で防御している間に、相手の傍に誰かが現れた。
服装は倒れた相手と同じく自分を隠す形で、感じられる魔力量も同様だった。多分相手の仲間の魔族だろう。
その者は倒れた仲間をちらっと見て言った。
「撤退する」
「逃がしてくれると思うの?」
シュリは迷わず雷電系魔法の奥義である〈滅界八陣雷爆〉を発動した。8つの魔法陣が魔族達を包み込んだ。
しかし壮絶な雷電が発射されるより、その者が隠し持つ魔法具を起動させた方が早かった。魔法具の魔法陣が展開し、すぐに2人の魔族の姿が消えてしまった。
シュリはさっそく追っかけようとした。だが空間の痕跡を追跡して彼らの転移先を調べた瞬間、舌打ちをした。
――魔王城ね。最初から帰還用に準備したみたい。
追跡の為に魔王城に行ってしまえば、ほとんど全面戦になってしまう。それはできない。
シュリは心残りを思い出しながらアント達のほうに体を向けた。
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