パート6:対策(2)
「いらっしゃいましたね、マスター」
どこかにある、とある部屋。先にそこで待っていたシュリの前、その床に魔法陣が現れた。そこでマナードの姿が現れた。
「こんなにスッキリ効率的な瞬間移動とは。〝カカシ使い〟、やはり尋常ではない奴だな。ところでここはどこだ?」
「ティロンの町の旅館ですの」
「ティロン? エンシスの平原を挟んでベルドの反対側にある町? そこまで一瞬にして来たということか」
逆転のAランクでも、瞬間移動はそれほど簡単に見られる魔法ではない。それに魔法制御が下手だとすごく不安定で乗り物酔いもひどい魔法だ。そういう瞬間移動から何も感じないとは、〝カカシ使い〟の魔法制御力は一体どの程度なのか。
――みたいな考えでもしている顔だね。
シュリがそう思って苦笑しているうちに、マナードは表情を整えて本論を切り出した。
「〝カカシ使い〟に聞いた。シュリ、君があいつの正体を知っていると」
「ええ、そうですわ」
シュリは素直に頷いた。
バロディンをスパイとして使う作戦。マナードがその作戦に同意するように掲げたエサ。それがまさに〝カカシ使い〟の正体を公開することだった。
〝カカシ使い〟の存在を知るマナードですら、彼女が具体的にどれだけ強いかは分からない。他のハンターを利用してランクの高い魔物を狩るという点で、少なくともB以上と推測しただけ。
そんな存在がAランクのバロディンを倒して生け捕りにし、どんな手を使ったのかスパイ作戦の同意まで取り付けた。正体も分からない者がこんなにまで活躍したら、期待よりもまず警戒心から生まれるのがギルドマスターとしての当然の反応だ。
――とはいえも、本当にそれで納得してくれるかは確信がなかったけどね。
〝カカシ使い〟の正体が分かっても、接近や統制ができなければ意味がない。しかも当時シュリが掲げた正確な条件は「〝カカシ使い〟の正体が分かる人を教えてくれる」ということ。つまり、その場で直接教えてくれなかったのだ。
サブプランはあったが、それはリスクが大きすぎて、なるべく使いたくなかった。それでシュリはメインプランを受諾してくれたマナードに内心感謝していた。
もちろんマナードも素直に頷いてばかりではなかったけど。
「〝カカシ使い〟にも話したが、その魔族……バロディンを返すか否かは〝カカシ使い〟の正体が何かによって変わるぞ。シュリ、君との関係もな」
「その程度は私も理解しますの」
そう。マナードが当時掲げた条件は保留。詳しいことを聞いた後に決めるということだった。〝カカシ使い〟の正体だけ聞いてバロディンの派遣を断ってしまうとシュリには損ばかりだが、その時は諦めてサブプランを発動するつもりで受諾した。
それに、マナードが利益だけを手にして逃げるものではないという程度の信頼はある。
「ギルドマスター」
「どうした?」
「緊張してくださいね」
「はぁ?」
シュリは指をぴくっと動かした。その簡単な動作だけで部屋全体を魔法陣が覆い、強力な隠蔽の結界が展開された。
その展開速度、そして魔力の気配が一切感じられないほど完璧で徹底した魔力制御。マナードがそこに驚愕している間に、シュリはにっこり笑い、拳を握った。
「そうでなければ……怪我しても知りませんよ?」
パァアン!!
澄んだ大きな破裂音が部屋に響き渡った。シュリが閃光のように放った拳を、マナードの手のひらが防ぐ音だった。
2人の距離は六歩ぐらい離れていたが、シュリは視認すら不可能なスピードで近づき、拳を振り回った。それを奇麗に防いだマナードも普通ではなかったけど。
一方マナードはシュリがいきなり自分を攻撃したことよりも、普通の受付嬢だった彼女の豹変に驚愕していた。それほど彼女は速く、拳は重かった。表向きには平然を装っているが、拳を防いだ手はかなりズキズキした。
「シュリ、急に何を……」
「ごめんなさい。ただ見せるだけでは信じられないと思ったんですの」
「見せる、だと?」
「はい、これ」
シュリは魔法陣をゆっくりと展開した。まるでわざと見せるように。さらに、術式は暗号化すらされていなかった。おかげでマナードはその魔法が何なのかすぐに気づいた。
「これは〈分体形成〉か?」
「そうですわ。やっぱり知っていますわね」
完成した魔法陣から魔力の粒子が出てきた。それはシュリの傍に集まって人間の形象を作った。体型が分かりにくいマントと、顔を覆うフードと覆面。〝カカシ使い〟の姿を。
「……それは、まさか……」
「あら、もし追加で説明が必要ですの?」
シュリは本来の声で平気で言った。……分身で。
〝カカシ使い〟から流れてくるシュリの声にマナードが困惑している間、今度はシュリの本体が口を開いた。
「あら。あの剛健なギルドマスターもそんな顔をするね。なかなか可愛いよ?」
バロディンを尋問した当時の〝カカシ使い〟の声だった。
シュリはまだ困惑しているマナードを見てクスクス笑った。
「そうしてるとかなり新鮮なのよ。普段にそういう姿も見せすると職員も貴方をもっと身近に感じるでしょ?」
分身を消し去り、本来の声のまま〝カカシ使い〟の言い方をした。そこまで行ってやっとマナードはため息をつきながら口を開いた。
「……つまりシュリ、君が〝カカシ使い〟ということか?」
「驚いたの?」
「驚かないと思ったのか?」
「まぁ、やっぱ私もそう思うほど良心がないわけじゃないの。でもそんな貴方は比較的平気に見えるけど?」
「ただの習慣に過ぎない。こう見えても中はあまり平穏ではないぞ」
マナードはもう1度ため息をついた。そのため息を最後に、彼の顔はまた普段の謹厳な顔に戻った。
「いいわ。話の用意ができたみたいだね」
シュリは微笑んでそう切り出した。
新作を始めました!!
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