パート6:対策(5)
「まぁ、それはいいの。そんなこと以外にも聞きたいことは多いじゃない?」
「いい。次に行こう。なぜ魔王の君が人間になりすましているんだ?」
「旦那様の理想は貴方も知ってるじゃない? 人魔が長い憎悪を終えて互いに和合すること。私はそれ理想に同感したからここに来たの。私の死を偽装して魔族達を萎縮させ、旦那様の遠大な理想を助ける為にね」
「魔王が……和合を願ったと?」
「そうでなかったら、旦那様が生まれる前に私の手で人類を滅亡させたわ」
「……」
高位の魔族はとても強い。人間の基準でSランクに相当する魔族軍団長が、かなり大きな国を1人で滅ぼすことも可能だったほどだから。
その魔族の頂点に立つ魔王なら、人類を滅亡させるという言葉も現実性があった。
「本当に望むのはそれだけか?」
「ちょっとした欲はいくつかあるけど、根本的な目的はそれだけだわ。証明する術はないけどね」
「一応それが事実だと仮定しよう。それで? さっきワタシを味方に引き入れると話をしたが、ワタシに何を望んでるのか?」
「ベルドの町はこれから戦線になるはずわよ。そしてベルドの町のハンターギルドマスターである貴方の役割はこれから重要になるよ。だから、貴方は私が提供する情報をギルドマスターとして表面で管理してちょうだい」
「元魔王が提供する情報か。まさに貴重な情報だな。だが人間が簡単に得られる情報ではないだろ。……ああ、それでギルドマスターのワタシの助けが必要なのか?」
「そうなのよ。調べ物をでっち上げたり、疑いを抑えたりする役割を担ってちょうだい。そして……私が力を使う時、それをごまかしてくれる役割をしてほしい」
「ごまかす? 何を?」
「私の魔力の波長を見て」
シュリはわざと魔力をちらっと見せた。魔法を使うことも、魔力そのもので何かをするのでもなく、ただ見せる為の行為だった。しかし、それだけでもマナードに意思を伝えるには十分だった。
「……そういえば〝カカシ使い〟は会う度に魔力の波長が変わる奴だったな。今君の波長は戦争の時に感じた魔王の波長と同じだ。だが〝シュリ〟のものとは確実に違うぞ。……常識が崩れる気分だな」
「心配しないでね。これを真似するには少なくともSランクにならないといけないから。それにペナルティも深刻だし。まぁとにかく、私は魔力の波長を偽装することができるの。でも波長を偽装した状態じゃ戦力を尽くすことができないわ。でも魔族達に対処しようとすると、力を解放しなければならない瞬間がいつかは来るはず」
「そんな時、波長を隠す手段を提供してほしいというのか。魔力の流れを遮断する結界が適当だな。……確かに。そんな部分の助けが必要なら、ギルドマスターのワタシより適任の人はいない」
「そうでしょ?」
マナードは暫く黙っていた。表情や気配で悩んでいるとは感じられたが、果たして彼が前向きに検討しているかを知るすべはなかった。
――率直に私としては隠したかったけどね。
シュリはベルドを睨んだが、ベルドは微笑むだけだった。
――クソ、どうしてこんな奴に惚れてしまって。
だが、ベルドと一緒じゃなかったら自分はまだ魔王として人間と対立していたのだろう。仕方がない。
そんなことを考えていたら、マナードは考えを終えてまた口を開いた。
「いい。協力しよう」
「信じてくれるの?」
「……いや。まだ百パーセント信じられないんだが、もしも勇者ベルドと魔王が協力して人間を脅かすのなら、どうせ人類には対抗する方法がないぞ。少なくとも表面的には人類と敵対していないから、君達の言うことが事実だと願いながら協力しよう」
「ありがとう」
「バロディンの奴を行かせるのも同意する。最強の魔族が人間達の間にある以上、あいつ1人くらいは帰ってもしなくても別に違いもない。君が人間の味方であろうとなかろうと関係なく、な。……それはそうと、そろそろバロディンの奴から得た情報について話をしようかと思うのだが」
「いいわ。私もちょうどそろそろやる時になったと思ったわよ。うちの旦那様もいるし」
シュリはバロディンの記憶から得た情報を簡単に説明した。
1つ。3年間空席だった魔王の座に新しい魔族が上がった。
2つ。新しい魔王はかつてシュリが魔王だった頃、魔族のナンバー2だったカオナード・ディスリム。
3つ。魔王カオナードは再び戦争を起こそうとしているようだ。
「カオナードだと……!? あいつ、生きていたのか。そして戦争再開とは……一介のギルドで手に負える事案ではないぞ。シュリ、君が直接魔王カオナードを止めることはできないのか?」
「それは無理。バロディンの記憶にはなかったけど、あいつが3年も経った今になって魔王になった理由は大体見当がつくわ。私の推測では、私さえ彼を簡単に止められないの。1対1ならそれでも私が勝つだろうけど、軍勢全体を相手にしながらあいつを制圧することはできないわ」
「そうか。それならやはり国のレベルで備えなければならないな」
「あ、それなんだけど」
「何だ?」
「国への報告は見送ってほしいよ」
「何故?」
「今国王の耳に入ったら戦争に備えるしかないからね。魔族達と全面戦争をしたくはないよ」
「……のんきなことがよく言えるんだな。そうして取り返しがつかなくなったらどうするんだ?」
「僕に取り返しのつかないほどのことなら、他の人が何を何とかしてもダメだよ」
「……」
マナードは言葉に詰まった。
しかし、勇者ベルドは規格外。端的に言えば、この国の総戦力よりベルド1人の方が強い。そんな意味で彼の言葉は正確だ。
「もちろんいつまでも話すなということではないよ。ただ、こちらである程度の準備は前もってしておこうということだよ。国王が何の決定を下しても対応できるようにね」
「意図は分かった。とりあえずその部分については次にもう1度議論することにしよう」
そんな風に、3人はこれからのことを深く話し合った。
……結局シュリとマナードの会食復帰が遅れ、あらゆる疑いをかけられたというのは別の話。
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