パート6:対策(3)
シュリ・ディネット。彼女に初めて会った時に感じた微かな違和感を、マナードはまだ覚えている。
3年前、大戦争が終結した後、故郷に帰ってきた勇者ベルドの恋人。ベルドは王都で彼女に会ったと説明した。
実際、彼女は王都についてよく知っていた。そしてマナードがコネを通じて調べた結果からも、彼女は確かな経歴と過去を持っていた。
しかし、マナードはその過去そのものに違和感を覚えた。
具体的にどんなことが変だと思ったのではなかった。見かけは完璧な経歴だった。ただ、何と言うか……だからこそ、それがまるで事前に練られた脚本のような気がした。
しかも書類上の経歴や行跡が完璧なのに比べ、個人的に彼女を知っている人は疑わしいほど少なかった。もちろん公開された行跡と関係のある人は彼女を知っていた。しかし、間接的に知るかも知れない立場にあった人々は、全員彼女を知らなかったのだ。
そんな不思議を感じたが、だからといってそれをはっきりと証明する方法はなかった。しかも、彼女を紹介したのは人類を救った赤雷の勇者ベルド。なのでマナードはその違和感を1人だけ抱いたまま彼女をハンターギルドに受け入れた。
「……正直少し疑ってはいた。君はただ者ではないだろう、と」
「あら? どうして?」
「それはあとで説明しよう。疑いといっても過去に対する小さな疑い程度だ。まさか君が本格的な戦闘ができる存在だとは思わなかったからな。3年間、受付嬢の仕事も立派に遂行したし。……先日魔族を見ておびえた演技も完璧であったな」
「ふふ、演技はかなり自信があるわよ。それよりそろそろ本論に移ろうかしら。……それで? バロディンを送る作戦、許可する気になったの?」
「そうだと思うか?」
「いいや、まだ足りないでしょ?」
「よく知っているな」
マナードは話を続ける前にため息をついた。まるで悩みと迷いをそのため息に盛り込んで流そうとするかのように。
そうでもしなければ、今からする質問の重さに耐えられない。
「勇者ベルドは君が〝カカシ使い〟だということを知っているか?」
この質問の答えこそ最も重要だ。
もしベルドが知らなかったら、シュリはベルドさえだまして忍び込んだ可能性がある。それなら見過ごすわけにはいかない。しかしベルドが知っていたら、勇者であるベルドの意図をもう一度調べる必要がある。
もちろんシュリ自身の口から聞くのは信頼性の問題があるが……その心配をする必要はなかった。
「知っているよ」
答える声はシュリからではなかった。むしろマナードの後ろからだった。
振り向いたマナードは見た。シュリの強力な結界を無視して開かれた空間転移の門を。そこから出てきた人を見た瞬間、マナードは目を大きく開けた。
強烈で鮮明な赤発赤眼とすらりとした背丈。バランスよく鍛えたがっしりした体。そして神秘的で人目を引く容貌。服装だけは軽いけど、服など要らないほど派手で印象的な男。
史上最強の人間。人類の救援者。赤雷の勇者。血風の勇者――数多くの異名を持っており、誰も否定できない人類の最強者。
勇者、ベルド・リオネスト。
「久しぶりだよ、ギルドマスター」
「ベルド。帰ってきたのか?」
「まだだけどね。ここがティロンの町だってこと、忘れた?」
「そういえばそうだったな。シュリの瞬間移動があまりにも楽で早くて忘れてしまったぞ」
「そりゃそうだよ。まぁ、まだ帰還したわけじゃないけど、遠征任務は終わったよ。整理の真っ最中だったんだ。 多分明日正式に帰還するよ」
「そりゃ嬉しい話だな。今の状況は知っているのか?」
「うん、シュリから聞いたよ」
ベルドはシュリを見て微笑んだ。するとシュリは恥ずかしそうに顔を赤らめて微笑んだ。
――このギャップだけは適応できないな。それが可愛いところではあるが。
いつも落ち着いて成熟したシュリがはにかむ少女のように変わってしまう姿。シュリ自身は知らない様子だったが、実はベルドの町のハンターギルドでは隠れ名物扱いされている。
「それはそうと、先ほど言った〝知っている〟というのは、シュリの〝カカシ使い〟の活動のことか?」
「そうよ。シュリがかなり力を抑えてそんなことをしているのは俺も知ってるよ」
「かなり力を抑えて……か」
「ちょっと、ベルド。そこまで言う必要はないでしょ」
シュリは可愛らしく頬を膨らませた。するとベルドは苦笑して謝ったが、別にすまなさそうな顔でもなかった。
「でもシュリ、そろそろ明かす時期になったんじゃないかな?」
「いや、そんなことはできないわ。マスタ一がいい人なのは知っているけど、それとこれは場合が違うの」
「でもこれ以上隠しておけないよ。せめてお前の望み通り、カオナードの奴に対処したいのならね」
「それは……」
シュリは顔を曇らせた。
いざ話の話題であるようなマナードは何のことか理解もできなかったが。
「待って。一体何の話をしているんだ? 見たところ、何かまた秘密があるのか?」
「秘密ぐらいなら誰でもあるわ。貴方もそうでしょ?」
シュリは鋭い物腰で言い放った。しかし、ベルドは彼女とは違って苦笑いしながら肩をすくめた。
「ずっとそういうことはできないよ、シュリ」
「貴方も知ってるでしょ。それを話すなら……」
「危険の負担があることは俺も理解しているよ。でも今の状況は仕方がないじゃない? 考えてみてよ。マスターを味方に引き込むことができれば、どれだけ役に立つだろうか」
「それはそうだけど……」
シュリは依然として躊躇している様子だった。
マナードとしてはまだまだ話についていけないでいたが、〝味方〟という単語からある程度状況を推測できた。
それでマナードは仲裁をすることにした。
「待って」
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