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パート7:嵐の前の静けさ(3)

 シュリはアント達にいつもより強い強化魔法をかけてくれた。そして彼女自身はその場を離脱した。


 ――あいつらもそれなりに經驗を積んでいたからね。あれくらい強化されたら死ぬことはないはず。


 魔法で状況を把握しているのだから、いざとなれば助けてくれるのもできる。


 とにかくアント達はそのままにして、シュリは魔法で自分の姿を隠したまま辺りを歩き回った。そして平原のあちこちに魔法を設置したり、魔法で小さな使い魔を作って四方にまいた。


 ――エンシス平原の異変……もしかしたら魔族と関係があるかも知れない。調査してみる価値はあるわ。


 確証はないが、魔物の数やランクの増加は魔族との関連性を疑うしかない。魔物とは魔族から由来した生物(・・・・・・・・・・)であるから。


 人間が魔力を使えるのは遺伝的に1割未満とはいえ、魔族の因子を持っているからだ。だが魔族は外見は人間と似ていても、遺伝的には全然違う。それにもかかわらず遠い昔、魔族と人間が交流して子供を産むことができた理由はたった1つ。魔族の遺伝子は|全ての生物と混ざることができるから《・・・・・・・・・・・・・・・・・》だ。


 魔族の細胞は他のすべての生物の細胞を侵食し変異させることができる。異種族交配が可能なのもその為だが、実は交配だけでなく、細胞を注入するだけで変異を起こすことがある。


 そして魔物の正体は、普通の生物に魔族の因子が5割未満に含まれ変質したこと。つまり因子が5割以上なら半魔族、その未満なら魔物であり、半魔族と呼ばれるほど因子が濃い存在なら|自分の細胞で魔物をつくることができる《・・・・・・・・・・・・・・・・・・》。実は先日バロディンがハザードマンを利用したものも、バロディン自身の細胞でハザードマンを作ったのだった。


 ゆえに、エンシス平原の異変も魔族が関わっている可能性が大きい。


 ――あそこかしら?


 平原全域をくまなく調べる勢いで捜索した途中、魔族のものと思われる魔力の痕跡が発見された。それもまるで足跡のようにどこかにつながった痕跡だった。


 ――そんなに古い痕跡じゃない。ならば。


 その痕跡が向かった場所に全力で疾走した。


 稲妻のような速度で平原を横切る数秒、動く魔力反応を発見した。


 波長の微妙な特徴と、何よりも人間にはベルドのような例外を除いてはあり得ない魔力の大きさ。魔族である可能性が高い。


 だがそっちもシュリの接近に気づいたのか、急速に逃げ出した。


 ――逃がさないわ!


 シュリの手から魔法陣が次々と展開された。


 広がったのは〈追跡束縛〉、〈拘束の蛇〉、〈天の咆哮〉、〈抹殺の魔鳥〉。すべて遠距離に特化した魔法だ。相手はまだ肉眼では見えない距離にいたが、シュリは気配をもとに正確に位置を計算して〈空間転移〉で魔法を転送した。


 拘束の為の魔力の鎖と蛇、砲撃に近い雷電、そして自律的に動きながら敵を攻撃する魔力の鳥。普通の半魔族でもこれに耐えられないという自信ぐらいはあった。


 しかし、相手がその魔法にやられることはなかった。


 ――全部相殺した!?


 状況を把握した瞬間、シュリはすぐに〈空間転移〉で奴の目の前に移動した。そして転移すると同時に掌に力を込めた〈螺旋波〉と3重に展開した〈天の咆哮〉で相手を攻撃した。しかし、この奇襲さえも相手が展開した防御の魔法陣によって霧散された。


 さっきと今の防御を見るに、憖じっかな雑卒などではない。


 ――ランクで推算するとAランク……具体的にはバロディンよりやや弱いぐらいかしら。


 外見は〝カカシ使い〟としてのシュリのようにマントや覆面などで包み込んでいた。そのせいで顔も見えず、魔力の波長も見慣れない。恐らく魔王の頃に知っていた魔族ではないだろう。


 判断と同時に魔法陣を展開したが、相手が魔法を使う方がやや速かった。ピュッ、と相手の姿が消えた。


 ――予め〈空間転移〉を準備しておいたかしら?


 かすかに残った空間の痕跡から目的地を推定し、シュリはすぐに魔法を準備した。


 5重の〈空間転移〉。1つにはシュリ自身を、残りの4つには攻撃魔法を乗せた。シュリが相手の目の前に現れると同時に、巨大な火柱と天地をとどろかす雷が相手に落ちた。


「ぐ……っ!」


 相手は防御魔法を5重に展開して防いだ。魔法陣が壊れてマントの先端が少し焼けてはいるが、攻撃は体まで届かなかった。


 シュリはそんな相手を注意深く見守りながら口を開いた。


「なかなか強い奴みたいだけど、私から逃げられるなんて思わない方がいいわよ」


「人間め。裾をちょっと燃やしただけで鼻高高になったな」


「こう見えても弱者に配慮したんだけど?」


 言葉とともに、シュリはさりげなく不意打ちをかけた。


 相手の両脇に突然巨大な手が現れた。その手達は拍手するように相手を押しつぶした。しかし手のひらが合う直前、相手は上に跳躍して避けた。


「生意気な!」


 咆哮とともに発動した魔法は〈大炎柱〉。巨大な火柱がシュリに降った。さっきシュリが転移させた魔法の1つだが、威力はあの時よりやや強かった。


 だがシュリが軽く手を振ると魔法陣が現れ、吹きすさぶ風の刃が火柱を引き裂いた。シュリはそれに止まらず、すぐ跳躍して相手に風の刃を浴びせた。


「通じぬ!」


 相手は同じ魔法でシュリの攻撃を相殺した。そして両手を合わせて印を結んだ後、再び腕を広げて魔法陣を多数展開した。無数の炎の鳥がシュリに向かって飛んできた。シュリはまた風の刃をばらまいたが、炎の鳥は意志があるかのように動いて刃を避けた。


「食らえ!」


 炎の鳥の群れがシュリに押し寄せた。シュリもそれに対抗して新しい魔法陣を展開した。魔法と魔法が衝突し、平原の上空を魔力の光が華やかに彩った。

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