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パート7:嵐の前の静けさ(1)

「ヒャハハ! また1件やったぜ!」


「そっすよ、兄貴。だんだん慣れてきてるみてぇっすね?」


 アントはにやりと笑いながら先ほど倒した魔物を見下ろした。


 大きな体格で、きらめく銀色の毛が目立つクマだった。毛1つ1つがすべて金属であるクマ型の魔物、シルバーベアだ。かなり強力なBランク魔物だが、アント達は特に傷もなくシルバーベアの討伐に成功した。


 その姿を〝カカシ使い〟として見守っていたシュリは1人頷いた。


 ――こいつらも次第に使い出があるね。


 もちろんシュリのバックアップなしでBランクの魔物狩りをするほどではないが、それでも徐々にシュリが隙を埋める余地は減っていた。


 この前からシュリはアント達を連れてエンシス平原に出入りしていた。目的は最近エンシス平原で行われている異変の調査と、その異変を利用した金儲けだった。


 実際に来てみて知ったのだが、確かにこの前の会食で聞いた通りだった。少しだが通常よりランクが高い魔物の出現率が上がっていた。ギルドで積極的に取り組むほど大きな差はなかったが。


 ――もしかするとそれを狙ってわざと変化を抑えたのかも知れないね。


 単なる偶然の可能性もあるだろうが、魔族が動く可能性のある今は小さな変化でも見逃せない。


 1人でそんなこと悩んでると、突然短刀を持ったやせっぽちの男がシュリに近づいてきた。そして豪快に笑い出した。


「はははっ! 姉貴もマジすげぇっすよ。おれらがあんな奴らを相手にできるようにしてやるなんて、こんな支援魔法は初めてっすよ!」


「おい、お前!?」


 彼の気安い態度に、アントを始めとする他の人々は驚いた。しかしシュリは彼をちらっと見て首をかしげた。


「えっと……だから、タークだったっけ?」


「なめぇもぼうっとしてっすか! まぁ、それもありっす!」


「大体は覚えているわ。初めて会った時、カジノで私にかかってきた奴じゃない?」


「そりゃあ忘れてもいいっすよ!」


 タークはまだクスクス笑っていた。他の人達は心配そうな目でシュリを見ていた。しかし、シュリは覆面の下で微笑んだ。


 ――ずっと敬遠されるのもあまり気分がよくないからね。


 もちろん親しくなるつもりは別にないが、タークの態度は少し意外だった。姉貴って呼ぶのもいつからかターク自身が勝手に始めたのだった。


「ところで姉貴、1つ聞きてぇことがあるっすが」


「ターク、あまり……」


「大丈夫よ。それよりアンタ達こそ、一体私のことをどう思っているの? これぐらいの会話で怒るほど心が狭い人に見えたの?」


「ヘヘっ、やっぱ姉貴は豪快っすね。そこで、質問なんっすが……姉貴はどうやってそんなに情報を分かっすか?」


「何の情報?」


 聞き返したが、事実シュリは彼が何を言いたいのかすでに気づいていた。


 続いて出た言葉はまさにシュリの予想通りだった。


「正確におれらにできるBランクの依頼だけ持って来てたっすね? その日出た依頼をすぐに受けろと言われたこともありっす。姉貴はおれらと一緒にギルドに行かねぇっすのに」


 モジモジしてはいたが、他の人達もタークの言葉が気になるようにこちらに目線を向けていた。


 ――理由って言っても、私が受付嬢だからなんだけど。


 当然だが、ギルドが管理するすべての依頼は職員が管理している。特に受付で働く為には、すべての依頼を熟知していなければならない。


 ――実際には別にすべてを覚えてはいない子もいるけどね。リアとか、リアとか、リアとか。


 もちろんシュリは掲示される依頼だけでなく、まだ依頼に上がる前の調査情報や外部からの話とかをすべて把握している。目的は当然有利な位置で依頼を先取りする為だが。


「それに姉貴、お金の計算も正確っすよ。最初に姉貴が言ったとおりに分けているじゃないっすか?」


「まぁ、情報って大切だから……としておこうか。アンタ達も長く頑張って働きたければ、情報に関心を持つのがいいわ。どんな手段を使ってでもね。……あ、不法な手段を除いて」


「えい、そんな面倒なことをアント兄貴がするわけねぇっすよ」


「私がいない時の為にもしておいた方がいいわよ」


「え? 姉貴まさかおれらを捨てるつもりっすか!?」


「……あのね、まさか私が一生アンタ達と一緒にいると思っているの? 今すぐ捨てたりするつもりはないけど、だからってアンタ達にずっとくっ付いている理由もないのよ」


「姉貴とくっついている方が楽っすよ~」


 ――こいつ、ある意味すごい奴だね。


 シュリは呆れて苦笑した。


 しかしちょうどその時、受付嬢として勤務していた本体の方の空気が乱れてきた。


「だ、大丈夫ですか!?」


 ハンターギルドの入り口の方が騒がしかった。シュリはそちらを振り向いたが、人に遮られてよく見えなかった。声からみると、リアがそっちにいるのだろうか。


 やがて近付いた人々は普段ベルドの町で活動しているハンターチームの1つだった。実力はアント達に似たCランクチームだが、アントなどとは比べものにならないほど誠実で、いい人々だ。


 問題は、彼らがボロボロになって戻ってきたことだった。


「リア、どうしたの?」


 シュリは受付から出て、すぐに彼らに近づいた。


「わ、分かりません! 来る時からこの調子で……」


「どいて。貴方は治療チーム手配して」


 シュリはすぐに彼らの状態を調べた。


 皆同じように血まみれになり、格好は非常に悪かった。リーダー以外は力尽きたのか倒れてしまった。しかも魔力も使い切ったようだった。


 暫く見ていたシュリは眉を顰めた。


「今すぐ治療を受ければみんな命は取り留められるわ。でも治療を正しく受けられなければ危ない。リア!」


「連絡したんです! すぐに来ると思いますよ!」


「よくやったわ。え、そしてリーダーさん? 話はできるでしょうか?」


 唯一倒れなかったリーダーに話しかけると、彼は苦痛に呻きながらも小さく頷いた。


 そんな彼に、シュリはさっきから気になっていたことを聞く為に口を開いた。

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