パート6:対策(4)
2人の注意が自分に集まっていることを確認した後、マナードはまじめな顔で話し続けた。
「特に犯罪を謀るものでなければ、ワタシはいつでも君達を助けるぞ。だから、言いたくない事情があるなら、あえて秘密を明らかにする必要はない。もちろんワタシが助けられる限度内の話だが」
彼の態度にシュリはつい苦笑してしまった。
――確かに、ギルドマスターは元々こういう人だったよね。
シュリはそう思いながらも、依然として一抹の不安を拭いきれずにいた。
ベルドが言うことは実は簡単だった。シュリが魔族であることを明らかにし、さらにシュリが魔族の攻撃を防ごうとしていることを十分に伝えることだ。
本格的に魔族の攻撃に対処しようとすると、シュリが持っている情報も共有した方がいい。しかし、その情報は大半が人間が知ることが難しいものだ。すなわち情報源を疑われかねないのである。
もちろん、人類の救援者である勇者ベルドならそんな疑いを受けない。だがベルドは忙しい。率直に言うと、町に留まる姿を見ることが難しいほどだ。
そんな点からは適切な信頼度と権限を持って、情報の出所も適当にごまかすことができるマナードは適任ではある。
だが……。
――私の種族そのものが問題だもの。
バロディンに対する態度からも分かるように、マナードは魔族という理由だけで差別したりはしない。
だが魔族と人間の間に深い憎悪の溝があるのは事実。そしてマナードもまた、そんな敵対種族として魔族を警戒することは同じだ。いや、むしろギルドマスターという立場だからこそ、魔族をうっかり信じてはならない人でもある。
そして実はシュリは受付嬢の生活がとても気に入っていた。
――まかり間違えてその生活を見失うことになったら……。
「大したことないよ、マスター。シュリが魔族という話なんだ」
その時、ベルドが爆弾を投げつけた。
一時の静寂。しかし、沈黙の理由はそれぞれ違った。そして沈黙を維持する時間も。
「貴方あああぁぁ……!! 何を勝手に言うのよ!!」
「いや、でもお前一度悩み始めたら長くかかるんだろ? そんな時間もないよ。会食中だったんだって?」
「だからそれをどうして貴方が勝手に決めるのよ!」
一方、マナードはずっとぼんやりと固まっていた。そしてシュリがベルドの胸ぐらをつかもうとする頃になって、やっとまた動いた。
「……待って。すまない、今ちょっと居眠りしてみたいな……」
「ん? シュリが魔族って言ってたのが夢だと思った? 違うから心配するなよ」
「こら!!!」
シュリはまたベルドの胸ぐらをつかもうとした。しかしマナードの雰囲気が変わったことに気付き、動きを止めた。
マナードの目に宿ったのは敵意……ではなかった。しかし好意でもなかった。恐らく警戒心、そして疑念くらいだろう。
シュリとしては不本意な事態にため息がでたが、すでに口にした言葉をなくすことはできない。
「説明できるか? どうしたことか」
「それは……」
「ちょっと、シュリ。俺が説明するよ」
ベルドはシュリの肩に手をのばして制止し、前に出た。そしてにっこり笑った。
「戦争中に会ったし、恋に落ちて連れてきたんだよ」
「それが説明になるか――っ!!」
シュリはこれ以上我慢できず、魔法で巨大なハリセンを作り出してベルドの頭を殴った。
……だが、そんなコントではベルドの投げた爆弾は収拾できない。
「……ふう。後で特大スペシャルパフェ買ってちょうだい」
「プレミアムトッピングまでのせてくれるよ。代わりにきちんと説明しなければならないよ?」
「コール」
シュリはまたため息をついて指パッチンをした。今まで隠されていた角と翼と尻尾が明らかになった。
疑う余地のない魔族の証拠。しかし、マナードが驚愕したのは単にその為だけではなかった。
「ま……待って、お前は……」
「シュリ・ディネットは偽名だわ」
「あ、シュリは愛称なんだよ」
「ちょっと黙って。……真名はカシュレア・ディアボリス。私の顔、見たことあるでしょ? 元人類連合軍第3連隊長のマナード・ロンバイン」
「魔王……!!」
やはりマナードも今回は黙っていられなかったのか、後ろに大きく退いて魔力を高めた。武器は持ってこなかったが、今にも魔法を撃ちそうな勢いだった。
でもシュリが小さく手を振った瞬間、マナードが引き上げた魔力がもろくも散った。
「な……っ!?」
「意味のないことやめてね。そして私は敵じゃないの」
「……」
シュリはマナードがもっと抵抗をすると思った。だが彼が思ったより大人しく姿勢を解いたから、実は少し驚いた。
「……マスター?」
「何を狙っているのかは知らないが、本当に魔王なら……その気になればワタシなんかこの町とともに一瞬にして消滅させるだろう。そうしないのを見て話は聞こう。……その前に」
マナードはもう一度シュリの顔を見た。
いくら見ても、角を抜けばこれまで見てきた受付嬢のシュリの顔だ。でもその顔は、大戦争末期にマナード自身が直接見た魔王の顔と同じだった。
シュリはマナードの目線を見て彼の疑問に気づいた。
「顔のこと? 私はこのように魔族の特徴を完全に現している時だけ魔王として認識される魔法を使っているのよ。魔族の特徴さえ隠せば、元の顔をそのまま出していても魔王カシュレアと認識できない。言わば、相貌失認を起こす魔法と言えるかしら。1度でも魔王カシュレアだと認知してしまった人には通じないけどね」
「何故そんなわずらわしい事をするのか? 外見を変えればいいだろう?」
至極当然の疑問。そして純粋に能力的な意味の問いだった。
だがその質問を受けた瞬間、シュリはベルドの方をちらっと見て、突然顔を赤らめた。
――言えるはずがないでしょ。愛する人が「お前の美しい顔を他の人にも見せてほしいよ」って言ったからだとはね!
……魔王の威厳とプライドの為でも、どうしてもその真実を口にすることができないシュリだった。
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